高校一年の夏。 期末試験が終わった日、 がらんとした図書室で数式をいじっていると、 同じクラスのミルカさんが入ってきた。 ミルカさんは僕に気がつくと、まっすぐにそばまでやってきた。 「回転?」 ミルカさんは立ったまま僕のノートをのぞき込んで言う。 うん、と僕は答える。 ミルカさんのめがねはメタルフレームだ。 レンズは薄いブルーがかっている。 「軸上の単位ヴェクタがどこに移るかを考えればすぐにわかる。覚える必要なんかないでしょ」 ミルカさんは僕のほうを見て言った。 ミルカさんの言葉遣いはストレートで、ちょっと変わっている。 ベクトルのことをいつもヴェクタと言う。 いいんだよ、練習しているだけなんだから、と僕は目を伏せる。 「θの回転を2回やってみると楽しいよ」 ミルカさんは僕の耳に口を寄せてささやく。 「θの回転を2回やる。その式を展開する。 それから「θの回転を2回行うのは2θの回転に等し