キリンビールの業務用ビールサーバー「TAPPY(タッピー)」が好調だ。2021年4月の展開から、24年中には設置店が約3万カ所まで増える見込みだ。拡大の一因には、居酒屋をはじめとした飲食業態にとどまらず、意外な開拓先を見つけたことが関係している。営業部隊は、どのようにして新しい鉱脈を探り当てたのか。
年間16万円の費用削減
キリンビールが展開する「TAPPY(タッピー)」は、小型かつ使い勝手の良さから、急速に導入件数を伸ばしている業務用ビールサーバーだ。
特徴は、ビールが樽(たる)詰めでなく、3Lサイズのペットボトルに充填されている点。使い方もシンプルで、保冷機能が付いたビールサーバーにペットボトルを差し込み、ハンドルをひねるだけで注ぎ口からビールが出てくる。
一般的な業務用ビールサーバーは、本体のサーバーの他に、ビールが詰められた樽やガスボンベをそろえる手間がかかる。ビールを注ぐにも、サーバーと樽などを管でつなぎ、サーバーを洗浄する際は、ビールホースにスポンジや水を通すなどの作業が発生する。
タッピーであれば、こうした手間が省ける。ガスボンベを設置する必要はあるものの、外付けの樽は不要で、注ぎ口やアダプターは基本的に水洗いするだけでいい。キリンビールの調べによれば、導入店舗が1年間に320日稼働したとして、洗浄などメンテナンスで浮く費用は、年間16万円に上るという。さらに、ビールホースの水洗い洗浄がないため、管に入っていた分のビールロスを削減できる。
さらにタッピーは、従来のビールサーバーに比べてサイズがコンパクトだ。一般的なビール樽が7Lなのに対して、タッピーのペットボトルは3L。ビールサーバーも、幅235mm、奥行き635mm、高さ400mmと、持ち運びしやすい。
開封後の使い切り推奨期間も、一般的なビールサーバーが3日間なのに対して、タッピーは1週間。少量かつ消費期限も長いため、ビールをさばき切るのに自信がない、小規模な店舗でも気軽に導入できるのが利点だ。
コロナ禍で需要拡大
キリンビールが、タッピーを展開し始めたのは2021年4月。新型コロナウイルス禍の最中だった。消費者の外食機会が減り、ビール消費も落ち込んだが、タッピーはむしろ需要が高まった。
「タッピー自体は、コロナ禍以前から開発を進めていたが、コロナ禍が追い風になった側面がある。飲食店の経営層は、コロナ禍で売れ残りを気にする傾向が強まった。
そもそも席数が少ない店舗も増えており、そうした潮流からもタッピーは受け入れられやすい。導入店舗数は年間1万店舗のペースで増えており、現在(24年11月中旬時点)では導入店舗数が2万5000店を突破。25年初頭には3万店を超える見通しだ」
そう語るのは、キリンビールマーケティング本部営業部の鈴木伸宏氏だ。実際に、タッピーを導入した店舗の声を拾うと、「女性スタッフが取り扱いやすい」「外国籍のスタッフにも簡単に指導できる」「数分の水洗いでおいしさを担保できる」といった、便利さを評価する感想が多い。
ゴルフ場や社員食堂にも展開
加えて、導入先が多岐にわたることも、設置店舗数を押し上げた大きな要因になっている。
通常、ビールサーバーといえば、居酒屋業態で導入されるケースが大半だ。しかしタッピーは、小回りが効くことから、他業種にも拡大している。
その一例が、ラーメン店や牛丼チェーンなど食をメインとした業態だ。24年11月時点では、ゼンショーホールディングスが経営する丼・うどんチェーン「なか卯」や、ホットパレット(東京・江東)のステーキチェーン「ペッパーランチ」の他、首都圏を中心に展開するラーメンチェーンなどに導入されている。
コンパクトゆえに設置スペースを確保しやすく、フードコート内に出店している店舗で、タッピーを導入する事例も増えている。
フードの提供がメインで、顧客の回転率が高い業態だからこそ、ビールを売れるメリットは大きい。通常であれば、料理だけで1000円前後のところ、ビール1杯分の500~600円が乗っかれば、客単価は単純計算で1.5倍に跳ね上がる。
さらに、飲食業態以外にも導入事例が増えている。ここ最近では、シニアレジデンス、ゴルフ場、社員食堂、ホテルのラウンジなどでも導入が進んでいる。1週間で、3L(小ジョッキ10杯分相当)を売り切ればいいので、導入店の負担も軽減される。
営業を担う同社広域販売推進第1支社営業3部主任の高橋薫氏は、こうした販路の拡大は、営業先とやり取りするなかでひらめいたことだと明かす。
「社員食堂やゴルフ場などは、もともと販路として想定していなかった。ただ、取引先で会った飲食店の担当者と雑談していると、『社員食堂を充実させたい』『接待のゴルフでビールを飲む機会がある』など、これまでにないアイデアが生まれた。
新しい営業先の導入ハードルを下げるため、タッピーの実寸を書いた紙製パネルを作成したことも奏功した。筐体を運びながらの営業は大変だが、紙なら導入先にスペースを見つけ、パネルを置いて確認できる。スムーズに営業できるやり方を模索したのも、導入ペースが好調な一因かもしれない」(高橋氏)
キリンビールとしても、参入障壁が低いタッピーを売り込めば、他社のサーバーに侵食されることなく、自社の別商材を売り込むチャンスにもつながる。小型のタッピーを置くことで、営業の陣取り合戦も有利に進められるのだ。
25年初頭には、タッピーの導入店舗数は3万店舗を突破する見込みだ。現在はキャンプなどのアウトドア施設にも導入を検討しているという。飲食店の枠を超えたあらゆる場所で、生のキリンビールを飲用する機会が増えるかもしれない。
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