ふるさと納税が揺れている。
発端は総務省がふるさと納税の寄付者に対し、特典ポイントの付与を禁止する方針を発表したこと。
業界大手の「楽天ふるさと納税」を運営する楽天が、ポイント廃止に強く反発し、反対署名を集める活動を展開。楽天グループ会長兼社長の三木谷浩史氏が、Xアカウントで「憤りを感じる」と投稿したほか、楽天は「185万人の反対署名が集まった」として記者会見を開くなど徹底抗戦している。
総務省はポイント廃止を円滑に進めるため、廃止の時期について来年2025年10月からと調整していたものの、予想外の猛反発を受けた形だ。
総務省は、なぜ今回のポイント廃止がここまで反発を招いたのか? また寄付金が一部の自治体に集中するなど、制度そのもののひずみについてどう考えているのか?
総務省市町村税課長・水野敦志氏に、その見解を聞いた。
ポイント競争「本来の趣旨を損なう」
──楽天などのふるさと納税ポータルサイトが、ポイントを付与する問題点はどこにあるのか。
水野氏:ふるさと納税という制度は、2007年に始まった制度で、制度の目的は「ふるさとやお世話になった地方団体に感謝し、もしくは応援する気持ちを伝え、または税の使いみちを自らの意思で決めることを可能とするもの」。
ふるさと納税の本質的な効果は、税金の帰属先を応援したい自治体に移転させることにあり、そのために税制という公的な仕組みの下、公金を使うことが正当化されている。
つまりポイント獲得や返礼品を目的にして寄付することは、本来の趣旨とは違います。
ふるさと納税を、企業のネット通販と一緒に捉えてしまうと、税制という公的な仕組みの下、そこに公金を入れる理由は失われる。現状では仲介サイトによるポイント競争が過熱してしまい、ポイント目的の寄付が、これからどんどん多くなっていく恐れがある。
──楽天側は「ポイントはプラットフォームが負担しており問題ない」と主張しています。この主張をどう受け止めているか。
水野氏:確かにポイントは自社で負担しているかもしれませんが、そもそも自社サービスの事業コストを自社で負担するのは当たり前とも言える。
楽天の事業として成立しているのであれば、ふるさと納税の手数料による収入なのか、自社サイトへの集客効果なのかは私達にはわかりませんが、事業コストよりもメリットがあるために、この事業を続けているのだと理解している。
そう考えると、楽天に限らず、ポイントの財源が自社負担だからと言って、制度の趣旨を損なうようなポイント制度が正当化されるとは言えないと思います。
返礼品3割ルール「形骸化が心配」
──ふるさと納税の趣旨が「地域を応援する」ということであれば、ポイントの付与だけでなく、返礼品目的の寄付も問題ではないか。
水野氏:返礼品については、寄付額の3割までと法律で決まっている(※)。しかしポイントは返礼品ではないので、この3割規制には入らず、今回の告示改正が行なわれるまでは、青天上でいくらでも出せるという状態となった。
本来の目的に近づけるために、返礼品は3割までと決まっているにも関わらず、換金性の高いポイントを付与することで、その「3割ルール」が形骸化しかねないという点を非常に心配している。
「ポイントや返礼品はお得だ」という感情は理解できます。ただ、ふるさと納税は公的な金を使っている、公的な制度です。「お得かどうか」だけでは論じられない部分があり、そこに立ち返ってもらう必要がある。
制度の趣旨に近づけていくために、基準等の改正を繰り返している。我々も諦めずに不断の努力をしていく必要があると思っている。
──制度の理念は理解できるものの、ふるさと納税ポータルサイトを見ると、返礼品を選ぶ印象が強い。ポータルサイトのあり方も問題ではないか。
水野氏:ポイントの廃止と合わせて、来年10月から、ポータルサイトによる「返礼品を強調した広告」を禁止する。
もともと返礼品等を強調したり、寄付者を誘引したりする宣伝広告については、自治体に対して禁止しているが、これからはポータルサイトなどの事業者によるものも対象になる。
ポータルサイト上で「お得」とか「コスパ最高」といった表現を使ったり、特定の自治体の返礼品、例えば肉の写真だけを大きく掲載したりするなど、そういった表現はできなくなります。
「ある程度の寄付金の差は予定している制度」
──ふるさと納税を巡っては、一部の自治体に寄付が集中し、一方で都市部からの税の流出が問題視されている。現状をどう考えているか。
水野氏:ふるさと納税の制度そのものが、自治体の創意工夫を求めている制度であり、ある程度、寄付金の差が出るのは、最初から予定しているところだと思っている。
寄付金が一部の自治体に多く集まることが問題かというと、例えば、地震や水害などの災害が起きたときに、その自治体に寄付が集まることは問題ない。むしろ「差」はあってもいい場合もあると思う。
その「差」がどれほど大きいのか、という点が次の問題ですが、ふるさと納税という制度は住民税の2割までしか控除できない。そのため規模には限界がある。
また交付税制度があるため、ふるさと納税による減収75パーセントは、地方交付税によって国から補填されます(※)。
結果として、地域の標準的な行政ができなくなるほど、追い込まれることにはならない。ふるさと納税による寄付は、自治体の工夫によって寄付額を伸ばすことができ、税収を含めた自治体の財源全体がどこまでも落ちていくとはならないと思います。
寄付偏り問題「今の場面ではいろんな見方がある」
──一部の自治体に寄付を集中させないために、寄付の上限を決めるなどの仕組みが必要だという意見もある。
水野氏:ふるさと納税は住民税の2割の控除ですが、日本全体でみると住民税は約13兆円あり、そのうちの2割と考えると約2兆6000億円はふるさと納税で寄付できる。
一方で2024年度の住民税の控除額は7682億円。全体でみると約3分の1の額です。
またふるさとの納税で住民税の控除を受けた人は、2024年度で1000万人。住民税の納税義務者は6000万人いるので、まだ6人に1人の割合です。
こうした現状を考えると、ふるさと納税の寄付に上限を設けるレベルまでは至っていないのではないか、という意見もありうると思われます。
一方で将来、量的な制限というものが全く議論されないのかというと、そこまでは申し上げません。
ただ、今この場面においては、いろいろな見方があるのではないでしょうか。
──ふるさと納税の別の課題として、収入が高いほど税金の控除が大きいため、お金持ちほど得する制度だという批判もある。
水野氏:そのような指摘もあることは認識しています。
我々としては、地域を応援する寄付は当然大きくしていきたい。そのうえで寄付の余力があるのは高所得者であり、高所得者にふるさと納税の制限をかけるということは、高所得者に「寄付はあんまりしないでくれ」ということになります。
たくさん寄付をしてもらい、困っている地域や、応援したい地域で使われているという実態も考えると、現状で制限がどうしても必要かと言われると、もう少し様子を見てもいいんじゃないかという見方もあると感じています。
2023年には初めて寄付額が1兆円の大台を突破し、その規模が拡大し続けているふるさと納税だが、総務省がポイント禁止を決めたことがきっかけとなり、改めてその制度に注目が集まっている。
今回のポイントの禁止は、一つの論点にすぎない。本来の目的に沿った制度であるために、より根本的な課題についてもさらに議論が必要だろう。