小型でよい音のスピーカーとして、フィンランドのスピーカーGENELEC(ジェネレック)の製品を紹介します。写真はRCAのアナログ音声入力端子を装備する「G」シリーズで最もコンパクトなモデル「G One」
休みの日も自宅にこもりがちになる冬は、デスクトップやリビングルームの“オーディオ環境の衣替え”に最適な季節です。スマホやPCで聴くサブスクサービスの音楽、映画やゲームのサウンドが一段とリッチになり、省スペース設置にも対応するGENELEC(ジェネレック)の小型アクティブモニタースピーカーを紹介します。
プロの現場で定番として愛されるジェネレックですが、実は家庭用スピーカーとしても非常に有用です。ここでは、その7つの理由を説明します。
ジェネレックは1978年に創業した北欧フィンランドのオーディオメーカーです。首都ヘルシンキから飛行機で1時間、さらにそこから車で1時間ほど北上したイーサルミという街に本社を構えています。深緑の中にある本社工場では、ジェネレックのすべてのスピーカー製品が設計・開発から組み立てまで一貫して行われます。
自然に囲まれたジェネレックの本社
やわらかく、そしてどこか人なつっこい印象を抱かせるたたずまいもジェネレックのスピーカーらしさを際立たせています。デザインをジェネレックと共同で手掛けているのは、現代フィンランドを代表するインダストリアルデザイナーのハッリ・コスキネン氏です。コスキネン氏のデザインによるプロダクトは家具に照明器具、食器など幅広くまたがっています。奇をてらうことなく実用性に富み、長く愛せる親しみやすさも備えるデザインにはフィンランドの人と文化の“温かみ”があります。
ハッリ・コスキネン氏はiittalaやMarimekkoなどの製品を手掛けるインダストリアルデザイナー。ジェネレックのスピーカーは、インダストリアルデザイナーが手掛ける言わば“デザイナーズスピーカー”なのです
こちらの写真は、京都のカプセルホテル「MAJA HOTEL KYOTO(マヤ ホテル キョウト)」。こちらも彼のデザインで、「MAJA(マヤ)」とはフィンランド語で「小屋」の意味だそうです(2023年11月30日をもって休館)
コスキネン氏がデザインしたジェネレックのスピーカーは、ユニットを格納するエンクロージャー(キャビネット)の素材にリサイクルされたアルミニウムを使っています。アルミニウムの筐体は薄肉でありながら強靱さを確保できるため、スピーカーの内部容積を大きく設計できます。そのため、ジェネレックのスピーカーはコンパクトでありながらサイズを超える力強い低音が出せます。同じサイズのスピーカーと比べながら聴くと実力差は明白です。
ボディの97%にリサイクル・アルミニウムを採用したジェネレックのスピーカー。モデルによってユニット口径や本体サイズが異なりますが、デザインコンセプトは共通。これはシリーズが異なっても同様です。すべてアンプを内蔵しているので、システムがシンプルにまとめられることもメリットです(詳細は後述)
ジェネレックの製品には豊富なラインアップが揃っています。どのモデルも扱いがシンプルであることから「本格派の小型アクティブモニタースピーカー」の入門機としても人気です。
かたやジェネレックは長年にわたり、先進的なオーディオリスニングを実現するソフトウェア技術も蓄積してきました。さまざまなメディアとコンテンツを扱う音楽制作のプロフェッショナル、あるいはスタジオや放送局など音響施設のエンジニアがジェネレックのスピーカーを使ってよりよい音を生み出すために、DSPを内蔵したSAM(Smart Active Monitor)と、それらで使用できるGLM(Genelec Loudspeaker Manager)というオーディオキャリブレーションソフトウェアも15年以上前からリリースし、常に進化を続けています。
スピーカーを設置場所に応じて最適化する「GLM」ソフトウェアは、ジェネレックの「SAM」シリーズで使用可能。「GLM」の使用に必要な「GLM Kit」(50,000円相当)とボリューム・コントローラーの「9310B」(12,000円相当)をパッケージしたお得な「GLM Studio」(スピーカーは「8320A」および「8330A」など)も好評です。スピーカー本体の色はダーク・グレー、白、そしてアルミの質感をそのまま生かしたサステナブルなRAWフィニッシュから選べます
