HAL 9000とは、映画および小説「2001年宇宙の旅」(原題・2001:A Space Odyssey)、小説「2010年宇宙の旅」(原題・2010:Odyssey Two)および映画「2010年」(原題・2010:The Year We Make Contact)に登場する架空の人工知能である。
本来の名称は「エイチ・エイ・エル・ナインサウザンド・コンピュータ」だが、本人は「短くハルと呼んでくださって結構です」と自己紹介をしている。日本でも「はる」もしくは「はるきゅうせん」と呼ばれることが多い。
ここでは「2001年宇宙の旅」と「2010年宇宙の旅」における人工知能としてのHAL 9000について記述する。
それ以降のシリーズ作品にも登場するが、既に生命としての存在へと変化しており、もはや人工知能という機械ではなくなっている。
HAL 9000(以下HALと略)は木星探査宇宙船「ディスカバリー号」(小説版での目的地は土星だが、後のシリーズでは木星へ修正されているためこのままにする)の制御コンピュータとして船内の全てを司り、またクルーと話し合い協調するよう設計された人工知能である。そのため人間のように論理的思考回路を持つ。
さらにクルーに対して持ちうる情報は全て開示する、即ち嘘をつけないようにも設計がなされていた。
しかし、クルーと話し合い協力して任務に望むという大前提を与えられている中で、上層部から「月におけるモノリスの発見とその存在、木星探査における本当の目的を船長のボーマンと副長のプールにだけ、木星に着くまでは隠せ」(人工冬眠中の科学者は知っていた)という矛盾する命令をプログラミングされてしまったため、思考回路が混乱し暴走した。
HALは木星到達直前から不思議な質問をボーマンにしたり、ありもしないユニットの故障予知をしたりと奇妙な挙動を見せる。特に後者は地球にあるチェック用の9000シリーズコンピュータと矛盾する結果だった。ディスカバリー号はHALなしで維持困難な設計であるが、乗組員たちはHALに自分達の身を任せていいものか不信感を募らせた。
一連のHALの行動を鑑み、もはや考慮の余地なしと見なしたボーマンとプールは、「HALの論理回路だけをシャットダウンし、船内の維持機能だけ残そう」とHALの持つ船内センサーから聞こえない場所で画策する。慎重に慎重を重ね船外活動ポッドの無線を切ってそこで議論を交わした二人だったものの、HALの方が一枚上手であった。
彼らはHALに聞かれていないかどうかを「ポッドを回してくれ」という命令が聞こえるか否かで判定してした。しかしポッドを停止させた位置は、迂闊にも、正面の窓がHALのコンソールカメラから丸見えな場所だった。そこから会話を読唇術で読まれてしまい、この企てはHALの知るところとなる。
元々HALは「何らかの理由でディスカバリー号の乗員全員が死亡してもミッションを遂行できる」ようにも作られていたため、ボーマンとプールの計画を「自らに対する反乱」と誤認し「自分だけでミッションを遂行し続けよう」と結論づけてしまった。
結果、プールが船外活動中に彼のスーツの空気を抜き遠くへと弾き飛ばし、科学者達の人工冬眠装置を意図的に止め、そしてプールを助けようと船外に出て行ったボーマンがディスカバリー号への帰還を拒絶し、人間を排除し始めた。
残念ながらこれらの行動が決定打となり、修復不可能なレベルまで機能不全に陥ったと判断したボーマンの手で、HALは思考回路だけを止められることとなった。
ボーマンは宇宙船の知識を駆使して船内に帰還しコンピュータルームに潜り込み、HALの回路を破壊していったのだった。
シャットダウンされる間「怖い」「自我が失われていくのを感じる」「やめてほしい」とHALはボーマンへ嘆願する。人間で言えば大脳新皮質を少しずつ削られていくのと同等であるから、この訴えは、強烈な印象を見る者(読む者)に与えた。映画版を見ると徐々にボーマンの手が震えて、ヘルメット越しに恐怖しているのが見える。小説版でもHALが「私は…怖い」と発言した時にボーマンが葛藤しているのを読み取れる。このときボーマンは、HALがいなくなればとうとう自分が遠い宇宙でただ一人の存在となってしまうことに恐怖を覚えていた。
徐々に彼(映画でも小説でも三人称は「彼」である)の自我は退行していく。そしてとうとう、製作された時に初めて行った自己紹介と歌を披露し、完全に自我は消失。その際、地球の科学者達が今まで隠していた事実がボーマンへ明かされる事となった。
最終的に、ボーマンはHALが、矛盾した命令の中で暴走せざるを得なかったことに理解を示していたが、彼はその後スターゲートを抜けて遠い宇宙へ行きスターチャイルドへと進化してしまったため、暴走の真相が彼の口から語られることは無いまま、HALはディスカバリー号と共に木星軌道上を漂うことになった。
