より詳細に 体験者が語る
Windows Azure
マークス氏のアーキテクチャ紹介のあとは、前日発表されたWindows Azureの事例を、本人達が紹介するセッションに移った。
動画配信のgoomoがAzureにしたワケ
トップバッターは、eコマースサイトへの連動機能を持つ動画配信サイト「goomo」だ。goomoを運営するグーモは東京放送ホールディングス(TBS)が80%、富士ソフトが20%を出資して設立された企業。goomoにはオリジナルの動画番組が用意され、番組内で紹介された商品のeコマースページにシームレスにアクセスすることができる。デモンストレーションでは、ヤマダ電機がスポンサーする「花伝書」(かでんしょ)という家電紹介番組から、ヤマダ電機のコマースページで商品が買えるまでの一連の流れを紹介した。
同社の松岡清一氏は、動画配信サイトの場合、Webサーバと動画サーバを分けて運用するなど、構築が非常に複雑になってくるが、Windows Azureであれば安定性、スケーラビリティといった面を、低コストで実現できるとした。CDNが未だ整っていないため、現在はそれを待っているという。
10年以上のノウハウを注ぎ込んだ
低コスト高スケーラビリティを誇るCMS
ソフトバンク クリエイティブは、同社が運営する会員制サイト「ソフトバンク ビジネス+IT」のCMS(Contens Management System)「PresCube」の紹介を行なった。同社 出版事業本部 ソフトバンク ビジネス+IT事業室の松尾慎司氏は、CMSを開発したリード・レックス 開発部 インターネットソリューショングループの近江武一氏とともに登壇した。
松尾氏は取材を通して2年ほど前からクラウドの話を聞いており、リード・レックスに相談をしたのだという。そこで、Windows Azureへの移行が行なわれた。リード・レックスの近江氏によれば、たとえばAmazonなども検討したが、同サイトのCMSがもともと.NETで開発されていたという経緯もあり、Azureへの移行になったという。今後は、Azure Table(key-value型データベース)への移行もしていきたいという。
Windows Azureにより、ピーク時にスケーラビリティを発揮するのは、昨日の記事で紹介したとおりだ(左)。PresCubeは、CMS機能とサーバー運用・保守をオールインワンで提供できる(中)。今夏には、マルチテナントとしてサービスを開始する(左)
機密性の高いデータをハイブリッドクラウドで
宝印刷の情報開示システム
宝印刷は、企業の情報開示のための書類作成を、オンプレミスとWindows Azureを組み合わせて構築した。同社は企業の有価証券報告書、有価証券届出書、目論見書、株主総会の招集通知、事業報告書の作成を主要な業務とし、コンサルやコンテンツ作成、印刷を請け負っている。こうした業務に使うのが、今回のシステム「X-Editor NE」である。構築は、日立システムアンドサービスが行なった。
宝印刷 取締役 常務執行役員 青木孝次氏は、X-Editorのアーキテクチャを紹介したあと、Webブラウザ上に表示されたデータの数値を操作し、XBRLの項目と関連づけするデモンストレーションも行なった。X-Editorは、決算情報開示は四半期に1度しかなく、使用の多寡が激しい点ではクラウドでのメリットが出るものの、機密度の非常に高いデータを扱う点などを考慮し、ハイブリッドクラウドのシステムとなっている。
富士通システムソリューションズの
クラウドERP WebSERVE smart ERP
富士通システムソリューションズ(Fsol)は、2007年にはSaaS、2008年にはクラウドへの取り組みを開始していた。同社会計ビジネスソリューション本部 統括部長 千原健太郎氏は、Web画面上を自由にレイアウト可能なERP「WebSERVE smart ERP」を紹介した。こちらもハイブリッドクラウドのシステムで、オンプレミスからの移行モデルとも言える。移行そのものはスムーズにいったものの、Windows Azureの採用するタイムゾーンがGMTであったなど、今まで経験したことのないケースもあったという。
富士通システムソリューションズの「WebSERVE smart ERP」システム構成(左)と、ハイブリッドクラウド図(右)。日本のエッヂサーバーを経由してシンガポールのWindows Azureに接続されている
MFPもクラウドにつなげよう
キヤノンのWindows Azureへの取り組み
キヤノンは、今回の事例では少し変わり種だ。同社映像事務機事業本部 映像事務機ドキュメントソリューション事業部 ドキュメントソリューション商品化推進部 早川直司氏は、クラウドとMFPとの連携を模索する。たとえばクラウド上のアプリケーションからデバイスを検索・接続したり、電子文書のセキュリティやデバイスの利用権限の認証、クラウドアプリケーションのためのSDK提供などだ。
文書ファイルはクラウドに格納しておき、閲覧はモバイル端末で、作成はデスクトップのPC、プリントはオフィスのMFPやコンビニ……といったオフィス環境になっていく場合、MFPもクラウド化が必要というわけだ。
上記5社は、基調講演が終わったあとにプレス向けのQ&Aセッションも行なった。その際、構築にあたって戸惑った点は? との記者団からの問いかけには、タイムゾーンの違いをはじめ、デプロイしないと分からないバグを修正したあと、再デプロイする間に10分程度かかる手間がある……といった声も上がった。また、移行時にかかる手間はどの程度か? オンプレミスとの差異は? との問には、だいたい5%程度との答えであった。いずれにせよ、ボタン1つでインスタンスが立ち上がる手軽さや、Windows Azureと同じSLAを実現するための投資を考えると、やはりクラウドへの移行のメリットのほうが大きいというのが参加各社の総意であり、そういう意味では、マイクロソフトが見込んだ効果が、きちんと発揮されていると言える。
本記事公開当初、リード・レックス 近江武一様の社名とお名前、コメント内容に間違いがありました。謹んで訂正させていただきます。
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