「登校すれば幸せ」とは限らない 不登校対策で民間業者と「連携」した板橋区の迷走 政治家の影もちらついて

2024年8月17日 12時00分 有料会員限定記事
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 不登校対策を巡り、東京都板橋区でドタバタ劇が展開された。不登校児童・生徒の支援をする民間企業が区教委との連携を発表。ところが約1週間後、区教委がこれを否定するコメントを出した。背後には政治家の影もちらつく。一体何があったのか。(木原育子、山田祐一郎)

ウェブサイト上でスダチとの連携を否定する東京都板橋区教委

◆「平均3週間で再登校できる」?

 今月5日、不登校児童・生徒の支援をする会社「スダチ」(東京都渋谷区)が板橋区と連携し、オンライン支援していくとのプレスリリースを発表した。板橋区教育委員会も9日、「一部の学校で試行を始めた」とコメントを出し、「連携」を印象付けた。
 これに対し、不登校の子を持つ保護者の団体などが疑義を呈した。スダチの「平均3週間で再登校できる」と登校に重きを置く姿勢や高額な料金設定、子どもではなく親に働きかける手法などに異論が出ているからだ。「子どもの声を聞かずに登校させて大丈夫か」といった不安の声も少なくない。行政が後押しするとなればなおさらだ。
 SNSを中心に「連携」に批判が高まると、区教委は13日、「その事実はございません」と一転。「試行」も「誤解を招く表現でした」とひるがえした。
 この一貫性のない動きは何だったのか。

◆区教委にスダチを紹介した政治家

 区教委指導室の冨田和己室長は「『連携』というと、協定を結び事業化する印象があるが、そうではない。ただ、保護者にアプローチしていくスダチの手法は教育委員会にはできないので、参考になる部分があった」と歯切れが悪い。
 実際には、両者は5月に話し合いの場を持っている。7月下旬には区教委が一部の小学校にスダチを紹介していた。「連携や試行ではない」という区教委の説明は、すんなりとは受け入れ難い。
 そもそも区教委はなぜスダチと接触したのか。冨田室長は「区議から紹介があった。スダチからも積極的アピールがあった」と打ち明けた。区議とは間中倫平氏(自民)だという。

◆特定業者に便宜を図れば法に抵触のおそれ

 区は不登校支援計画で、再登校が最終的なゴールとは位置付けていない。再登校に重点を置く企業と連携を探るのは、基本方針と齟齬(そご)がないか。冨田室長は「方針変更ではなく、あくまで多様な支援の一つにという思いだった」と釈明する。
 一方で、区議が特定業者に便宜を図るのは場合によっては法に触れかねない。ましてや教育行政への口出しは、教育の中立性を脅かす政治的介入ともとれる。
 だが間中区議は「スダチだけでなく、これまでも多くの人を板橋区に紹介し、つないできた」と意に介さない様子。「スダチの手法は斬新で教育メニューは幅広い方がいい」と続ける。

自民党の下村博文氏(資料写真)

◆下村博文衆院議員もスダチを推した

 もう一人、スダチを推す政治家がいる。板橋が地元の下村博文衆院議員だ。5月、自身が会長を務める教育団体の総会で「スダチさんが行政側と連携すると仮定した場合に」と切り出し、「親が変わらなければ、子どもも変わらないというのが最も本質的な問題だ」と発言。「民間と行政側が連携しながらサポートし、国民運動として広げていきたい」とスダチに賛意を送った。真意を聞くため、質問状を事務所に送付したが、16日夕現在、回答を得られていない。
 スダチは今回の騒動をどう受け止めているか。小川涼太郎代表取締役(30)は「板橋区の支援メニューの一つとしてトライアルで進めていくことは合意できていたが、全て取りやめに。残念です」と語った。

市民団体が板橋区に提出した質問状のコピー

◆圧倒的に欠ける「子どもがどうしたいのか」

 15日、不登校児童・生徒の保護者や支援者でつくる市民団体が連名で、板橋区長と教育長宛てに経緯をただす質問状を送った。
 団体の一つ、NPO法人「多様な学びプロジェクト」代表理事の生駒知里さん(46)はスダチとの「連携」の動きを巡り、「再登校をゴールに定めすぎて、本人がどうしたい...

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