以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「You can’t save an institution by betraying its mission」という記事を翻訳したものである。
ポーラ・ル・デューは私が知る限り最も聡明で献身的なアーキビストの一人だ。何年も前、彼女は公共アーカイブの有料[paywall]化という現象について興味深い視点を私に示してくれた。この傾向は、大幅な予算削減に直面した公共機関が民間資金を求めざるを得なくなるなか、急速に広がっている。
新たな「投資家」が資金回収のためにアーカイブを閉鎖すると、それは「良いビジネス判断」として喧伝される。だが——ポーラが指摘したように——これはビジネスの仕組みを完全に取り違えている。スタートアップの初期段階で忍耐資本を提供した投資家の株式を、後から参入してきた投資家がゼロにすることなどあり得ない。博物館や公共放送局をビジネスと捉えるなら、市民こそが初期投資家であり、その株式はアクセス権だ。自由なアクセスを奪うことは、我々の投資を一方的に無効化するも同然だ。
当然ながら公共機関はビジネスではなく、利益追求のために存在するわけではない。公共の利益に奉仕するために存在する。公衆衛生システム、公教育、公共アーカイブ、公共博物館、公園が利益を上げているとしたら、何かが根本的に間違っている。
公共機関の管理者たちがこの教訓を忘れれば、自らの立場を危うくすることになるだろう。どんな公共機関もいずれは存続の危機に立たされる。その時、彼らを救えるのは公共を支持する市民だけだ。2014年、フィレンツェで開催されたMuseums and the Webカンファレンスで基調講演をした際、私はこの点についてキュレーターたちに問いかけた。
https://mwf2014.museumsandtheweb.com/paper/glam-and-the-free-world/index.html
それ以来、この黙示録論的な時代におけるアーカイブのあり方について、ポーラと何度も議論を重ねてきた。彼女は私がその講演で伝えようとした要点を見事に言語化している――アーカイブが存続のためにアクセスを犠牲にするなら、それは自らの死亡宣告書にサインするに等しい、と。私が講演で述べたように、公共アーカイブへのアクセスを最大化しなければ、いつか資金が打ち切られる日が来たとしても、市民たちは味方してはくれない。自分たちが所有するはずのコレクションから締め出されれば、必然的に関心を失う。そうなると、アーキビストたちの丹念な保存作業は、皮肉にも当初コレクションの閉鎖を主張した「慈善家」億万長者向けのコレクション売却オークションのカタログの作成に利用されることになる。アーキビストたちの緻密な記録は、かつては公共の宝だったものが詰まったコンテナの積荷目録となり、ジュネーブ・フリーポート1訳注:ジュネーブ・フリーポートは、スイスのジュネーブに位置する特殊な保税倉庫区域。美術品や貴重品を税金を支払わずに無期限に保管できる。世界中の富裕層やコレクターが、公開展示せずに高価な芸術作品を資産として保管するために利用している。の光も差さぬ温度管理された倉庫で眠ることになるだろう。
ポーラとの会話が脳裏によみがえったのは、今週末、コーリー・ルービンがNPRの「On the Media」でブルック・グラッドストーンと対談するのを聴いたときだった。イスラエルによるパレスチナへのジェノサイドに反対する学生や教員を犠牲にして、トランプの攻撃から身を守ろうとしている大学について、彼らは議論していた。
コロンビア大学がグリーンカード保持者のマフムード・ハリル(現在ルイジアナの入国管理施設に収容されている大学院生)の拘束に加担した事例から、AIドリブンな親イスラエルサイトがイェール大学教授のヘリエ・ドウタギとハマスの関係を捏造したことによって、彼女が停職処分を受けた事例にいたるまで。
これらの機関――あるいは、トランスジェンダーの子どもたちへのジェンダーアファーマティブケアを中止したLAチルドレンズホスピタルのような他の機関――は単に「先回りして従っている」だけではない。彼らは自らの立場を守るために本来のミッションを裏切っているのだ。
このような行為は必ず自らに跳ね返ってくる。消防士が仕事を失わないために放火に手を染め、それでも町の人々が消防予算を守るために投票し続けてくれると期待できるものか。
気持ちはわかる。村を救うために村を破壊しなければならないと自分を納得させるのは容易い。公共サービスを途絶えさせないために、「今日を生き延びて明日を戦う」ことを誓ったのだろう。だが、自己正当化は恐ろしい麻薬のようなものだ。
https://pluralistic.net/2023/07/28/microincentives-and-enshittification/
トランプとそのファシスト運動は、自由な探究、ケア、正義、開放性を支える機関への攻撃を緩めることはないだろう。今日彼らに屈服しても、明日の安全は保障されない。しかし、裏切りが積み重なるたびに、これらの機関は市民からの支持をさらに失っていく。その支持なくして存続できるはずもないのに。支持者さえいれば金のない時代を乗り切ることもできよう。だが、金があったところで支持者のいない時代を生き延びることなどできはしない。
(Image: AJ Suresh, CC BY 2.0, modified)
Pluralistic: You can’t save an institution by betraying its mission (19 Mar 2025) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow
Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: March 19, 2025
Translation: heatwave_p2p