防衛研究所ニュース 2012年4月号(通算164号) 1 ブリーフィング・メモ ロシア帝国とカフカスの軍事史的起源―祖国戦争後の貴族将校たち― 戦史研究センター戦史研究室教官 花田智之 はじめに 本稿は、現代ロシア連邦とカフカス(コーカサス)の地域安全保障をめぐる軍事史的起 源を明らかにするため、19 世紀前半の祖国戦争(ナポレオン戦争)後のロシア帝国史に焦 点を当てる。この時代は、ウィーン体制下でヨーロッパ国際秩序の一端を担うことになっ たロシア帝国が東方の新たな大国として強大化をし続けた軍事史に彩られており、勢力版 図は西部ではフィンランド大公国、バルト海沿岸地域、ポーランド会議王国を支配してヨ ーロッパ諸国と隣接し、東部ではシベリアや中央アジアへ向けて入植を続け、そして南部 ではノヴォロシアやカフカスを支配してペルシアやオスマン帝国と対峙するという、まさ に多方面にわたって展開された