「先日のものとは内容が変わったんですよ。麦わらの一味の出番が増えました」
本番までたったの3週間なのに全体の構成が変わる。演出家の方がさらにいいものにしようとがんばったということか。
「ルフィ(宇野昌磨さん)とサンジ(島田高志郎さん)が本部に来て、もっと踊りたいということで」
そんなことあるんだ。
トトおじさんのスケーティングを見て泣く日
アラバスタ王国をめぐる氷上の冒険は2023年夏に幕を開けており、今回は再演だ。同じメンバーの出演が発表されたときは「うわー!」と声を上げた。競技として取り組む現役選手もいるので、スケジュール調整はたいへんだったろうに。また島田高志郎サンジとやり合う本郷理華ボン・クレーを見られる日が来るなんて。
ありがたく拝見させていただく。
アイスショーのフィナーレは、音楽に合わせてスケーターたちがフォーメーションを披露したりソロパートを滑ったりと、とにかく楽しい。再演の今年はきっともっと楽しい。歌手のきただにひろしさんが登場して『ウィーアー!』、『ウィーゴー!』、『あーーっす!』と3曲も歌うらしく、そんなのちょっとしたライブじゃないか。踊りたくなると思う。
それどころか、さらに3曲を加えて長くなるという。聞いた瞬間、うれしくて心の布袋寅泰がギターをかき鳴らした。尺は15分くらいになりそうとのこと。そんなに? ありがとうございます。
ところで、スケートリンクの横でカメラや機材を準備していると、報道陣に気づいた本田望結さん(ナミ)がスーッと滑ってきて「よろしくお願いします」と挨拶してくれた。さすが、幼い頃から芸能界の荒波に揉まれてきた人だけあって気遣いがしっかりしている。僕はもうファンです。
さあ、フィナーレが始まる。
流れるように、会場には『memories』(歌:大槻真希)が響いた。ビビとコーザが成長を振り返るように、小ビビと小コーザを演じる小さなスケーター(星碧波さんと澤浦侑仁くん)といっしょに滑る。無邪気に遊んでいるようで、これがすごくかわいい。よくわからないけど見ているだけで徳を積める気がする。
そして、目立たない位置でトトおじさん(松橋浩幸さん)が4人=2人を見守っているのがいいのだ。たまたまそこにいたのか。それともそういう演出か。どちらにせよ、ほろりと来てしまった。
3曲目は打って変わってクールな『Hard Knock Days』(歌:GENERATIONS from EXILE TRIBE)。バロックワークスの面々がダークサイドのかっこよさを押し出しつつ、スピード感たっぷりにリンクを駆ける。
悪の魅力を存分に味わった後は、きただにひろしさんのターン。生歌唱(稽古では音源を使用)に合わせてルフィ(宇野昌磨さん)を筆頭に麦わらの一味が躍動する。なお、『ウィーゴー!』はソロライブとのこと。
ちなみに、宇野昌磨さんと島田高志郎さんの進言で変わったのはここだ。当初は『ウィーアー!』の序盤はきただにさんだけが舞台に登場する予定だったが、ほかのグループを見ているうちにもっと踊りたくなったらしい。
そしていちばん盛り上がるのは『あーーっす!』。全出演者が登場してぐいんぐいんと滑りまくる。好きな人を目で追うのもいいが、引いた視点で全体を眺めるのもおすすめだ。漠然とした楽しさが胸の奥から込み上げてくる。『ワンピース』では冒険の締めくくりとして宴を開くのがお約束。「宴だー!」というルフィの声が聞こえてくるようである。
演じる松橋浩幸さんはフィギュアスケートではなくスピードスケート出身。ショートトラックで培ったスピーディーなコーナリングから、僕は歓喜を感じ取った。その瞬間だけは『トトおじさん・オン・アイス』だった。
宇野昌磨さんと島田高志郎のたくらみについてインタビューで訊く
左から、
- 本郷理華(Mr.2 ボン・クレー)
- 渡辺倫果(トニー・トニー・チョッパー)
- 本田望結(ナミ)
- 田中刑事(ロロノア・ゾロ)
- 宇野昌磨(モンキー・D・ルフィ)
- 島田高志郎(サンジ)
- 本田真凜(ネフェルタリ・ビビ)
- 無良崇人(クロコダイル)
