オウム真理教の後継団体「アレフ」の元信者で、新実智光元死刑囚と獄中結婚した妻が地下鉄サリン事件から30年が経つ今、大きな決断をした。

「新実のことを忘れたいと思っています――」

拘置所での“一目ぼれ”と死刑囚からのプロポーズ

新実元死刑囚の妻は2012年に脱会するまでの約7年間、Aleph(アレフ)の信者だった。

新実智光元死刑囚と麻原彰晃こと松本智津夫元死刑囚
新実智光元死刑囚と麻原彰晃こと松本智津夫元死刑囚
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「仕事帰りや休みの日も行っていたので、毎日道場にいました。蓮華座を組んで立位礼拝とかオウムの瞑想をして。畳の部屋で、祭壇があって、泊まることもできる施設でした」

新実元死刑囚は地下鉄サリン事件の実行犯の送迎役だった 1995年3月20日
新実元死刑囚は地下鉄サリン事件の実行犯の送迎役だった 1995年3月20日

オウム真理教の元幹部・新実智光元死刑囚は、乗客や駅員ら14人が死亡し、約6300人が負傷した1995年3月の地下鉄サリン事件では実行犯を現場に送る「送迎役」を担った。

オウム真理教によって殺害された坂本弁護士一家(堤さん・龍彦ちゃん・都子さん)
オウム真理教によって殺害された坂本弁護士一家(堤さん・龍彦ちゃん・都子さん)

さらに坂本弁護士一家殺害事件など、教団が起こした7件の殺人事件全てに関与。

1995年に逮捕され、2018年7月に死刑が執行された。

「“上”の人に会ってみたいという興味本位で手紙を送ったら返事が来ました。2007年の4月に接見に行き、初めて会ったんです。心がすごく純粋で優しいところに惹かれました」

新実元死刑囚と面会や手紙でのやりとりを重ねた妻。

そして2011年の春、手紙でプロポーズされ獄中結婚した。死刑が確定した、翌年のことだった。

新実智光元死刑囚
新実智光元死刑囚

多くの人の命を奪った事件に夫・新実元死刑囚が関わったことについて、どう思っているのだろうか。

「事件に対しては、もちろんあれだけの犠牲者が出ているので良くなかったと思っています。
ただ(新実元死刑囚は)教祖・麻原彰晃からの指示に従っただけです。
教祖からは“救済活動”と言われていて、自分は地獄に至ってもいいから、教祖の言うことは全て実践するという強い意志で、一連の事件を起こしたようです」

地下鉄サリン事件 1995年3月20日
地下鉄サリン事件 1995年3月20日

「ただ麻原の指示に従っただけ…」信仰の深さから凶行に及んだと答えた。

オウムへの帰依捨てたか 死刑執行前の手紙につづられていたのは

新実元死刑囚の妻であること、元信者であることを明かして取材を受けた理由がどうしても気になり尋ねてみた。

新実智光元死刑囚から妻に送られた手紙 「愛しています」の文字が
新実智光元死刑囚から妻に送られた手紙 「愛しています」の文字が

「夫の信仰心がなくなったことは伝えようと思って、メディアに出させてもらっています。
しかし人間関係とかもあるんでね。もう終わりにしたいなと思っています」

教祖・麻原彰晃への忠誠を誓っていた新実元死刑囚だったが、死刑執行の前には帰依から抜け出していたのではと妻は考えている。

新実智光元死刑囚の“修行ノート”
新実智光元死刑囚の“修行ノート”

新実元死刑囚が拘置所で日記に残した言葉がある。

新実元死刑囚の日記から抜粋
「今、尊師と●●(妻の名前)どちらを選ぶかと言われたら迷うことなく●●(妻の名前)を選ぶ。あの様な生き方だけでなく、もっと他の生き方もあったのではないだろうか。
その時が来たら僕は教祖にはついていかない。来世は弟子になることはないだろう。僕は今、決別してしまったのだ」

