安倍首相も小池都知事も「空虚だけど支持される」現実をどう理解するか

今、日本とイギリスで起きていること

今、日本とイギリスで何が起きているのか? キーワードは「空虚」? SNS時代に私たちが忘れていることとは? 『ルポ 百田尚樹現象〜愛国ポピュリズムの現在地』著者でノンフィクションライターの石戸諭さんと、ベストセラー『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の著者で、新刊『ワイルドサイドをほっつき歩け』も大きな話題となっているブレイディみかこさんが縦横に語り尽くす。

イギリスと日本のおじさんたち

石戸 ブレイディさんの新刊『ワイルドサイドをほっつき歩け』(筑摩書房)をとても面白く読みました。ベストセラーになった『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)は息子を通して見えてくるイギリスの格差や差別を描くというもの。それが、今回の主役は一転して周囲にいるおじさんたちです。

僕が非常に興味深かったのは、この本で描かれたイギリスのおじさんたちと同様に、日本のおじさんたちも一番のマイノリティというか、マイノリティ意識を募らせやすい存在ではないか、ということです。あちこちで邪魔者扱い、改革を阻むもの扱い、そして無理解の象徴的存在ですから。

この本の中には労働者階級なのに、ぽろっと今度は保守党に入れようかみたいなことを言っているおっさんたち、世界を騒がせたイギリスのEU離脱派もたくさんでてきて、あなたたちのアイデンティティって何なの?と問いかけたくなりました(笑)

この本のポイントは、彼らのミクロな意識の変化が投票を通じて、大きな政治とダイレクトに結びつくっていうことですよね。私生活の鬱憤や「感情」が、イギリスのEU離脱のような話とつながる。

ブレイディ そう、そう、そうなんです。マクロな政治を考える側は、人の情念を軽く見てはいけない。それは英国のEU離脱投票の結果が出たとき、当時の政府やリベラルな知識人が愕然とさせられた点ですよね。

石戸 この本を読んで思ったのは、僕が新刊『ルポ 百田尚樹現象〜愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)で取材した、百田尚樹さんのことでした。彼は平成最大のベストセラー作家であり、安倍晋三首相とも個人的なつながりもあり、政権と最も近い――とみなされている――作家です。

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ところが、彼に会って真っ先に思ったのは、「大阪のおっちゃん」だということでした。僕は京都の大学で4年、新聞記者時代に大阪社会部で3年働いていたので雰囲気がちょっとわかるんですね。それはこういうことです。

百田さん自身に売れるものを作る才能、マスマーケットや大衆に届ける才能があることは間違いないことです。その一方で、僕たちは彼が右派的、嫌中・嫌韓、排外主義的発言を繰り返すことも知っている。それ自体、極端な発言に見えますが、実は違う。大衆の感情とリンクしているし、百田さんはそこから離れていないというのがこの本の一つの柱です。

「中国ってなんか嫌だよね」「ああ、韓国の文在寅の言ってることはむかつくよね」と感じる人は少なからずいて、そういうみんなの感情の延長に百田さんの人気がある。この社会の中にあって「異物」として百田さんが存在してるのかというと、実はまったく違うと。

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