彼女のコメントは深かった。あと3週間ほどで本番ということは、今回のショーとのお別れも近い。「寂しいんですけど、その寂しさも演技につながると思うので、ひとつひとつの感情を大切にしていきます」のひと言に、すでに込み上げてくるものがある。
再演なので基本的な中身は昨年と同じだ。それでも「同じものだけど、ガラッと違うものをお見せしたい」と田中刑事さん(ゾロ)。こういった演目は2回以上観る人も多く、回を重ねるごとの進化も楽しめるものだ。
宇野昌磨さんは「ただただ楽しいですし、またこの練習の日々を楽しみにしていたので、充実した日々を送っています」だそうで何よりである。演者が楽しくやっていると何だかうれしい。
「去年の『ワンピース・オン・アイス』は、私自身120%の出来で満足していました」と、本田真凜さん(ビビ)。ただ、再演の稽古が始まってから個々の演技を見直し、2023年公演以上のものを目指す。重要なのは体力面。一般的なアイスショーと違って、ビビはメインキャラなので90分間にわたって出ずっぱりのようなもの。さらに今回はフィナーレも追加されている。
そのフィナーレの演目は、本田真凜さんにとって「いちばんのお気に入りと言ってもいいくらい感動的」だそうだ。一方、ビビたちとは異なる違う印象を与えるのがバロックワークスのメンバーたち。本編では一同で滑ることがあまりなかったが、「全員集結して滑るので、バロックワークスのチームっぽいところが見られると思います」と、本郷理華さん(ボン・クレー)。
無良崇人さん(クロコダイル)によると、振付師の宮本賢二さんからの指導は「ビビたちがお客さんをうるうるさせた空気を、一気にぶっ壊してかっこよく踊ってください」。個人的な見どころは「クロコダイルの悪さとダンスのかっこよさ」とのこと。しびれる。
渡辺倫果さん(チョッパー)は、「麦わらの一味のフィナーレは今日の朝から練習が始まったんです。というのも、船長とサンジがお願いをしてくださって(笑)」とひと笑い。もちろん練習自体も楽しくチームワークを感じ、本番に向けて磨きをかけていく。
島田高志郎さん(サンジ)は「振付師の賢二先生を困らせてしまいました。申し訳ない気持ちもあったのですが、結果的によりスペシャルなフィナーレになったと思います」。観客からしたらありがたい話である。
きただにひろしさんの生歌をしっかり耳に焼き付けたいとも言っていたので、それはぜひ満喫してほしい(昨年、公式サイトに“自称・スケート界イチの『ワンピース』好き”とコメントを寄せていた)。
宇野昌磨さん(ルフィ)は「最後のグループナンバーを見て、ずっといいないいなって言ってたんですよ」と笑う。金谷かほりさんにいいなーと伝えたら出番を増やしてくれたらしい。そんなに軽くていいのか。
島田高志郎さんを見ながら「このふたりで、一味の誰にも許可を取らずに“僕たち全然やれます”って。すみません。満足してます」だそうだ。これはきっと反省してない。
田中刑事さん(ゾロ)はふたりがお願いする場面にいたとのこと。「ふたりの熱意を勝手にお兄さん気分で見てました。どんどん行けって勝手に思いながら」と笑っていたので、立派な共犯者である。
とはいえ、ただの我がままとも少し違う。『ワンピース・オン・アイス』の出演者は多くがシングルスケーターだ。コーチや振付師と協力してシーズンを戦うとはいえ、基本的には個人の戦い。チームで作り上げる演目に憧れがあると受け取れるコメントが印象的だった。
メンバーも納得の提案だったようで、
倫果 自分の気持ちを代弁してくださったかのようで、すごくうれしい気持ち。
望結 こっち側からのオファーとは思わなかったのでびっくりしましたけど、一味だけ特別なナンバーがなかったら、私も「あれ、ないの?」と思ったはずです。
と、満足そう。なお、本田望結さんはインタビューのこの瞬間に真相を知ったらしい。たいへんですね。
Q. どういったシーンを演じてみたいですか? アラバスタ編以外も含めて。それと、自分じゃなくても“シーンを見たい”も教えてください。
「我こそはワンピース好きだという方にお聞きしたいのですが」と振ったところ、
高志郎 ……自分がしゃべっていいですか?
