TSKさんいん中央テレビと山陰中央新報のコラボ企画「カケル×サンイン」。
共通のテーマをテレビと新聞、それぞれの視点で取材し、ニュースの核心に迫ります。
2025年は、昭和が続いていればちょうど”100年”ということで、2月のテーマは「100年企業」。創業100年を迎えた山陰の企業を例に、事業継続の”秘訣”を探ります。
今回は鳥取市の銭湯。創業当時から形を変えながら、息長く営業を続けてきたその”秘訣”に迫ります。
立ち上ぼる湯けむり…身も心もぽかぽかに…。
寒いこの時期に恋しくなるのが温泉です。
鳥取市の「元湯温泉」。
2025年で創業100年を迎えた銭湯です。
「元湯温泉」がある鳥取温泉は全国でも珍しい、県庁所在地の繁華街に湧く温泉。
大正14年(1925年)当時は城下町のはずれで、周囲には田んぼしかなかった鳥取駅前に温泉が噴き出し、その湯を引いて「元湯温泉」も営業を始めました。
元湯温泉・小谷靖之さん:
「教員の代わりは自分のほかにもいますけども、ここを継ぐというというのは、自分しかいないという思いがあったので」
こう話すのは、元湯温泉の4代目・小谷靖之さん。
県内の中学校で教師をしていましたが、約20年前、父からのれんを引き継ぎました。
当時、すでに家庭には内風呂が普及、経営者の高齢化も進むなどして銭湯業界は衰退の一途でした。
組合に加盟する銭湯は、最盛期には県内に70軒ほどありましたが、いまではわずか6軒が残るだけ。
元湯温泉でも、30年ほど前、一気に客が離れるピンチがあったそうですが、苦境をしのぎ、のれんを守ってきました。
元湯温泉・小谷靖之さん:
「基本的には源泉からそのまま注がれたお湯が入っています」
「元湯温泉」が今もつづくわけ、その1つが「温泉」を引いていること。
銭湯としては、全国でも珍しい存在なのだそうです。
近くの源泉から引く湯の温度は42℃から43℃と、ほどよい湯加減。
湯を沸かす必要がなく、燃料代高騰の打撃を免れることができました。
さらに。
元湯温泉・小谷靖之さん:
「どうしても車社会になってくるので、駐車場をしっかり確保できたというところは、お客様にとっての利便性を確保できた」
先代からのれんを引き継いだ小谷さんは、建て替えを決断。
内装、外装をがらりと一新、大通り沿いに駐車場を広げ、県外からの観光客にもわかりやすくしました。
中に入ると。
杉谷紡生記者:
「生まれて初めて番台に入ります。女湯の方は、のれんで脱衣所が見えなくなっています」
元湯温泉・小谷靖之さん:
「男湯の方は、番台から全部見えるような昔のままのスタイルだが、女湯の方は、見え方が違う」
男性に比べて少なかった女性客に安心して利用してもらえるよう、番台からの視界を遮る仕切りを設けるなど、気を配りました。
元湯温泉・小谷靖之さん:
「温泉だと、どうしても湯の量がまかなえない部分があったんで、去年の秋に新しくシャワーを改装しました」
このほかにも、温泉を使っていたため水圧が弱かったシャワーを全面改修。
約1400万円をかけて配管をすべて取り換え、水圧を高くしました。
きっかけは常連客の声でした。
こうした「利用客ファースト」の改善を重ねたことで今では1日平均約200人が来場。
毎日、営業開始とともに次々と客が訪れます。
常連客:
「もうずっと何十年も通ってますよ。家のお風呂に比べたらぬくもり方が違う」
「自分らが生きとる間は続いてほしいな」
「体の芯からあったまって、ありがたいですな。ずっと続いてほしいですな」
元湯温泉・小谷靖之さん:
「いろんな人が集まって裸になって、若い人もお年寄りの人も交わることができるという空間が銭湯の魅力だと思うので、これからもいろんな人に来てほしい」
誕生から100年、今も市民に愛され続ける温泉浴場。
その陰では「利用者ファースト」を目指して日々、進化を続けていました。
杉谷紡生記者:
「取材を通じて感じたのは顧客の声に耳を傾けることの大切さでした。そして、それをサービス向上につなげる姿勢が2つの企業に共通していたと思います」