今季のプロ野球の大卒ルーキーは、新型コロナウイルス禍で高校3年時に甲子園大会の中止を経験した。中日の金丸夢斗投手(関大、神港橘高出身)と、DeNAの坂口翔颯(かすが)投手(国学院大、報徳高出身)もそうだ。不遇にめげず成長を遂げ、プロ入りを果たした2人だが、けがとの闘いを強いられている。兵庫の恩師たちは「次も乗り越えてくれるはず」と温かく見守る。(初鹿野俊)
■中日・金丸(神港橘高出身)腰痛考慮、キャンプは2軍
■DeNA・坂口(報徳高出身)右肘手術、リハビリの日々
昨秋のドラフト会議で4球団から1位指名を受けた金丸は神戸市北区出身。神港橘高時代は無名でアピールの機会を望んでいたが、3年生になる2020年春の大会に続き、最後の夏の甲子園につながる兵庫大会もなくなった。「頭が真っ白になった」と振り返る。
でも腐らなかった。自宅の近所で走り込み、トレーニングや食事での体づくりに励んだ。7月開幕の代替大会を目標にしつつ、「大学でも野球を続けたい」と地道な鍛錬を重ねた。
🧢世代屈指
3月から5月末までの休校が明けると、久々のマウンドで「リリースのタイミングに下半身と上半身がしっかり合う感覚が分かった」。直球は初めて140キロを超えた。
当時、監督だった安田涼さん(48)が売り込んだ関大も高く評価し、推薦入学が決まった。代替大会では1試合17奪三振を記録するなど、圧倒的な投球でチームを5戦全勝に導いた。大学でもリーグ18連勝を果たすなど実績を積み、日本代表に選出。「コロナ禍に自分で考えて練習していたのが大学でも生きた」。世代屈指の154キロ左腕に進化を遂げ、ドラフトの目玉となった。
大学時代に患った腰痛を考慮し、中日でのキャンプは大半を2軍で過ごした。安田さんは「努力を形にできる男。ゆっくり焦らず、マイペースでいい」と話す。
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DeNA6位入団の坂口は伊丹市出身。報徳高時代は2年秋にエースとして兵庫県大会優勝に貢献した。
20年春の休校期間中はスマートフォンアプリで練習メニューを仲間に提案。自主練習に打ち込み、最後の夏に備えたが、5月に画面越しのミーティングで甲子園大会の中止を告げられた。「泣いている同級生の姿に自然と涙が出た」。代替大会に「無敗で終える」と意気込んで臨み、チームは全勝。秋からの県内公式戦の連勝を13に伸ばし、締めくくった。
🧢幸せな代
国学院大では1年秋にリーグ最優秀投手に選ばれるなど早くから台頭した一方、肘の故障に苦しんだ。ドラフト後の24年末、右肘の内側側副靱帯(じんたい)再建術(通称トミー・ジョン手術)を敢行。26年の実戦デビューを目指し、現在はリハビリに打ち込む。
コロナ禍に報徳高の大角健二監督(44)から掛けられた「かわいそうな代になるな。みんなが親身になってくれる幸せな代や」との言葉を胸に刻み、グラブに「おかげさまで」と刺しゅうを入れている。「(大会中止は)自分たちにしか経験できないこと。これがあったから成長できた」と語る。
再び試練に立ち向かう教え子に、大角監督は「苦労しっぱなしだから、これからはいいことしかないはず」とエールを送る。
【新型コロナウイルス禍の高校野球】感染拡大防止を図るため、日本高校野球連盟は2020年3月に甲子園球場で開幕予定だった選抜大会を中止。8月の全国選手権大会や出場権を懸けた地方大会も中止された。これを受け、兵庫県高野連は7~8月、独自に5回戦までの代替大会を開いた。日本高野連は8月、明石商(兵庫)など選抜出場が決まっていた32校を甲子園に招き、1試合限定の交流試合を開催した。