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未来の大事な移動手段「超小型モビリティー」はなぜ普及しないのか?

2024.03.18 デイリーコラム 清水 草一
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現実的に「ダメだこりゃ」

トヨタが超小型モビリティー「C+pod(シーポッド)」の生産を2024年夏に終了するという。

C+podは2人乗りで全長2.5m弱、全幅1.3m弱、最高速度60km/hのBEVだ。試乗させてもらったことはあるが、街なかで見かけたことは一度もない。

トヨタグループのトヨタ車体は“ミニカー”(第一種原付自転車)扱いの「コムスP・COM」を出している。こちらはコンビニの宅配用に使われているのをたまに見かけるが、広く普及する気配はみじんもない。

大手自動車メーカーで、超小型モビリティーを一般販売しているのはトヨタだけで、他社はコンセプトモデル止まり。中小ベンチャーもいくつかのモデルを販売していて、デザイン的に魅力的なものもあるが、どれも走っている姿を見かけたことはない。

私は一時、超小型モビリティーを、高齢者の近場の足として期待した時期があった。今の軽自動車はムダに大きすぎる! 地方の公共交通機関のない地域では、もっと小さいクルマが必要とされているのではないか! と。しかしそれは机上の空論だった。

C+podの価格は166万5000円からで、リース契約のみ。定員2人で、最高速度60km/hで、高速道路走行禁止で、航続距離150km(WLTCモード)。そういうたくさんの制約が付いたクルマが、軽自動車よりやや高めのお値段で、しかもリース契約のみなのだから、そんなものを地方の高齢者が買うはずがなかった。

そもそも地方の高齢者も、運転できる人は現状、足を確保できている。となれば、C+podより軽自動車のほうが安くて便利に決まってる。運転できなくなったら、C+podも運転できないのだから同じことだ。

都会ならどうかというと、これまたまったくメリットがない。全長2.5mは非常にコンパクトだけれど、軽自動車同様、駐車場は1台分必要だ。ヨーロッパのように全長2.5m以下なら路上にタテ止めOK(初代「スマート・フォーツー」が該当)というならメリットはあるが、日本には路駐OKの道路なんてほとんどないし、コインパーキングが半額になるわけでもない。もちろん完全自動運転が可能なわけでもない。

トヨタの超小型EV「C+pod」。2020年12月に法人や自治体を対象としてリリース開始、2021年12月には個人販売もスタートした。それから2年半を経た2024年夏には生産終了することが決まっている。
トヨタの超小型EV「C+pod」。2020年12月に法人や自治体を対象としてリリース開始、2021年12月には個人販売もスタートした。それから2年半を経た2024年夏には生産終了することが決まっている。拡大
「トヨタC+pod」のインテリア。ご覧のとおり定員は2人で、高速道路は走れない。価格も「166万5000円から」とくれば、だったら軽か電動自転車で……となるのもムリはない。
「トヨタC+pod」のインテリア。ご覧のとおり定員は2人で、高速道路は走れない。価格も「166万5000円から」とくれば、だったら軽か電動自転車で……となるのもムリはない。拡大
2019年の東京モーターショーではコンパクトな電動コミューターにスポットライトが当てられ、試乗の場が設けられるなど盛り上がりを見せていた。それから4年半がたったものの、街ではさほど見かけない。
2019年の東京モーターショーではコンパクトな電動コミューターにスポットライトが当てられ、試乗の場が設けられるなど盛り上がりを見せていた。それから4年半がたったものの、街ではさほど見かけない。拡大
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根本から練り直そう

そういう意味では、軽自動車のなかで最も軽量コンパクトな「アルト」や「ミラ イース」こそ、最強の超小型モビリティーだ。これを超える超小型モビリティーの開発は、現在の規格では絶対に不可能だろう。だからトヨタはC+podの販売を終了するのだ(おそらく)。

というよりも、最初から勝負は見えていた。しかしトヨタは日本を代表する企業としての責任上、国策に沿うかたちで、ダメとわかっていてトライした(たぶん)。その報われない努力に涙が出る。

日本の都市部ではすでに、軽自動車未満の超小型モビリティーが、急激な勢いで普及しつつある。シェアリング電動キックボードである。私が住む東京・杉並区では、自宅の半径50m以内に、あっという間に3カ所も「LUUP」のポートができた。まさに超小型だし、駐車(返却)スペースも最初から用意されている。使い方によっては大変便利だ。

しかし電動キックボードは、ほぼ若者専用。反射神経の衰えた高齢者には、到底おすすめできるモビリティーではない。物は試しと試乗してみたが、二度と乗ろうとは思わない。あれに乗るより歩いたほうが健康にいいし、徒歩でキツければ自転車もある。

考えてみたら、自転車にも電動アシスト型がある。電動アシスト自転車は、子育て世代から高齢者まで広く普及していて、主に都市部や都市近郊で、立派に超小型モビリティーとしての役割を果たしている。前述のLUUPでも貸し出している。

しかし地方に行くと、あまり自転車を見かけなくなる。高齢者も後期になると、電動アシスト自転車に乗るのも徐々に厳しくなるし、山坂があればなおさらだ。

つまり、軽自動車と電動アシスト自転車の間を埋めつつ、限りなく自転車に近いライトな存在が求められているんじゃないか。それはいわゆる「シニアカー」と、自動宅配ロボットの中間的なものではないか? そういう新種のモビリティーが道路を走り始めると、ますます交通が混在して危険! という意見もあるでしょうが、超小型モビリティーは、もう一度規格を考え直す必要がある。それは確かだろう。

(文=清水草一/写真=トヨタ自動車、清水草一、webCG/編集=関 顕也)

コンパクトな輸送機器について真剣に考えると、軽自動車の商品性の高さは無視できない。なにせ新車の「スズキ・アルト」は100万円そこそこで買えるのだから。しかも、電欠の心配もない。
コンパクトな輸送機器について真剣に考えると、軽自動車の商品性の高さは無視できない。なにせ新車の「スズキ・アルト」は100万円そこそこで買えるのだから。しかも、電欠の心配もない。拡大
軽自動車未満の超小型モビリティーとしては、電動キックボードは身近な存在だ。筆者の家の近所でも、シェアリング形式のサービスを展開している「LUUP」の発着スペースがどんどん増えている。
軽自動車未満の超小型モビリティーとしては、電動キックボードは身近な存在だ。筆者の家の近所でも、シェアリング形式のサービスを展開している「LUUP」の発着スペースがどんどん増えている。拡大
「LUUP」は筆者も体験済み。しかし、これはこれで、若者以外には便利で快適なモビリティーとは言いがたい。
「LUUP」は筆者も体験済み。しかし、これはこれで、若者以外には便利で快適なモビリティーとは言いがたい。拡大
今の世の中を考えると、現実的に受け入れられる超小型モビリティーとは、「軽自動車と電動アシスト自転車の間を埋めるもの」ではなかろうか。トヨタでいえば、2023年に発売した「C+walk S」(写真)のようなシニアカータイプの乗り物と宅配ロボットの中間的なもの、というのが筆者のイメージだ。
今の世の中を考えると、現実的に受け入れられる超小型モビリティーとは、「軽自動車と電動アシスト自転車の間を埋めるもの」ではなかろうか。トヨタでいえば、2023年に発売した「C+walk S」(写真)のようなシニアカータイプの乗り物と宅配ロボットの中間的なもの、というのが筆者のイメージだ。拡大
清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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