免税制度の悪用が後を絶たない。
日本を訪れた外国人旅行客が免税店で買い物をすると、店側は税務署に仕入れの際にかかった消費税を返してもらう還付申告ができるが、不正な申告により、2024年6月までの1年間だけで約81億円が追徴課税された。

中にはSNSで外国人旅行客をアルバイトとして募集し、免税販売したと偽装するなどの組織的で悪質なケースがある。
こうした免税制度悪用への対抗策として政府与党が打ち出したのが、空港で商品を確認したあとに免税分を返金する、リファンド方式だ。
スマホ免税繰り返す “錬金術”
2023年、スマートフォンや化粧品を海外に輸出するX社が、東京国税局から約1億4千万円を追徴課税された。発覚したのは、免税で国内取引を繰り返す手口だ。

免税販売は日本を訪れた外国人旅行客に適用される制度だ。
しかしX社は、日本に住んでいる外国人を旅行客としてスマートフォンを免税販売し、輸出したように見せかけるため申告書を偽造。
実際は商品の仕入れ先であるY社がスマホを買い戻し、再びX社に同じスマートフォンが戻る仕組みになっていた。
X社はこうした取引を繰り返し行い、3年間で1億円を超える消費税の不正な申告を行った。
不正に還付された多額の金は、仕入れ先のY社と旅行客役の日本在住の外国人と分け合っていたという。
SNSで“外国人旅行客役”のバイト募集
免税でスマートフォンを購入していた旅行客役の外国人は、アルバイトで集められたという。
実際に中国のSNSなどでは、日本の免税制度を悪用するバイトの募集が行われていて、国税当局も問題視している。

2022年には、免税店がブローカーを通じ、SNSで集めた外国人旅行客に高級腕時計を購入させ買い戻すケースも確認され、約11億円を徴収した。
ある国税関係者は、「外国人旅行客のバイト募集は税務調査を難しくする狙いもあるはず。自分の国に帰ってしまうと、他国の調査機関に依頼をしなければならず、負担が大きい」と話す。
対抗策は「リファンド方式」2027年スタートの方針
12月20日、政府与党は免税制度が悪用されている現状を踏まえ、税制大綱で具体的な対抗策を示した。
空港で商品を確認してから、免税分をまとめて返金するリファンド方式で、2027年11月1日から始める方針だ。

今の制度では外国人旅行客は店舗で商品を免税価格で購入することができるが、リファンド方式では、私たち日本人と同じように課税された価格で買い物をすることになる。
出国する際に、空港の税関で実際に商品を確認してもらわなければ、免税分の返金は受けられない。
関係者によると、出発ロビーには専用エリアが開設され、免税店・国税庁・税関をつなぐシステム端末を操作して旅券の提示や商品の確認の手続きを行うという。
税関に外国人旅行客が押し寄せる事態に!?
想定されるのは、空港に返金を求める外国人旅行客が押し寄せる事態だ。

旅行客全員への正確な確認と返金をするには、新システムの導入とともに手続きの効率化を進めることが必至だ。
政府の資料によると、2023年3月までの1年間に免税品を1億円以上購入した外国人旅行客は374人確認されたが、税関の今の体制で検査できたのは2割にも満たない57人だった。
その大多数の56人が課税するべきと判断されたが、納めるだけの現金を持っておらず55人は滞納したまま出国している。今の仕組みでは人的・技術的に限界がある。

また、新たな制度では、免税分の返金については国からではなく免税店からというルールになる。
事業者ごとに返金方法が異なるケースもあるとみられ、旅行客が混乱しないよう配慮する必要がある。
ある国税OBの税理士は、「免税購入した者による不正な横流しなど、免税制度を悪用した不正還付は以前から横行していた。しかしリファンド方式の導入で外国人旅行客を使った不正にはかなり効果があるのではないか」と話す。
財源確保や増税の論争が続く中、インバウンド需要の伸びにあわせた適切な課税ができる仕組みに期待したい。
【取材・執筆:フジテレビ社会部司法クラブ 小溝茜里】