建設現場IT化の鍵は「シンプルさ」を極めること。現場と開発を繋いだベテランの経験|ミライ工事2

スマートフォンが普及したことで、動画視聴やSNSなど日常的にアプリを使うことが増えました。同様にB to Bのビジネスでも、スマートフォンによる業務用アプリの利用が広がっています。
今回ご紹介するミライ工事2は、建設現場で利用する業務用のiOSアプリです。工事の様子や作業過程などを記録する工事写真を撮影し、工事写真台帳を作成することができます。このアプリを企画・提供するのは、大阪に本社のある太陽工業株式会社。プロジェクトを担当する同社の高井研さんと神山庸さん、そしてソニックガーデンのプログラマ・栩平智行に開発のエピソードを聞きました。
世界中の建築物が採用する太陽工業株式会社の膜材
東京ドームや埼玉スタジアム2002などの、白いドーム部分。また、JR東京駅八重洲口のグランルーフやアメリカのデンバー国際空港の屋根など、世界中の建築物が採用する膜構造。これらの設計や製造・施工を行っているのが、太陽工業株式会社です。
同社の前身となる能村テント商会は、1922年(大正)に創業。戦後、1947年に太陽工業株式会社を設立し、膜構造建築のリーディングカンパニーとして世界中に拠点を広げています。
太陽工業株式会社 エンジニアリング本部 東日本工事部長の高井研さん。
太陽工業株式会社 情報システム部 IT企画課・主任の神山庸さん。
「ミライ工事2の打ち合わせは、とてもワクワクします」と語る。
「私たちの夢は、膜で第二の月を作ることです」と語るのは、ミライ工事2のプロジェクトを担当する工事本部の高井研さんと情報システム部の神山庸さん。長年建設現場で活躍してきた高井さんは、ベテランの現場監督です。そして神山さんは、パソコンのセッティングからシステムの構築まで、社内のあらゆるITの仕事に関わっています。
ミライ工事2は、建設現場や土木工事などの進捗を記録する工事写真を撮影し、工事写真台帳を作成するアプリです。国土交通省直轄工事に対応できる電子黒板機能を持ち、iPhoneひとつで台帳を作成できるだけでなく、データをPDF化し、メールで送信することもできます。ウェブブラウザ版と連動しているため、パソコンからの作業も可能です。
それでは、なぜ太陽工業は業務アプリの開発を手がけることになったのでしょうか。
非効率だった工事写真台帳の作成をIT化し、現場から業務を改善
現在、働き方改革へ向けた取り組みは様々な業界で進んでいます。建設業界においても、国土交通省などからの働きかけもあり、業務のIT化やデジタルトランスフォーメーションの波が来ています。しかし「現場は、まだまだアナログな世界です」と高井さん。また、ハードで危険な作業も伴う仕事です。若い世代が集まらないだけではなく、高齢化も重なり、人材確保も課題となっています。
そのような中、太陽工業は会社をあげてIT化を進め、業務の効率化に動き出します。現場で時間のかかる作業を洗い出し、その中から工事写真台帳の作成に目を付けました。

現場監督とは、いわば工事現場のマネージャー。工事の進捗や安全の確認だけでなく、予算管理や従業員とのコミュニケーションなど、業務は多岐にわたります。また、複数の現場を掛け持ちすることも多いため、作業量の多い工事写真台帳のシステム化は、現場監督の大きなサポートになるのです。
まずは、社内のみで利用することを前提としたミライ工事1が開発されました。そして、事業化を視野に入れたミライ工事2の開発を、ソニックガーデンが担当することに。しかし、「なかなか開発に入れませんでしたね」と、神山さんは当時を振り返ります。
普段の打ち合わせは、3拠点からオンラインで行っています。

しかし、デジタルで工事写真台帳を作成するツールやプロダクトは多数存在しています。あえて自社開発にこだわったことには、理由がありました。

多くの人が利用するスマートフォンを用いて、現場で役立ち、業務を効率化するプロダクトを届ける。このミッションのもと、2016年3月にミライ工事2の開発は始まりました。
現場と開発を繋ぐのは、ベテランの経験と客観的な視点
ミライ工事の軸は、シンプルさを極めて汎用性を高くすること。まずは、従来の黒板と建設現場の写真を撮影し、台帳を作るという機能に特化して開発が行われました。また、開発にあたり、担当プログラマの栩平智行は建設現場へ足を運んでいます。
ソニックガーデンのプログラマ・栩平智行。iOS開発が得意。
それでも、建設業界のことをすべて理解することは簡単ではありません。アプリを利用する現場監督と開発を繋ぐのは、ベテランの高井さんでした。「現場を何十年も経験されている高井さんに相談できる体制は、大きなメリットです」と栩平。
高井さんには、同僚の神山さんからも厚い信頼が寄せられます。

一方の高井さんも、開発との距離が近いことの良さを次のように挙げました。

ミライ工事2の画面です。直感的に使用できるUIにこだわっています。
高井さんたち現場の確かな判断と、ソニックガーデンの視点と開発力。これらがうまく組み合わさり、ミライ工事2の開発は進んでいきます。
たとえば電波の届かない場所でも使えるオフラインモードは、現場からのリクエストが多かった機能です。また、電子黒板の入力機能も大幅に改善しました。工事写真は同じ場所の撮影を繰り返します。そこで、入力履歴から選択して登録できるほか、必要のない履歴は表示順位を下げるなど、効率を重視した機能を取り入れています。

マーケティングを強化し、業界全体の労働環境を改善するアプリに
2016年11月にリリースしたミライ工事2は、現在、法人プランの提供もスタートしています。8万以上の台帳が作成され、現場監督だけでなく現場作業担当者や事務スタッフからの評価も高い業務アプリになりました。中には、60代の現場監督からお礼のメールが届いたこともあります。これには、関係者全員が喜びました。
インタビューは、東京本社で行いました。以前は、手前にあるミシンでテントや膜製品が縫われていたそうです。
今後は、ミライ工事2を使いやすくするだけでなく、現場管理などの機能追加も視野にいれています。そして、ビジネスとしてより認知を広げ、導入する企業を増やしていくことも大きな目標です。「IT化を進め、建設業界だけでなく多くの工事現場の労働環境を改善したい」と、高井さん、神山さんの想いは強まります。
取材をしたお客様
太陽工業株式会社 https://www.taiyokogyo.co.jp/
サービス:ミライ工事2 https://www.miraikoji2.com/
[取材・構成・執筆/マチコマキ]