「GLM」では、周波数特性のほか、レベル(音量)、リスニングポジションまでの音の到達時間(位相)を揃えます。周波数特性については無理な補正はせず、主にピーク(周波数の出っ張り)を削るスマートな処理が施されます
専用のキット(PCにつなぐアダプターとマイク)で簡単に音質の最適化を図れる「GLM」。スピーカー(音質)のための環境を整えるのは、一般ユーザーにとっては難しいもの。それをうまく補助してくれるのがこの高精度のキャリブレーションです
アダプターにつないだマイクで、スピーカーから発せられるテストトーンを計測。測定と反映にかかる時間はわずか数十秒です。この測定用マイクも、フィンランドで一台一台、シリアル単位で特性を管理した状態で出荷されます
「GLM」によるオート・キャリブレーションを使用すると、設置した空間に対して簡単にスピーカーを最適化できます。使い方も簡単で、部屋に専用のマイクを立てて、スピーカーからテストトーンを再生するとわずか40秒前後でキャリブレーションが完了。スピーカーを置いた環境が音にもたらす悪い影響を限界まで回避しながら、あらゆる場所で音源に忠実なサウンドを再現します。
ジェネレックはユーザーに忠実な音を届けるため、ニュートラルで正確なサウンドを再現できるリファレンス・モニタースピーカーをつくることを企業理念としています。同社が創業のころから掲げる「The Sonic Reference」というスローガンにその意気込みが込められています。
ジェネレックは「The Sonic Reference」というスローガンを掲げています。日本語で言えば、「音の基準」といったところでしょうか
いずれのスピーカーもオーディオ信号を増幅するために必要なアンプを本体に内蔵しています。同じタイプの製品は一般的に「アクティブスピーカー」、または「パワードスピーカー」と呼ばれたりもします。対極である「パッシブスピーカー」は別途アンプを必要としますが、アクティブスピーカーはオーディオ再生機器と直接つなげられるため、デスクの空きスペースやリビングルームのテレビサイドなど限られたスペースが有効に活用できます。音質劣化の要因にもなるケーブルの引き回しが最小限にできることもメリットです。
音質はスピーカーとアンプの組み合わせによっても変化しますが、それぞれのコンポーネントが一体になっているジェネレックのスピーカーはユーザーが好む音に影響をもたらす要素が少なく、いつでも安定してリファレンスサウンドが再現できるわけです。
筐体の中にはスピーカーユニットのほか、アンプも内蔵。アルミニウムの筐体そのものは、アンプで発生する熱を逃がすヒートシンクとしての役割も果たすなど、ジェネレックのスピーカーはすべて非常に合理的な作りとなっています。写真はフラグシップシリーズとなる「The Ones」の分解イメージ
色付けがなく、クリエイターの意図を忠実に反映するスピーカーとして、ジェネレックは多くのプロフェッショナルから厚い信頼を得ています。世界に轟く人気のほどは、ジェネレック公式サイトの「ユーザー・ストーリー」に続々と集まるクリエイターの声、そして導入事例が証明しています。
そもそもジェネレックの歴史は1976年にフィンランドの放送局であるYLEが、ラジオ番組制作のためのリファレンススピーカーを創業者のイルポ・マルティカイネン氏に依頼したことがきっかけです(会社としての創業は1978年)。
そして現在も世界中の音楽スタジオや放送局のデファクトスタンダードとして使われ続けているほか、オーディオ に関わるプロダクトやサービスを提供する企業がジェネレックのスピーカーをリファレンスシステムに導入しています。たとえばBang & Olufsen(バング・アンド・オルフセン/導入事例はこちら)やアップルが、自社の音響研究施設にジェネレックのスピーカーを導入したことを表明しています。
カリフォルニア州クパチーノにあるアップルのオーディオラボの様子。多くのジェネレックスピーカーが設置されています
ジェネレック初の製品「S30」が発売されたのは1978年。この「S30」は45年以上前のスピーカーにもかかわらず、現在でも可能な限り修理を検討してくれるとのこと。 同社がプロに信頼されている理由は、こうしたサポート体制にもあります
キャリブレーションまでを考えれば「SAMスタジオ・モニター」シリーズが候補になりますが、より気軽に選べる製品もラインアップされています。ここでは、音楽リスニング用として自宅で気軽に楽しめるシリーズを紹介します。