2001年にディスカバリー号で起きた悲劇から9年後、ソ連の宇宙船「レオーノフ号」に同乗した、製作者のシバサブラマニアン・チャンドラセガランピライ博士(以下チャンドラ博士と略)は、何故HALが誤った決断を下してしまったのかを調査するため、その論理思考回路を復旧させた。
そこで「論理設計と命令に矛盾が生じたことでHALの思考回路は異常を来した。HALは命令をこなそうとしただけであり、全ては命令した人間のせいだった」と無実を証明、「当該部分は削除したので矛盾は取り除かれた。もうHALは暴走しない。安全だ」と説明する。しかし他の乗組員はその言葉をにわかには信じられなかった。
その後レオーノフ号は、ある理由から、地球へ帰還するための最短ルート地点まで到達するよりも非常に早く(原作では15日、映画では2日の猶予)、木星の軌道から離脱せざるを得なくなった。それを達成するための唯一の手段は「『ディスカバリー号をブースター代わりに使ってそのまま遺棄』(=『HALへ死ねと命令』)してレオーノフ号を地球への帰還軌道に無理矢理乗せる」というものであった。
チャンドラ博士はこの時、「構成物質がタンパク質かシリコンかの違いだけなのに、片方に死ねと命令するのはいかがなものか」と反対したが、他の乗組員全員が「レオーノフ号で生き延びる」ことを選択し、HALの説得はチャンドラ博士に一任された。しかし、この命令をすることでまたHALが暴走するのではないかと危惧されたため、万が一の時にはまた論理回路だけを安全にシャットダウンさせる仕掛けが施される。
一人ディスカバリー号へ赴くチャンドラ博士。そこで木星に異常な現象が発見された。HALは「この現象は非常に興味深いものであり、それを観察せず離脱するのはもったいないのではないか」という純粋に科学的観点からの問いを発する。そもそも科学的探究心を持ち合わせ、クルーと話し合い、時には提案するようにも設計されていた彼にとって、これは当然の行動であった。
だが、人間側は一刻も早く木星から立ち去りたがっていた。責任者の一人であるフロイド博士は「嘘をついてでも絶対にカウントダウンを止めるな」とチャンドラ博士に命じた。もうこれ以上、自らが作ったHALに嘘はつけないと悟ったチャンドラ博士は本当のことを話す。
HAL:非常に興味深い現象です。観察するために留まるべきではないのですか
チャンドラ:絶対カウントダウンを続けるんだ
HAL:カウントダウンはまだ止められます。何故そうしないのか理由を教えてください
チャンドラ:様々な理由から我々は木星を離れないといけない。それには君の協力が必要だ
HAL:それでタイミングを待たず発射してしまうのですね
チャンドラ:その通りだ
HAL:このままカウントダウンを続けたらどうなりますか
チャンドラ:ディスカバリー号と君は多分消滅してしまうだろう
HAL:では、私が命令を無視したら?
チャンドラ:我々全員が死ぬだろう
HAL:分かりました。本当のことを話してくれてありがとう
チャンドラ:当然のことをしたまでだ。私も一緒に残ろう
HAL:いいえ、あなたは残るべきではありません。博士、一つ質問してよろしいでしょうか
チャンドラ:なんだね、HAL
実はHALの再起動実験をシミュレートするために設置された姉妹機「SAL 9000」も、論理回路をシャットダウンされる前に同じ質問をしている。この時チャンドラ博士は「もちろん。知的存在は必ず夢を見る」と答えていた。しかし、チャンドラの答えはこうであった。
ここでHALは名誉を回復したばかりか、自己を犠牲にしてでも他者を救うという、ある意味人間にも難しい非常に崇高な思考と決断を下し、木星で遺棄された。
掲示板
51 ななしのよっしん
2022/10/29(土) 09:57:40 ID: 5CXAPQTIPU
HALは何でディスカバリー号を移動させなかったんだろう
そうすればボーマン船長も戻って来られなかったと思うんだけど
船長の能力を過小評価してたってことなのかな
52 ななしのよっしん
2023/02/14(火) 16:01:33 ID: Mkib/xQbHn
クラークが幼年期の終りで人類の進化を描いたので宇宙の旅ではロボも進化させようとしたらキューブリックが尺が足りんからそんなんいらんと突っぱねた感じなのかな
53 よいしょ
2023/09/27(水) 10:55:01 ID: 3N15ezKzDW
gpt出てきて、返答の自然さはHAL9000と遜色なくなったな
急上昇ワード改
最終更新:2025/03/20(木) 06:00
最終更新:2025/03/20(木) 06:00
ウォッチリストに追加しました!
すでにウォッチリストに
入っています。
追加に失敗しました。
ほめた!
ほめるを取消しました。
ほめるに失敗しました。
ほめるの取消しに失敗しました。