働き方改革によるトラックドライバーの残業規制により、「物が運べなくなる」として大問題となった「物流2024年問題」。しかし2024年4月を迎えたとき、「物が運べなくなる」ことはなかった。
では、2025年を迎えた今、問題は解決されたのか? 騒ぎは杞憂だったのか? 答えは否だ。表面上の対策は打たれたものの、根本の業界構造は何も変わらず、物流現場は限界を迎える日は、刻一刻と迫っている。
本連載では、「2024年問題」を経た物流の現場を歩き、何が変わり、何が変わらなかったのかを分析する。
*本記事は『間違いだらけの日本の物流』(共著、ウェッジ)の一部を抜粋したものです。
筆者は2024年9月に大手物流業者3社の労働組合役員に聞き取り調査を行った。それによれば、統計データが示す通り、大企業では新型コロナ前から労働時間の短縮が進められていた。各社の組合役員は次のように話した。
「労働時間の問題は、我々にとっては長年の課題でした。労使でずっと議論してきたし、継続的に取り組んできたので、我々は『2024年問題』で引っかかるような労働実態にはありません」
労働時間の短縮に本格的に取り組み始めたのは、2016~2017年ごろだったと組合役員らは口をそろえる。
「特にね、『電通事件』のインパクトが大きかったんですよ。それまでは、会社も時間外労働にそこまでうるさくなかった。でもね、電通さんのことがあってからは『(月の時間外労働時間数が)100時間超は問題じゃないか』と言い始めて、労使で時短推進委員会を作りました。その後も『過労死ラインである80時間は超えないようにしよう』となり、会社は『減らせ、減らせ』とうるさく言うようになったんです」
長時間労働を特徴としてきたトラック業界でも、長時間労働の是正を求める社会風潮を無視できなかったことが窺われる。2019年に「働き方改革」関連法が施行された時には、トラックドライバーも含めて労働時間の削減に取り組み始めてからすでに数年が経過していたという。
賃金をめぐる労使交渉
一方、統計データによれば労働時間は短縮したものの、賃金は思うように上がってはいない。
ある組合役員は「(月の時間外労働時間数が)昔は80だったのに、今は65ぐらいですよ。15時間分も毎月の実入りが減るわけで、組合員からは『生活が苦しくなっている』という声が届いています」と苦渋の表情を浮かべた。
むろん組合は、労働時間の短縮とともに長時間労働に頼らずに済む賃金を確立するように求めてきた。例えばある組合は「うちは、必ず年収ベースで(春闘)交渉をしています」と話す。つまり、団体交渉に向けた準備段階で、労働時間の短縮により年収がどれほど下がるのかを計算し、下がった分をどう補うのかを議論し、交渉に臨む。
「(補填の方法は)もちろん基本給を引き上げて、ベアを獲得するのがベスト。でも、それが難しい時もあります。その場合でも、手当やボーナスなど、いろんな形でどうにか補おうと交渉します。残業は減らすけど、賃金水準は変えない。それができないと組合がある意味がない」