まずは2ウェイ・スタジオ・モニター「8000シリーズ」のアナログ接続専用スピーカーです。多くの音楽ファンに愛される「8010A」もこのシリーズの代表格です。サウンドはニュートラルでバランスがよく、コンパクトでありながら低音もパワフルに鳴らしきります。
76mmウーハーを搭載する非常にコンパクトな「8010A」(左)と「G One」(右)(どちらもRAWフィニッシュ)。両機は業務用と家庭用というカテゴライズがされていますが、基本的には同一スペック。前面LEDの色のほか、接続端子がそれぞれXLR/RCAという違いがあります
シリーズの中で最もコンパクトな「8010A」の外形寸法は121(幅)×195(高さ)×115(奥行)mm(ゴムに似た内部損失の高い特殊素材で作られており、効率よく不要な信号を遮断する 「Iso-Podスタンド」を装着した状態で)。MacBookと並べて置いてもマッチするサイズ感です。
ジェネレックの「SAM」シリーズおよび「G」シリーズ、「The Ones」シリーズには「Iso-Podスタンド」と呼ばれるデスクトップスタンドが付属しています。角度調整もできるためとても使いやすく、必要に応じて選べる別売スタンドも多数用意されます(写真は「G One」)
「8010A」は、本体の背面にアナログ音声入力(XLR)端子を装備しています。「MacBook」などのPCに接続する場合は、ヘッドホン端子から変換ケーブルを使用して接続したり、さらなるレベルアップを目指すなら、アナログ音声出力端子を持つUSBオーディオインターフェイス(USB DAC)などを経由したりするとよいでしょう。
インターフェイス機器にBluetoothオーディオレシーバーの機能があれば、さらにスマートフォンやタブレットから音楽サブスクサービス、映画・ゲームのサウンドをワイヤレスで飛ばして「8010A」 や「G One」で鳴らせます。
ジェネレックジャパンのオフィスでは、「G One」とフィーオの「BR13」が組み合わされていました。「BR13」はBluetooth受信機能を持ったUSB DACなので、これだけで本格的なモニタースピーカー兼Bluetoothスピーカーシステムができあがります
2ウェイ・スタジオ・モニター、「8000」シリーズのアナログ接続専用モデルには、サイズが異なる5つのラインアップがあります。小さいほうから「8010A」「8020D」「8030C」「8040B」の各モデルは定番のダーク・グレー、ホワイト のほかに、アルミニウムの素材の味わいを生かした新色のRAWフィニッシュの中からカラーバリエーションが選べます(最大サイズの「8050B」はダーク・グレーとホワイトのみ)。
左から、「8010A」「8020D」「8030C」「8040B」「8050B」
【赤色】スピーカーの種類
・8=スタジオ・モニター
・6=ホーム・オーディオ(Gシリーズ)
・7=サブウーハー
・4=設備音響スピーカー
・1=メインモニター
【緑色】アナログ/デジタル
・0=アナログ
・2または3=デジタル(DSP内蔵・GLMに対応)
【黄色】スピーカーのサイズ
※1が最小
【青色】ユニット型式
・0=2ウェイ
・1=同軸
【紫色】スピーカーの世代
※Aがトラディショナル/B以降から順に新世代
つまり「8010A」は「スタジオ・モニター/アナログ接続/1(カテゴリ内で最小サイズ)/2ウェイ/A世代」のスピーカーということになります。
なお、ジェネレックでは、「SAM」シリーズ3番目のサイズとなる「8330A」および「8331A」からAES/EBU端子によるデジタル音声入力にも対応します。
ジェネレックの家庭用スピーカーとして展開されるシンプルな2ウェイスピーカー「G」シリーズ。左から「G One」「G Two」「G Three」「G Four」「G Five」
「G」シリーズ(=旧「6000」シリーズ)もリスニング用途に適した、アナログ接続専用の人気モデルです。最小サイズの「G One」から、最大サイズの「G Five」まで5つのラインアップがあります(「8000」シリーズが5つのラインアップで構成されるのと同じです)。音楽リスニングからシアター鑑賞、ゲーミングにまで幅広く使えるオールラウンダーです。
