米国からウクライナに供与された最初の高機動ロケット砲システム(HIMARS)がロシア軍を砲撃した日は、ウクライナにとって転機になった。おそらく2022年6月のことである。最大射程92kmの精密誘導ロケット弾などを発射するHIMARSは世界最高峰の砲システムだ。
ウクライナ軍は40基あまり(うち2基をロシア軍に撃破されている)の米ロッキード・マーティン製HIMARSを用いて、ロシア軍の大砲や指揮所、兵力の集中地点などを攻撃してきた。2022年8月、ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領はこう語っている。
「『HIMARS』という言葉はわたしたちの国にとって『正義』とほぼ同義語になっています。ウクライナ国防軍はこの非常に有効なシステムによって、占領軍が毎週、痛みをともなう損害をもっともっと多く被るよう全力を尽くしていきます」
だが、ドナルド・トランプ米大統領がウクライナへの米国の援助をすべて凍結したことで、ウクライナ軍の残りのHIMARSもいずれ、米国から供与されたロケット弾が枯渇するおそれがある。援助の凍結は、トランプとJ・D・バンス米副大統領が2月28日、ホワイトハウスを訪れたゼレンスキーを、米国のこれまでの援助に対する感謝が不十分だなどと記者団の前で激しく非難するという、惨事になった首脳会談を受けた懲罰的措置だ。
凍結が解除されない限り、ウクライナには最終的に2つの選択肢しかなくなる。HIMARSの運用を完全に停止し、前線火力の深刻な喪失を受け入れるか、それとも、HIMARS用のロケット弾について米国に代わる調達源を見つけるかだ。
弾薬の残存数
ウクライナがHIMARS用の重量300kg弱のM30およびM31ロケット弾を何発受け取り、うち何発を発射し、あと何発残っているのかを正確に言うのは難しい。ジョー・バイデン前政権のもとで米国防総省は、産業界からウクライナ向けに直接調達するものと、大統領権限で米軍の在庫からウクライナに引き渡す分を補充するものとを合わせ、ロッキード・マーティンとのHIMARS関連契約に少なくとも約11億5000万ドル(約1700億円)を費やしている。