昔々、ある国にとても賢い王様がいました。ある日、王様は乗馬に出かけ、見事な邸宅の前を通りかかりました。「あの家には誰が住んでおる?」と王様が尋ねると、「あの家にはこの国一番の金持ちが住んでおりまして、毎日羽振りのいい客を招いては最高に手の込んだごちそうをふるまっております」と家来は答えます。「貧しい者には何をしているのかね?」と王様が聞くと、「何もしていないようです」と家来は答えました。
次の日、王様は着古されたぼろを身にまとって金持ちの家に向かいました。主人は入り口に座っていました。王様は低く腰をかがめ、「だんなさま、お腹が空いて疲れ果てています。食べ物をいただけませんか。この立派な家で少し休ませてください」と頼みました。
すると金持ちは「早く出ていけ! ぐずぐずしていると召使いに殴らせるぞ。わしの土地に物乞いが入ることは許さんからな」と怒った様子でどなりつけました。王様は肩を落として立ち去りました。
次の日、王様はまたぼろを身につけました。そしてその上から上等なコートをはおりました。そのコートは光沢があり、金や宝石の飾りがほどこされています。王様はまた金持ちの家へ向かいました。
前の日と同じように金持ちは入り口に座っていましたが、立派なコートをはおった客を見るとあわてて飛んできました。金持ちが客の手を取って家の中に招き入れると、すぐにごちそうの準備が整いました。「どうぞ召し上がってください。あなたのような立派な方とお近づきになれて大変光栄です」
王様はごちそうを皿の上で小さく切ると、それを食べずにコートのポケットに詰めこみ始めました。「なぜ召し上がらないのですか。どうしてポケットなんかに?」金持ちはたずねました。
王様は答えました。「だってお前がもてなしているのは私ではなくこのコートだろう。昨日私が貧しい身なりで訪ねたとき、お前は私を追い払った。今日は上等の服を着てきたから、こんなにもてなしてくれる。だが昨日も今日も私がこの国の王であることに何ら変わりはないのだよ」
それを聞いて金持ちは愕然としました。「王様、どうか愚かな私をお許しください! 私は高慢で自分のことしか考えていませんでした。貧しい客を追い払うようなことはもう二度といたしません。人間は服装ではないということを教えていただきましたから」と金持ちは涙を流して誓いました。
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