2025-01-10

父が観たかもしれない『夏の庭』を観た

94年公開の相米慎二監督映画『夏の庭 The Friends4Kリマスター版が劇場公開されている。二十年以上気になっていた映画だったので、観に行った。

私は四姉妹の一人として育った。

二十年前に亡くなった父は、男の子が欲しかったというような言葉を娘の前で一度も発したことはないが、たとえば趣味自転車を走らせて帰ってきた夕方に「河原で休憩していたら少年に格好いい自転車ですねと話しかけられた」と嬉しそうに話したり、深夜にたまたま付けたテレビでやっていた兄弟デュオ平川地一丁目ドキュメンタリーを一人で最後まで見ていたりしたことを覚えている。

あるとき新聞テレビ欄を見ながら、今夜この映画を見ようと思うと母に話しかけていたのが『夏の庭』だった。普段映画を観る習慣のあまり無かった父だが、この映画原作を読んだことのあった私は、新聞の紹介文を見て興味を惹かれたのだろうとすぐ分かった。『夏の庭』は小学生男の子三人と、近所に独りで暮らすお爺さんとのひと夏の交流物語だ。

その日父が実際にこの映画を観たのかは分からない。少なくとも私は一緒に観ていない。父が別の部屋で一人で観たのかもしれないが、観ていないかもしれない。この映画を見ようと思う、という発言けが頭の片隅にずっと残っていて、それ以外のことは覚えていない。

二十年以上、その記憶がなぜか消えず、かといって『夏の庭』を観るわけでもなく過ごし続けた。

今回の劇場公開の機会に、せっかくだからと観に行った。

いい映画だった。少年たちの素朴な存在感がいとおしかった。夏の暑さや庭の草木匂いが伝わってきて心地よかった。

もし観ていたのだとしたら、たぶん父も好きだったと思う。

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