中国では古くから「一滴の水のような恩も、湧き出る泉のような大きさでこれに報いるべし」という格言があり、誰もが恩を知り、感謝を表すことができれば、安定した社会が築けると信じられてきました。しかし、中国共産党支配下の中国社会はどのように変わってしまったのでしょうか。

 最近、江西省撫州市(ぶしゅうし)で起きた事件が中国国内で大きな話題を呼んでいます。路上を歩いていた高齢者の李さんが、自らの不注意で転倒し、立ち上がることができなくなってしまいました。その時、たまたま電動スクーターで通りかかった17歳の少年・孟欣軒(もうしんけん)さんが、好意から李さんを助け起こしました。しかし、驚いたことに李さんは孟欣軒さんが自分を倒したと嘘をつき、さらに、自分に恩恵を与えてくれた小さな恩人を何度も悪意を持って平手打ちし、感謝するどころか暴力を振るい、金銭的な賠償まで要求しました。

 この一部始終を撮影した動画が中国のネット上で広まり、事件の詳細が明らかになりました。動画には、老人(李さん)が自らのバランスを崩し、後方に倒れこんだところ、白い服を着た少年(孟欣軒さん)が電動スクーターで通りかかり、老人が起き上がれないのを見て、すぐに電動スクーターを止めて助けに向かい、さらには老人の携帯電話を使って家族に連絡を取るなど、手助けを惜しまず、しばらくその場で付き添っていた様子が映っています。

 ところが、老人は立ち上がった後、少年が自分をぶつけて倒したと断言し、少年を何度も突き飛ばし、平手打ちを繰り返しました。少年の顔は赤くなるほどでした。老人の家族が現場に到着すると、少年に対して、老人のケガを診るために病院へ同行するよう要求し、さらに賠償金まで求めました。

 この一連の出来事に衝撃を受けた少年は、泣きながら警察に通報することを決意しました。事件が起きた場所は監視カメラの死角にあったため、少年の潔白を証明することが一時は困難と思われました。幸いなことに、警察は近くのレストランの駐車場に設置されていたカメラを見つけ、事件の全容を撮影していた動画を確保しました。それにより、少年が無実であることが証明されたのです。

 恩人を誹謗中傷し暴行を振るった老人とその家族は、証拠の前に頭を下げて過ちを認め、少年に謝罪し、感謝の意を述べました。老人が少年を誹謗中傷した理由として、当時老人が酒に酔っていたと家族が主張していました。

 老人の頭部のケガは回復した後、彼とその家族は少年に対して賠償を行いました。8月19日、老人は他人に対する暴行の罪で地元の警察に9日間の行政拘留処分を受けました。

 少年は、善意が裏切られたにもかかわらず、「後悔していない。同じような状況に遭遇したら、やはり他の人を助ける」と語りました。

 この事件の動画を見た多くのネットユーザーから次のようなコメントが寄せられました。
「本当に心が痛む出来事だ。もし監視カメラがなかったら、少年は冤罪(えんざい)を晴らすことができなかっただろう」
「監視カメラがなければ、本当に冤罪だっただろう」
「この老人は数ヶ月の懲役刑か罰金を受けるべきだ。そうしなければ、誰も助けようとはしなくなるだろう」
「老人は少年の顔を殴ったのだから、傷害罪で訴えることもできるはずだ。最初は相手の責任だと主張していたのに、監視カメラがあると分かった途端に自分が酔っていたと言い出すなんて、不合理だ。彼を許してしまえば、また他の人を害するだろう」
「こんな『当たり屋』のような事件がよく起こる。助けるべきかどうか、ますます難しい選択になっている」

 本来、恩返しは伝統的な美徳であり、人間として当然の行いです。しかし、中国共産党が中国を支配して以降、わずか70年で5000年続いた神伝文化(神から伝わってきた文化)をほぼ完全に破壊し、憎悪に満ちた共産主義の思想を中国人に植え付けました。また、数多くの政治運動を通じて、人々の間に互いを監視し合い、告発し合うような「邪悪な党文化」が浸透しました。この結果、善良な人間性は歪められ、多くの中国人は感謝の念を抱かず、恩を返すことを知らない人間に成り果ててしまいました。中には、このような「当たり屋」のような手段を使って金を騙し取る人々さえ現れるようになったのです。

 ある動画では、「過去30年間で中国人の文明を100年後退させた3つの言葉は何か?」という質問が取り上げられました。2人の司会者が挙げた3つの言葉の中で最も衝撃的だったのは、「あなたがぶつけ倒したわけじゃないのに、なぜ助けたんだ?」というものでした。これは、2007年に中国南京市の裁判官・王浩氏が事件の審理中に発した一言でした。この裁判官の判決によって、「倒れている老人を助けるべきかどうか」が2007年以降の中国人にとって最も悩ましい問題となりました。この裁判が後に「彭宇事件(ペン・ユーじけん)」として知られるようになったのです。

 彭宇事件は、2007年4月1日に中国の南京地区裁判所に提起された民事訴訟であり、徐寿蘭対彭宇事件または南京彭宇事件とも呼ばれています。転倒した老人が、自らを助けた男性に損害賠償を求める訴えを起こし、裁判で訴えが認められた本事件は、中国国内で人助けを行うリスクという懸念からモラル・ハザードを引き起こし、道路上で倒れている人を見捨てるようになり、遂には見殺しにする事態が発生するまでに影響しました。

 一審の裁判では、具体的な証拠がないにも関わらず、裁判官は「(彭宇が)正義感からの行動なら、老人を助け起こす前にまず犯人を捕まえるはず」「被告は原告を突き飛ばしたことの後ろめたさから病院まで送った」という突拍子もない憶測をもって、彭宇さんを犯人と認定しました。この判決やその後度重なる類似事件が報道されると、「倒れている老人を見ても、見て見ぬふりで助けない方が良い」という風潮が中国全土に広まりました。

 こうした風潮の最中で、「中国仏山市女児ひき逃げ事件(小悦悦事件)」が発生しました。この事件は、2011年10月13日の午後5時25分に、広東省仏山市南海区にある金物市場の細い通りで、両親が目を離した隙に路上に出た女児(当時2歳)の王悦(おうえつ)ちゃんがワゴン車に轢かれました。ワゴン車は一旦停止したものの、もう一度轢いて走り去りました。その後、18人の通行人が通りかかったが、救助せずに無視し、19人目によって幼女は救助されたものの、病院で死亡しました。中国政府は同年、「老人の転倒時の技術関与指南」を公表したが、市民アンケートでは43%が「助けない」と答え、「助ける」と答えたのはわずか19%に留まっています。

 「中国人の文明を後退させた3つの言葉」に関する動画のコメント欄には、問題の本質を指摘するコメントが多数寄せられています。
 茗珺(みんじゅん):「中華人民共和国が成立した」、この言葉が、中国の文明を5000年も後退させた」
 Henry(へんりー):「(中国)共産党の統治こそが文明後退の根本原因だ」
 Toto(とと):「文明を後退させたのは3つの言葉ではなく、三文字だ。それは『(中国)共産党』だ」

(翻訳・藍彧)