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⑥永島寛之氏に聞く採用CX(全3記事)

新入社員の早期離職は、ほぼ「受け入れ側の問題」 元ニトリ人事責任者が語る、採用プロセスの見直しよりも重要なこと

人事領域の専門家の株式会社壺中天 代表取締役の坪谷邦生氏と採用市場研究所 所長の秋山紘樹氏が、毎回ゲストを迎えてトークセッションを行う「採用入門」シリーズ。今回は、トイトイ合同会社 代表社員/元ニトリホールディングス 理事 組織開発室 室長 永島寛之氏に採用CXをテーマにうかがいます。本記事では、「企業と候補者の未来をかけたプロジェクト」としての採用の意義について意見を交わしました。

「リクルーター1年保証」で新人をフォロー

秋山紘樹氏(以下、秋山):もう1つおうかがいしたいんですが、採用担当者はオンボーディングにどこまで関わるべきだと考えていらっしゃいますか?

永島寛之氏(以下、永島):まず僕がやった話をしますと、家電の1年保証と一緒で「リクルーター1年保証」というものをつけていたんですね。1年以内の社員の悩みや「退職したい」という相談にはリクルーターが答えるという制度にしていました。

秋山:おもしろいですね。

永島:リクルーターの任期は最大3年なんですが、2年目に入ると1年保証が始まるので、相談が多いと大変じゃないですか。1人のリクルーターに約15人の新入社員が対象になりますから。だから、新入社員が早く会社に慣れるように、相談が来る前に新入社員が働いている場所まで行って、ヒアリングするリクルーターが多いです。

入社後も採用した人が見続けることが大事だし、そういうふうに採用していくとリクルーターも気にするようになるので、フォローアップで自分が採用したメンバーだけを集めたりもしているんですよ。それがベストソリューションだと思っています。

大半の新入社員からは、1年ぐらいはあんまりたくさん相談がないので大丈夫なんですけど。実際には、すべての相談ごとをリクルーターが聞くのも限界があります。だから、オンボーディングは配属先で手厚く実施するのが基本だとは思っています。

この点においては、既存の社員がそもそもオンボーディングしているかどうかが一番大事です。何年も在籍しながら、オンボーディングできていない社員がいる会社は、新入社員のオンボーディングにも課題を抱えがちです。

秋山:なるほど。

永島:社内にいながらオフボードしている社員と新入社員が接するうち、リアリティギャップが生まれるんですね。「面接で聞いていた話と現実が違う!」となります。
だから、受け入れ側がちゃんとオンボーディングをしているかどうかのほうが、新しい人がオンボーディングするかどうかよりも大事なんだと思いますよ。

新入社員の早期離職は、ほぼ「受け入れ側の問題」

秋山:既存の社員がしっかりと組織の価値観を体現できているという土台があってこそ、新入社員も自然と組織に溶け込み、成長していけるということですね。

永島:そうなんです。だから、新入社員の早期離職は受け入れ側の問題がほとんどです。早期退職が多いと、みなさんよく採用プロセスを変えていこうとするんですよね。採用の課題として扱う。

でも、それは入社した側の問題ではなく、受け入れた側の問題です。受け入れた側が、採用プロセスで話しているような未来の話をちゃんと理解しているのかどうかが一番の問題なんだと思います。また、面接における評定書の内容が受け入れ部署に共有されているかどうかも確認が必要です。

秋山:今のは面接で話したことと、現場で実際に受け入れる方との間の一貫性が重要というお話だと理解しました。もう一つ深掘らせていただきたいのですが、採用担当者と現場の方々は、新入社員の特性や期待値について、具体的にどのように連携を取っていくのが望ましいとお考えですか?

永島:全社会議などで採用の状況について詳しく報告していました。数値よりも、最近の大学生の傾向を伝えたり、自社のどのような点に興味を持って入社の意思決定をしているかなどの情報を共有していました。そうすることで、採用に関心を持ってもらい、後々のオンボーディングに繋げていくことを意識していました。

秋山:確かに。「採用できたよ、後はよろしく!」ではなくて、現場の人にどう興味を持ってもらうのかも含めて、進捗を共有したりすることが重要なんですね。

採用は「未来の組織づくり」

永島:やはり組織を運営しているメンバーは、基本的には目の前の組織のことで手いっぱいです。

一方で、最近は部門別で新卒採用を実施したり、採用プロセスの初期段階に部門を巻き込む会社も増えてきました。これは、スタートアップだけではなく、大手企業にもその傾向が現れてきています。とても良い方向だと思っています。実際、採用は未来の組織づくりですから、関わってみるととても楽しいということなんだと思っています。