「G」シリーズでは家庭用製品に採用例の多いRCA端子が入力端子として採用されています(「8000」シリーズはXLR端子)。「8000」シリーズと迷った場合は、接続する機材の端子につなぎやすいほうを選べば間違いありません。詳細は公式サイトを参照のこと
一般的なリスニング用途であれば、「G」シリーズのスピーカー単体でも十分にパワフルな低音再生が楽しめると思います。大画面テレビ、またはプロジェクターとスクリーンによるホームシアター鑑賞の際には、より充実した重低音が欲しくなります。「G」シリーズにパフォーマンスとサイズを合わせた「F」シリーズは、このようなニーズに応えるアクティブ・サブウーハーです。
さらに「G」シリーズ(「G One」または「G Two」)と「F One」をパッケージにした「2.1ch Home Set」も好調。各モデルを単体で購入する場合よりも少しお手頃な価格で購入できるところも魅力的です。
「G」シリーズ最小モデル「G One」とサブウーハー「F One」がセットになる「2.1ch Home Set」はブラックとホワイトの2色展開
「F One」はデジタル(同軸、光)とアナログ音声入力を持ったサブウーハー。付属リモコンで音量調整と入力切り替えができるため、プリアンプ的に使えるという特徴もあります
「The Ones」シリーズは、ジェネレックが誇る「GLM」対応の同軸3ウェイ構造のスタジオ・モニターで、フラッグシップに位置する製品です。「GLM」ソフトウェアによる自動キャリブレーションと、音響環境に合わせたきめ細かなサウンド調整に対応するほか、同軸構造によるすぐれた定位感、そして広い周波数帯域と極限まで聴き疲れを抑える広い指向特性を備えています。
ブランドが創業時からひたむきに探求し続けている、究極のリファレンス・モニタースピーカーの現代の集大成です。
「The Ones」シリーズの最小モデル「8331A」。中央に見えるのが90mmコーン+19mmツイーターによる同軸ユニットで、その後ろに楕円形のウーハーユニットが2つ縦に並ぶという複雑な構造をしています
設備向けスピーカーにはスタンダードな形の製品(写真上)のほか、ペンダント型のスピーカー(写真下)もあります
そして、ジェネレックが誇るスピーカーのラインアップには、ほかにも設備音響のニーズをサポートするシリーズがあります。
複数スピーカーの高度な制御と電源供給、オーディオ信号伝送を1本のLANケーブル接続で賄うことのできる「Smart IP」シリーズも、2019年の発表直後から大型商業施設やレストラン・カフェなどに勢いよく展開しており、2024年にはグッドデザイン賞の「グッドデザイン・ベスト100」に選ばれています。
ジェネレックはスピーカー製品の販売価格をすべてオープン価格としています。参考までに価格.comで検索すると、最もコンパクトな「8010A」「G One」のペアでの税込価格が79,200円(2025年1月時点でキャンペーン中の価格、通常はペアで税込92,000円)、「The Ones」シリーズの中で最もコンパクトな「8331A」のペアの税込価格が726,000円(2025年1月16日時点)でした。特に「The Ones」シリーズは非常に高価なスピーカーで、試しに買ってみるということは難しいかもしれません。
でもご安心ください。もし、ジェネレックのスピーカーが気になっているなら、「Genelecエクスペリエンスセンター Tokyo」を訪ねてみるとよいでしょう。ジェネレックジャパンが東京・赤坂に構えるリスニングルームで気になる製品をステレオで試聴したり、イマーシブ・ルームでは11.1chシステムによる没入型コンテンツを試聴したりもできます。要事前予約ですが、ジェネレックのウェブサイトから簡単に申し込めます。
こちらはステレオルーム。音響の整えられた部屋で、気になるスピーカーをじっくり試聴できます
「Genelecエクスペリエンスセンター Tokyo」にはホーム・オーディオから設備音響用まで、ジェネレックの主要製品がひと通り揃っています。いま「何となくジェネレックが気になっている」方や、これから店舗にBGM再生用のスピーカーとしてジェネレックの導入を考えている人は、訪れてみる価値が大いにあります。ジェネレックジャパンのテクニカル・スタッフとセールス&マーケティング・スタッフがさまざまなお悩みに対してベストな解決方法を指南してくれます。ジェネレックによる最先端のサウンドとテクノロジーにぜひ触れてみてください。