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国産LLMはガラパゴス化するのか?生成AIが「幻滅期」を迎える今、“次の波”を乗り越えるための道とは

しのぎを削るGPU戦争……政府の積極支援がカギに

 生成AI技術はまさに日進月歩で進化を遂げつつあり、OpenAIやGoogle、Metaなど海外のテックベンダーからは次々と新たなLLMがリリースされている。その一方で、日本のベンダーが独自に開発する「国産LLM」も続々と登場しているが、現時点では海外製のものと比べると一般の認知度はまだまだ低い。そんな中、国産LLMは今後どのような「勝ち筋」を見出せるのだろうか。

海外大規模LLMにはない国産の特長とは

 2022年末にOpenAIがChatGPTを正式ローンチして以降、瞬く間に世界中でブームを巻き起こした生成AI。その後、GoogleやMetaなど海外のメガテックベンダーもこぞって自然言語に特化した生成AI基盤モデルであるLLM(大規模言語モデル)の開発競争に参戦し、次々と高性能のモデルを世に送り出してきた。

 2025年に入っても海外ベンダーによるLLM開発競争は白熱している他方、日本国内のベンダーによる「国産LLM」の開発も着々と進んでいる。NTTは、2023年11月に独自のLLM「tsuzumi」を発表し、2024年3月に一般提供を開始、NECも2024年4月に「cotomi」の一般提供を開始している。いずれも、その日本語処理能力の高さやパラメータ数が少ないことによる軽量さが注目を集めた。さらにソフトバンクは、2023年10月に新会社設立を発表し、国産LLMの開発基盤となる大規模データセンターの構築を進めている。加えて、国産の大規模LLMの開発も推進しているところだ。

 長年AIの市場動向をウォッチしてきたデロイト トーマツ グループ DTFAインスティテュート 主任研究員 小林明子氏は、現在の国産LLMを取り巻く動向について次のように考察する。

 「高精度なLLMを低コストで開発したというDeepSeekが中国から登場し、市場の激変は続いていますが、これまではパラメータ数や学習データ量を増やせば増やすほど性能が向上するといわれていました。OpenAIなどの米国ベンダーは現在、膨大な量のリソースをつぎ込んで大規模モデルの開発にしのぎを削っています。このような中、国産LLMがこの“規模の競争”に遅れて参入するのは容易とはいえません。現在の国産LLMは、規模以外の面で個性や強みを打ち出して、特定のニーズに応えることを目指しているように見えます」

 国産LLMが打ち出す強みの代表例として、小林氏は「日本語処理能力の高さ」を挙げる。日本のベンダーの中には、長年にわたって自然言語処理の研究に取り組んできた企業も多い。こうした企業は、その過程で培ったノウハウを生かし、日本語の処理能力に優れたLLMを打ち出している。前述のtsuzumiも、NTTが長年研鑽してきた日本語処理技術を駆使して、高い日本語処理能力と軽量さを両立させたLLMとして注目を集めている。

 tsuzumiやcotomiのように、海外製LLMと比較すると「軽量」であることも国産LLMの特徴といえる。小林氏は軽量LLMのメリットについて「汎用的な大規模LLMの開発・運用には巨大な計算資源が必要なため、電力消費量も膨大です。多大なコストが掛かるとともに自然環境にも大きな負荷をかけてしまいます。一方、軽量なLLMはエコで低コストですし、業界や業務に合わせたカスタマイズを行いやすいです。自社のオンプレミス環境で運用できるものもあるため、セキュリティ要件が厳しい場合などにはメリットがあります」と説明する。

デロイト トーマツ グループ DTFAインスティテュート 主任研究員 小林明子氏

政府も国産LLM開発を積極支援、その狙いとは

 日本が大規模LLMの開発競争に遅れを取ってしまった原因の1つに「計算資源の不足」、特に大量の学習・推論処理を効率的に行うために不可欠とされるGPUのリソース不足がよく指摘される。実際のところ、米国のメガテックベンダーが最新型GPUの多くを保有しており、日本のベンダーの手に渡る量はわずかだともいわれている。

 「特に国内のスタートアップ企業などは、自前でGPUなどの計算資源を確保するのは難しいため、そうした企業をバックアップするために国の支援も必要になってきます。現に経済産業省では、国内企業のAIインフラ整備に対して金額規模の大きい補助を行ったり、LLM開発をバックアップする『GENIAC』という取り組みを立ち上げ、スタートアップ企業を含む企業や研究機関に向けて計算資源の提供支援などを行ったりしています」(小林氏)

 なお、日本政府は「IT・デジタル関連の政策が後手に回ったばかりに、海外に遅れを取ってしまった」と批判を浴びることも多いが、AIに関してはむしろ国際競争力を獲得するために先手を打ち、積極的な施策を展開してきた。2023年5月には政府主導で「AI戦略会議」が立ち上がり、生成AIを社会で広くかつ安全に利用するための制度や施策について、産官学の専門家が集まり議論が続けられている。

 海外に向けたアピールも積極的に行っており、2023年5月に開催された広島サミットでは、AIの利用に関する国際的なルール作りを行う枠組み「広島AIプロセス」を立ち上げた。AIガバナンスの議論を国としてリードしていく姿勢を明確に打ち出していると見て取れる。

LLMを取り巻く国内外の動向(編集部にて作図)
【クリックすると拡大します】

 「AIがさらに社会に広く普及し、国や産業の重要なデータがAIで活用されるようになったとき、そのデータが海外のプラットフォームに完全に委ねられたり、あるいは海外のAI技術に頼り切りになってしまったりするような状況は、経済安全保障の観点からも問題があると政府は認識しているはずです。そうした事態を避けるためにも、やはり国産LLMが発展し、国や社会を支える技術の一つとして活用されるようになることが重要でしょう」(小林氏)

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生成AIは「幻滅期」に? 国産LLMに残された“次の弾”

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この記事の著者

吉村 哲樹(ヨシムラ テツキ)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。その後、外資系ソフトウェアベンダーでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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