秋山:確かにそうですね。採用担当者と学生との関係性ももちろん重要なのですが、その前提として採用担当者と現場との良好な関係性がなければ、効果的な採用活動は難しいということですよね。

永島:人事側から情報の共有を強化すると同時に、実際に仕組みとして部門を採用に巻き込んでいく形が今後はより求められてくると思います。分業という形を離れて、未来の組織づくりという問いを真ん中に置いて、人事と部門が協力していくためには、多くのケースでは経営陣の関わり方も大切になります。

秋山:結局は経営陣がどれだけ採用を重要課題として捉え、主体的に関わっているかが大きな鍵を握っているように感じます。一人の採用担当者が奮闘して解決できる範囲を超えている課題かもしれませんね。

永島:全社採用を掲げて、経営陣を中心として真剣に採用に取り組んでいる会社の採用チームは強いです。リクルーターも成長したいと思えば、そのような企業に移るということも考えた方がいいですよね。

求職者と採用側の関係になると、お互いフラットになれない難しさ

坪谷邦生氏(以下、坪谷):お話をうかがっていて、やはり「一緒に未来をつくっていく」という前提を持てるかどうかに尽きる感じがしました。

永島:そうですね。成果が出ている企業は総じて採用に力を入れている。しかも、全社での取り組みがされている。その点は、採用サイトや求人票の文言を見ただけでもわかります。僕は採用サイトのリンクの導線を見ただけでも、感じることがあります(笑)。

坪谷:先ほどの「職種や部署まで確約できるのか?」というお話も、共に未来をつくる前提で話をするんだったら、当然、「うちの会社だったら部署確約はできないけど、エリアまでなら何とかなるかもしれないんだよね」と言えるし。

学生側も「僕はやはりここに住んでいたいので」という話ができると、一緒に10年後、20年後の未来をつくっていくイメージが持てますよね。もうこっちも正直にならざるを得ないというか。

今が何兆円じゃなくて、未来に何兆円と置いたほうが、その差分を埋めるのは自分たちだと思えるから楽しいという話を、(永島さんが出られている)ほかの動画でも拝見しました。今の話もつながって、まさにそうだなと腑に落ちましたね。未来を一緒に描けていたら、そこに向けてやっていこうかという関係性ができていく。

その次は企業側もフラットにならなきゃいけないし、出すべき情報は当たり前に出していくという。人と人の関係性として、ごくごく当たり前のことだなと思うんですけど、(採用となると)ここができていないのがなんだかおもしろいですね。

多くの企業の採用プロセスはいまだ雑な状況

永島:そうですね。そこで言うと、いまだに多くの企業では採用プロセスが雑だということに尽きるんですよね。僕はかなり丁寧に採用プロセスを運用してきました。採用は、企業と候補者の未来をかけたプロジェクトですから、やはり丁寧にいかないといけない。

このような状況を企業が打破するため、「スカウト採用」という仕組みがあるのですが、これを使いこなせない企業はまだ多い。それほど難しい仕組みではないのですが、丁寧に採用をするためには、ある程度の規模の採用組織が必要なのですが、そこに投資をしない経営者は多い。これはとても残念だと思っています。

坪谷:この間、採用代行のマルゴトさんの今啓亮社長とお話しました。採用担当の方々が何で困っているかというと、純粋に忙しいんですよね。ただただ回さなきゃいけなくて、本当はちゃんとやりたい人が多いんだけど、雑にならざるを得ないという。

永島:そうなんですよ。僕が言っていることぐらい、頭の中ではそれが理想だとわかっていると思うんですよね(笑)。

僕はずっと組織の中で「関係性をどうつくるか?」ということを考えてきました。アルムナイのところにも関わってくるかもしれないですけど、そっちは雇用関係と関係性だけでいくのかという話ですよね。

何もしなければ、組織は常に崩壊に向かっていく

坪谷:そうですよね。そう思うと、さっき秋山さんが3つ目に聞きたいと言っていた退社の話につながるんですけど。私は『採用こっそり相談室』での永島さんのお話から、組織を生物的に捉えていらっしゃる感じがしたんですね。

「採用はこうやったら正解」とか「ニトリはこうすればいい」というよりは、「自分はこれが大事だと思って、こうやって組み立ててこうなりました。自分の時はブラックだったけど、次の人はホワイトを目指してこうやってるよ」という感じですね。ニトリさんのインターンシップのあり方も「変わっていくものだよ」という前提で話されている感じがしました。

永島さんは、人が入ってまた抜けていくという組織観を、どう見ていますか?

