<シリーズ 検証マイナ保険証>
マイナ保険証の導入のため、国が2014〜24年度に投じた総コストは、少なくとも8879億円に上ることが東京新聞の調べで分かった。このうち6割は「マイナポイント」などの普及のための費用だった。それでもマイナ保険証の利用率は9月末時点で13.87%にとどまる。巨額の税金を投じた効果は限定的だ。(福岡範行)
<主なトピック>
・国も把握していなかった全体像
・巨額の普及費は、何に使った
・子育て支援に振り替えたら、できたこと
・厚労省の担当者が「申し上げづらい」と語ったこと
◆いくら税金を投じたのか、国も把握していなかった
今年5月にさかのぼる。
マイナ保険証にかかった費用を調べようと、所管する厚生労働省を訪ねた。机の向かいに座った担当者は、こう答えた。
「マイナ保険証関連としての総額は、まとめていません」
マイナ保険証の政策や予算は、厚労省だけでなくデジタル庁や総務省といった複数の省庁にまたがっている。マイナンバー制度のうち、どれがマイナ保険証の事業なのか切り分けることも難しいという。
政府自体、マイナ保険証にこれまでいくら税金を投じたのか把握できていなかった。
取材班は、国の予算資料や政府の行政事業レビューなどをチェック。関係省庁や政府機関にも確認を取り、数字を抽出した。
◆総コストの半分以上はマイナポイントに化けた
こうして独自に積み上げた総コスト8879億円は、2014〜24年度の支出済みの額、もしくは予算額の総計だ。
総コストのうち6割を占めていたのが、マイナ保険証を普及するための費用だった。額にして5423億円に上っていた。
巨額の普及費用を押し上げていたのが、マイナ保険証の利用登録をした人に7500円分のポイントを与える「マイナポイント」だ。
総務省によると、2022年1月〜23年9月に実施した「マイナポイント第2弾」で、保険証を理由に6819万人にポイントを付与。マイナ保険証分の費用は5106億円だった。
マイナ保険証の登録者は、2024年9月末時点で7627万人にまで増えた。大半が、ポイント事業の時期にマイナ保険証を持ったことになる。
◆病院や薬局にも「バラマキ」
登録促進に続き、利用促進のため国が取った戦略も「バラマキ」だった。
厚労省は2023年度の補正予算で約200億円を計上。マイナ保険証の利用を増やした病院や薬局に見返りとして「支援金」を支給した。
窓口で患者に「マイナンバーカードをお持ちですか」と声をかけることなどが支給の条件。厚労省は、声かけの台本まで作った。集中取り組み月間と位置づけた2024年5〜8月は支給額を最大40万円にまで引き上げた。
◆マイナ保険証の利用率は大きく伸びず
しかし、マイナ保険証の利用は思うように進まなかった。
窓口での声かけに「まるで強制されているよう」と、取材班にも患者から戸惑いや不満の声が寄せられた。中には、マイナ保険証がないと病院にかかれないと誤解して、不本意ながら登録したという人もいる。患者から抗議を受けて、利用を勧めた薬局が謝罪文を出すトラブルまで起きた。
結局、マイナ保険証の利用率は4月から9月にかけて7.31ポイントしか伸びなかった。最新の9月時点でも13.87%にとどまる。
◆もっと有意義な使い方があったのでは
「子育て支援に使えばいいのに。お金ばらまくだけなんて能がない。お金の使い方を考えて」。取材班には、読者からこんな声も寄せられた。
国がマイナ保険証の普及のために充てた5423億円があれば、何ができるのか。
教育分野で見ると、...
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