連行される新実智光元死刑囚 1995年
連行される新実智光元死刑囚 1995年

妻はこの日記を見たとき、大きな心境の変化があったという。

「自分は日記を見た時に夫の信仰心がなくなったのが分かったから、自分も完全になくなりました。アレフに入ったことを後悔はしていませんが、家族にすごく迷惑をかけて苦しませてしまいました。オウム真理教に関わってほしいわけがないので」

「入信すべきではない」事件知らない世代へ最後のメッセージ  

後継団体「Aleph」は公安調査庁による「再発防止処分」で施設が使えない状態が続いているが、今も1600人の構成員がいる。

2023年までの10年間で新たに加わった構成員のうち、その半数を20代が占めるという。

アレフの施設内に飾られている松本智津夫元死刑囚の写真 公安調査庁提供
アレフの施設内に飾られている松本智津夫元死刑囚の写真 公安調査庁提供

「若い人、特に20代が入信する傾向にあると感じます。あんまりオウム真理教を知らない世代ですよね。
やっぱり若い人たちがああいうカルト団体に入るのは、心のよりどころを求めているんですよ。だから親御さんが子どもに対して心のキャッチボールをしておいてほしいなって思います。安心感を与えることが大切なんだろうなと、すごく思いますね」

オウム真理教の13人の元死刑囚
オウム真理教の13人の元死刑囚

新実元死刑囚の妻も、当初地下鉄サリン事件を起こした団体ではないと聞かされ、2002年に入信した。

それでも、オウム真理教が、許されないことをした団体ということは分かっているものの、取材中、「Aleph」を悪く言うことはなかった。

――あれだけ大きな事件を起こした団体ですから、入っていたことを後悔しているのかなと思っていました。「入らなければ良かった」という気持ちはありますか?
「入信して出会った友人の中には、今も現役の人もいます。その人たちとの出会いは自分にとって大きなもので大切なんですね。だから全てを否定できないんです」

教団のビデオで紹介された“空中浮遊”
教団のビデオで紹介された“空中浮遊”

――入信する人が多い若年層に伝えたいことはありますか?
「入信すべきではないです、自分のような思いをしてほしくないから。
脱会しても居場所がなくて困る人はいますが、ゆくゆくはなくなってほしい。
そのためには入信する人をなくすしかありません。アレフが名前を隠して勧誘することを国が規制すべきだと思います」

現在は会社員として働く、新実元死刑囚の妻。

新実智光元死刑囚の妻 2025年3月
新実智光元死刑囚の妻 2025年3月

地下鉄サリン事件から30年を機に、“新実”から旧姓に戻して生きていくことを決めた。

「これを機にもうメディアに出るのはもうないかなと思っています。
自分は普通に働いて生きているし、やっぱり嫌がる人は嫌がるので、友達になれなかったこともありました。
いくらもうアレフとは無関係ですと言っても、どうしてもあの人の奥さんということで、まだやっているんじゃないかみたいな。生きづらいから、忘れたいと思っています」
【執筆:フジテレビ社会部記者 小山浩隆】

フジテレビは3月21日(金)午後9時から『1995~地下鉄サリン事件30年 救命現場の声~』を放送する。

世界に衝撃を与えた1995年3月20日の「地下鉄サリン事件」を題材にした一部フィクションを含むドキュメンタリードラマで、独自取材に基づき、あの日何が起こっていたのか、自らの命も危険にさらされる中で懸命に救助にあたった人たちの姿を救命ドラマとして描く。

「1995~地下鉄サリン事件30年 救命現場の声~」
3月21日(金)午後9時~一部地域をのぞく

小山浩隆
小山浩隆

フジテレビ報道局社会部記者
早稲田大学商学部を卒業後、2014年に地元・長野県のテレビ局に入社。主に警察・災害担当として御嶽山噴火災害や軽井沢町スキーバス転落事故などを取材。記者8年、報道デスクを2年経験し2024年秋よりフジテレビへ。
社会部の司法担当記者として、東京地検特捜部などを取材中。1991年生まれ。