永島:僕が一番それを学んだのは、店舗で2年ぐらい店長をやらせてもらった時ですね。40歳から店長になって、その時にやはり「組織は永続的ではない」ということを痛感することがありました。

エントロピーの法則にもある通り、何らかの働きかけを続けていないと、組織は常に壊れる方向に向かっていきます。だから、組織における関係性は常に意識していましたね。何もしなくて、たまたま自然治癒のように組織が良くなるということはほとんどないと考えるべきです。

これは私の黒歴史でもあり、最大の学びでもあるのですが、店舗の店長時代に実際に店を崩壊させそうになって、エリアマネージャーにすごく助けられたという思い出が、僕の中にもあるので(笑)。僕が人事を志した原体験としては、そこがあるかもしれないですね。

秋山:なるほど。

現代は「分断」を前提とした組織開発が重要

永島:それに加えて、価値観が解放されている今の時代は、「分断の組織」になってきていると思っています。昔のように価値観を揃えて一致団結していくことが難しいし、そのような金太郎飴型の組織は競争力を失いつつあります。

現代は「分断の組織」であることを前提に、分断を関係性で繋ぎ、より付加価値を増やしていくような組織開発が重要になってきています。だから今、組織を司っている人って大変なんですよね。

秋山:確かに、組織の多様性や価値観の違いは、現代では自然な状態なのだと改めて感じました。以前、永島さんが組織における「求心力と遠心力」についてお話しされていたことを思い出したのですが、このような組織の多様性を前提とした時、その二つの力のバランスをどう考えていけばよいのでしょうか?

永島:そうですね。「求心力を高めよう」と言って、エンゲージメント施策をあれこれやっているのは、たぶんそのアプローチでは永遠に幸せにならない組織だろうと思っています(笑)。

まず前提として遠心力でバラバラになっていることを認識して、その上で何をどうしようかと考えないと、いつまで経ってもうまくいった感じは得られないと思うんですよね。

だから、たまにYoutube動画などですごく気合の入った企業の朝礼シーンを見かけたりしますが、あのような景色は、複雑で高度な組織運営では通用しないのではないかと感じています。

一体感なき時代の人事パーソンに求められること

永島:スポーツのように一致団結することについては、僕も嫌いではないですが、これからは常にスポーツチームのようでいられる組織をつくるのは難しくなってきている。実際のところ、複雑な組織運営が必要な企業にいながらにして、そういうものを夢見てる人はけっこう多いんですよ。「なんか一体感ないんだよね」って。

でも、ないですよ。みんなバックグラウンドが違うし、会社のために働いている人もいれば、自分のために働いている人もいるので。その価値観を合わせにいくと、息苦しくなってしまう。

このような時代背景の中で、より組織を理解できる人事パーソンが求められるようになってきて、事業部から人事に移る人が増えてきているように感じます。事業一筋の役員クラスの方が人事のトップになるケースや、営業の2番手、3番手ぐらいの人が人事の責任者になるケースが増えていると思います。良い流れなのですが、その方々が人事のことがわからずに困っているという相談をよく受けます。

そうすると、そういった方々は採用業務にあまり深入りしてこないんですよね。だから、坪谷さんの書籍のシリーズにあるような、例えば「評価って何だと思いますか?」とか「何のために採用をしているのか?」といった本質的な問いを立てていくことはすごく意味があって、人事業務を作業ではなく、未来の組織をつくるための業務に変えていくことができると思っています。

だから勝手な希望ですけど、坪谷さんの壺中人事塾の企業内版とかあってもいいなって、いつも思っていますね。

坪谷:人事の「そもそも」を問い、持論を形成することが私の壺中人事塾の特徴ですので、企業内版は確かに効果がありそうです。やってみたいですね! ではお時間がきてしまいましたので、ここまでとさせていただきます。ありがとうございました。

秋山:ありがとうございました。

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