コンテンツにスキップ

ロック・ミュージカル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ロック・ミュージカルRock musical)は、ロックを伴うミュージカルのことである。このジャンルは、ロックを語るうえで、コンセプト・アルバムなどと重なるかも知れないし、コンセプト・アルバムから生まれたロック・ミュージカルもいくつかある。ロック・ミュージカルの代表的な作品には、『ヘアー』、『グリース』、『レント』などがある。『The Who's Tommy』(1992年)[注釈 1]のように、ロック・オペラと呼ばれる作品がミュージカル化されたものもある。

歴史

[編集]

ロック・ミュージカルにヒントを与えた最初のミュージカルは1957年の『ジーグフェルド・フォリーズ』の最終版だと言われる[1]。この作品には、当時50歳のビリー・デ・ウルフが歌う『The Juvenile Delinquent(非行少年)』というロックンロール・ナンバーがフィーチャーされていた。続いて、ロック・ミュージカルの先駆けになった作品に『バイ・バイ・バーディー』(1960年)がある[注釈 2]。その後、ブロードウェイにロックンロールが戻ってくるまで、7年待たねばならなかったが、ロックをミュージカルに取り込むという、これら初期の試みが、1967年の『ヘアー』にはじまるロック・ミュージカルの道を切り開いたと言えるだろう[2]

「The American Tribal Love-Rock Musical」という副題がつけられ、反戦、フリーラヴ、ヒッピーをテーマに取り上げ、ヌード・シーンも登場する『ヘアー』は、1967年、ニューヨークのパブリック・シアター[注釈 3]で初演され、1968年4月にブロードウェイに進出した[3]。ロック・ミュージカルがミュージカルの重要なジャンルとなったのは、『ヘアー』のヒット以降である。同じ1968年ウィリアム・シェイクスピアの『十二夜』の性別を入れ替えた『ユア・オウン・シング』もスタートした。

アンドルー・ロイド・ウェバー作曲、ティム・ライス作詞の『ジーザス・クライスト・スーパースター』は、元々はミュージカルではなくコンセプト・アルバムとして、1970年に発表された。この作品はしばしばロック・オペラにカテゴライズされることもある。アルバムの売り上げで、1971年に舞台化された[4]。『ジーザス・クライスト・スーパースター』のような論争を起こすほどのものではなかったが、『ゴッドスペル(Godspell)』(1970年)も宗教的テーマを扱ったミュージカルで、ポップ/ロックの影響も受けていた。

1970年代を通して、ロック・ミュージカルは発展を続け人気を獲得していった。この時期に発表されたのは、『グリース』、『ピピン』、『ロッキー・ホラー・ショー』などである。劇的かつエモーショナルなテーマを持ちながら、会話がいっさいないもの、あるいはオペラを思い起こさせるものもあったが、それはロック・オペラと呼ぶべきかも知れない。さらにロック・ミュージカルは別の方向にも広がっていった。たとえば、『ザ・ウィズ』、『レイズン(干しぶどう)』、『ドリームガールズ』、『パーリー/Purlie』などはリズム・アンド・ブルースソウルミュージックの影響が色濃いし、『マンマ・ミーア!』や『ジャージー・ボーイズ』といった既成の曲をフィーチャーしたジュークボックス・ミュージカルも現れた。

しかし、1980年代になって、ロック・ミュージカルは下火になってゆく。そんな中、『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』(1982年)、『チェス』(1986年)が健闘したが、観客の嗜好は、ノスタルジックな出し物同様、『レ・ミゼラブル』、『オペラ座の怪人』といった、いかにもヨーロッパ的なスコアの作品に向かっていく。

1990年代になって、ようやくロック・ミュージカルはルネサンスを成し遂げる。その功績は少なからず、ジョナサン・ラーソン作のトニー賞ピューリッツァー賞受賞作『レント』(1996年)の成功に負っている。続いて『バットボーイ』(1997年)や、性転換ロック・シンガーが主人公のジョン・キャメロン・ミッチェル作『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(1998年)といった、オフ・ブロードウェイのロック・ミュージカルが登場した[5]

そして、1990年代後期から2000年代にかけて、ロック・ミュージカルは復活を遂げた。エルトン・ジョン作曲の『アイーダ』(1998年2000年)、『Lestat(吸血鬼レスタト)』(2006年)や、スティーヴン・シュワルツの『ウィキッド』(2003年)が、ロック・ナンバーを交えたジュークボックス・ミュージカル同様に当たっている。最も新しいところでは、ダンカン・シークの2007年トニー賞受賞作『Spring Awakening(春のめざめ)』、2009年トニー賞楽曲賞・主演女優賞ほか三部門を受賞した『Next to Normal(en)』、グリーン・デイの同名アルバムを元に製作された『American Idiot(en)』(2010年)がある。

脚注

[編集]

出典

[編集]
  1. ^ Wollman, Elizabeth Lara, The Theatre Will Rock: A History of the Rock Musical from Hair to Hedwig (University of Michigan Press, 2006), p.14
  2. ^ Everett, William A. and Paul R. Laird, The Cambridge Companion to the Musical (2002) Cambridge University Press, pp. 231-33 ISBN 0521796393.
  3. ^ Kenrick, John, "Rock: 'The Age of Aquarius'" article at the Musicals101 website
  4. ^ Kenrick, John, "The 1970s: Part I - Rock Musicals" article at the Musicals101 website
  5. ^ Brasor, Philip, "A thumbnail history of the rock musical, March 9, 2006

注釈

[編集]
  1. ^ 1992年にブロードウェイで上演されてトニー賞5部門を受賞したロック・ミュージカル。イングランドロックバンドザ・フーThe Who)によって1969年に発表されて全世界で500万枚以上のセールスを記録したアルバム『トミー』(Tommy)を、カリフォルニア州サンディエゴのラ・ホヤ・プレイハウス(La Jolla Playhouse)の芸術監督だったデス・マカヌフ(Des McAnuff)がミュージカル化した。
  2. ^ 『バイ・バイ・バーディ』の映画版に出演していたアン=マーグレットは、ロック・オペラの草分けと称されるザ・フーの『トミー』(1969年)を映画化した『トミー』(1975年)に出演した。
  3. ^ 1954年にジョセフ・パップが設立した。

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]