メダリスト(1)』(アフタヌーンコミックス)つるまいかだ 講談社

(文星芸術大学非常勤講師:石川 展光)

コーチとの出会いが少女を変える

『メダリスト』は、『月刊アフタヌーン』(講談社)にて2020年から掲載中の漫画(既刊12巻)である。本年1月にはアニメ化(制作はENGI)もされ、テレビ朝日系列で絶賛放映中の話題作で、作者のつるまいかだにとっては本作がデビュー作だ。

 フィギュアスケートで金メダルを目指す個性豊かな女の子たちが、それぞれのコーチと切磋琢磨する話……といえばベタなスポ根モノに聞こえてしまうが、とにかくその熱量がとんでもないのだ。ここでいう熱量とは、努力、友情、勝利といったベクトルというよりも、ただただ「推し」というベクトルが持つ熱量である。

 本作の主人公は結束(ゆいつか)いのりと、明浦路司(あけうらじつかさ)の二人。物語の冒頭ではいのりも司も、自分の人生にすでに絶望している。

 本来、フィギュアスケートのプロになるには、5歳くらいから経験を積まねばならない。 しかし司は金メダリストの演技に強く感化され、中学生から始めた。がむしゃらに努力して全日本選手権に出場するまでに至るが、やはり遅きに失したことを痛感し、24歳で引退する。

 小学5年生のいのりは学校でも友達がおらず、勉強も体育も苦手だった。いのりの姉はフィギュアスケートの有望な選手だったが、姉が怪我で引退して以来、いのりは母親に強く反対され、ずっと一人きりでスケートに打ち込んでいた。この逆境の中でもがく二人が運命の出会いを果たすところから、物語は始まる。 

 当初司はいのりのコーチになるつもりはなかったのだが、氷上で健気に頑張る姿を見て、ハートを射抜かれてしまう。この瞬間、司は「いのり推し」になるのだ。彼女を全肯定し、卓越した観察眼と、フィジカルの強さで指導する。司は15も歳下のいのりを「あなた」と呼び、ことあるごとに「偉い!」と褒め称えるのである。

 元来泣き虫で引っ込み思案だったいのりが、司の全力支援でめきめきと強くなっていく様は読んでいて大変に気分がいい。それもそのはずだ。推しを育てながら、最前列でその成長と活躍を見ることができるなんて、これを至上の幸福と言わずなんと言おうか。

 ここで描かれるフィギュアスケートのコーチと選手の信頼関係は、恋愛を超えたプラトニックラブである。自分の全てを捧げることを幸福とする感覚。そこに悲壮感はない。自己犠牲とは似て非なるものなのである。