と、期待通りの反応が返ってきた。報道陣から笑いが漏れる。
悩みながらもするする答えてくれた。興が乗ってきたのか、スタッフさんが「刑事さんはどうですか?」と話を振る。
刑事 いいんですか?
答えたくてうずうずしていたようだ。ここでも報道陣が笑う。和気あいあいとした空気がいい。稽古中も休憩時間はこんな感じだったのだろうか。
刑事 ほぼほぼいっしょで勝手にみんなで想像してこの場面ならみんなでできるんじゃない? みたいなことは話すんですけどやっぱりウォーターセブンだったりエニエス・ロビーのロビンちゃんの「生ぎたいっ!!!!」とか聞きたいですし麦わらの一味で並んであのシーンを再現したいですしメリー号のシーンでは号泣すると思うので。新世界に入ると迫力を表現するのが難しくなるかな前半の海のストーリーをやりたいなって想像だけはしてます。
句読点を省いているのは、それだけ勢いよくしゃべっていたからだ。好きなものを早口で語る人は信頼できる。続いて、スタッフさんは渡辺倫果さんに話を振った。一瞬ためらった後の「欲望を言っていいですか?」なんて発言にまた笑いが起きる。
倫果 この取材を通してひとつの欲望をお伝えさせていただきたいんですけど……チョッパーが仲間になるシーンです。
この回答には出演者と報道陣を含む全員が唸った。「あー……」と声をあげた人は、頭の中でそのシーンを思い返したのだろう。絶対泣けるじゃん。それと、全体的に遠慮がちな渡辺倫果さんが力強く話してくれたのもうれしかった。
ひとつのアイスショーを作るにはたいへんな手間がかかる。準備にかかる時間は年単位。どのエピソードを見たい・演じたいなんてのは夢物語だ。そんなことは誰しもわかっている。それでも、『ワンピース・オン・アイス』には先を見たくなるエネルギーが宿っているのだと思う。まさにルフィが大冒険をくり広げるように。
『ワンピース・オン・アイス ~エピソード・オブ・アラバスタ~』の再演は2024年9月7日(土)、8日(日)に千葉県のLaLa arena TOKYO-BAYで開催される。各日2公演で、8日分はネット配信も実施。“人気アニメをフィギュアスケートで演じる”こと自体が珍しいので、これを機に皆さんもどうぞ。僕はまた観に行く予定です。よろしくお願いします。
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公演概要
<出演>
宇野昌磨 / 友野一希 島田高志郎 織田信成 渡辺倫果 / 本田真凜 無良崇人 田中刑事 本郷理華 本田望結 プリンスアイスワールドチーム ほか
金谷かほり
<振付>
宮本賢二
<日程>
2024年9月7日(土)・8日(日) 12時/17時 各2公演 全4公演
配信概要
(仮) 『ワンピース・オン・アイス ~エピソード・オブ・アラバスタ~』
■配信日時
昼:2024年9月8日(日) 12:00開演(11:30開場)
夜:2024年9月8日(日) 17:00開演(16:30開場)
■配信チケット販売期間
2024年8月30日(金) 18:00~2024年9月23日(月・祝) 20:59
■チケット販売価格
<通し(昼夜公演)>
通しマルチアングル配信チケット:11,000円(税込)
通し一般配信チケット:8,800円(税込)
<昼公演>
マルチアングル配信チケット:6,600円(税込)
一般配信チケット:4,400円(税込)
<夜公演>
マルチアングル配信チケット:6,600円(税込)
一般配信チケット:4,400円(税込)
ライブ配信終了後、準備が整い次第~2024年9月23日(月・祝) 23:59
■チケット購入ページ
主催:「ワンピース・オン・アイス」2024製作委員会
後援:フジテレビジョン/公益財団法人日本スケート連盟
協賛:楽天チケット 株式会社明治