「中国人一家に部屋に連れて行かれました。そこで私は再び縛られました(…)。ドアの鍵が1、2カ月ぐらい閉められました。食事の時間になると、食事が運ばれてきました。私はずっと泣いていました(…)。中国人男性が食事を持ってくるたびに、私をレイプしたのです。」
サバイバーたちは、中国人の家族は「花嫁」よりも赤ちゃんを手に入れることに関心があったように思うと述べた。人身売買された成人女性や少女たちは出産後、自分を捕らえていた人びとから逃れられることもあったが、その際には、もう二度と会えないと思われる子どもを置き去りにしなければならないことが多かった。ミャンマーに戻ったサバイバーは、トラウマとスティグマに苛まれつつ、生活を立て直している。人身売買サバイバーへの支援はほとんどなく、必要最低限の支援を行うごく小数の組織だけではサバイバーのニーズは満たされていないのが現実だ。
インタビューに応じた人身売買サバイバーの多くは、カチン州とシャン州北部での戦闘で発生した国内避難民だ。10万人以上が避難民キャンプで悲惨な生活を送っている。ミャンマー政府によってキャンプへの人道援助の搬入の大半は妨害されている。キャンプの一部は反政府組織のカチン独立機構(KIO)の管理下にある。男性が紛争に参加しているため、女性が唯一の稼ぎ手であることが多い。このため、成人女性と少女が、中国で最近まで行われた「一人っ子政策」に起因する同国人口の男女差のために、息子の嫁探しに苦労する中国人の家族に売られているのだ。
中国の人口における女性の割合は1987年以来着実に低下しており、15〜29歳の男女人口の不均衡は拡大している。研究によれば、中国には3,000〜4,000万人の「消えた女性」がいると推定される。本来ならば存在しているはずだが、1979年~2015年に実施された「一人っ子政策」と、女性のリプロダクティブ・ライツに対する中国政府の継続的な規制によって激化した男子選好によって、実際には存在しない女性たちを指す。
人身売買された成人女性や少女を買うことで、結婚可能な女性の不足に対処する家族もある。花嫁として人身売買されている成人女性と少女の総数を推定することは困難だが、ミャンマー政府は2017年に226件の事件を報告した。専門家筋はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、実数はほぼ間違いなくはるかに多いと指摘した。
中国とミャンマーの法執行当局者およびカチン独立機構(KIO)当局者は、人身売買された成人女性と少女を取り戻そうと動くことはほぼないことを、ヒューマン・ライツ・ウォッチは明らかにした。家族が警察の助けを求めれば何度も門前払いされ、警察を呼ぶ前に金を払うべきだと言われることも多い。脱出して中国の警察に駆け込んだ成人女性や少女が、犯罪被害者として扱われず、入管法違反で投獄されるケースもある。
「ミャンマーと中国両政府、そしてカチン独立機構は、人身売買の防止、サバイバーの回復と支援、人身売買業者の訴追に向けた取り組みをもっともっと強化させていかなければならない」と、前出のバー局長代理は述べた。「ドナーや国際機関は、人身売買された成人女性と少女を救出し回復を支援するという、政府がやろうとしない大変な仕事に現に取り組んでいる地元組織を支援すべきである。」