【インタビュー】西川貴教『SINGularity III -VOYAGE-』に注がれた、まだ見ぬ頂きと限りなき可能性

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西川貴教の3rdアルバム『SINGularity III -VOYAGE-』が2025年2月26日(水)に発売となった。三部作にして、彼の思いがを収束された楽曲集であり、T.M.Revolutionとはまた違う視線を持ったソロアーティストとして帰結すべき作品に到達した、7年に及ぶ活動の集大成でもある。

『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』主題歌「FREEDOM」をはじめ、アニメ『EDENS ZERO』第2期オープニングテーマ「Never say Never」、『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀4』オープニングテーマ「天叢雲剣-SKYBREAKER-」といったヒット作や、カバー作・コラボ作・新たなクリエーターとの作品作りなど、話題にも事欠かない作品にはなっているものの、その活動の骨子となるのは、いまだやまない自己への可能性の追求であり、まだ見ぬ頂きへ向かうという理由なきアーティストの性に他ならない。



ポジティブでエネルギッシュな魂の叫びが、知らない大海へと我が身を誘う。そこに不安はない。恐怖もない。リスクも感じない。ただただ、ポジティブなエネルギーが西川貴教を奮い立たせるのみだ。

西川貴教として7年の時を刻み、完成を見た『SINGularity III -VOYAGE-』を、西川貴教本人はどうみているのか、話を訊いた。訊き手は、1990年代の音楽シーンから交流があり彼の活動をよく知るDJ DRAGON(BARKS代表/LuckyFesプロデューサー)である。



──ついにアルバム『SINGularity III -VOYAGE-』が発売となりましたね。

西川貴教:もっと早いタイミングで3枚目をリリースしたかったんですけど、良くも悪くもコロナがあったことで色々と状況が変わって、今になりました。ツアーも飛んだり、色々ネガティブな要素があったんですけど、逆にいろんなことを立て直したり考え直したりする時間ができたことで、結果的にはいろんなものを導くチャンスに変えられて、今回、非常に納得のいくものになりました。

──アルバムのジャケットも、1~2作目はカラフルな色使いで未来的なクリエイティブでしたけど、今作ではぐっと落ち着いた感じに変わっていますよね。


『SINGularity III -VOYAGE-』

西川貴教:ひとつの物語が、3部作で本当に帰結・完結するようなイメージにもなっているかなと思います。もちろんT.M.Revolutionもソロプロジェクトではあるんですけど、チームで音作りをしていくスタイルなので、もっとボーカリストとしてどんな表現をしていけるのかというところによりフォーカスしたのが西川貴教としての活動なんです。

──ええ。

西川貴教:今、どういったものが自分に合うのかとか、どんな方と一緒に作品を作っていくといいのかみたいなところは毎回模索だったんですけど、ボーカリストとしてシンガーとして何を伝えていきたいのかは、1枚ごとに徐々にフォーカスが合ってきて、今作でぐっと輪郭がはっきりした感じがします。アプローチも色々あるとは思うんですけど、今作で言えばアルバムの要になっている曲のひとつに「FREEDOM」がありましたよね。小室(哲哉)さんとの音作りや制作の中から、小室さんから見た僕を見せてもらえたことで、小室哲哉のプロデュースワークスの真髄を感じることができましたし。

──西川さんの声が大好きなんだろうなという、小室さんからの愛も感じましたし、作品からは天才同士のぶつかり合いも受け取れました。

西川貴教:自分をどういう風に見たり聞いたりしていたのか、そしてみんなが僕に何を歌わせたいのか…そういうところをディスカッションしながら1枚目、2枚目を制作してきたんですけど、やっぱり「リミットギリギリのハイノートのメロディを歌わせたい」というような、子音の多い印象の強いものをリクエストしてくれるんですね。でも小室さんは「あえて1番伸びのある中域をたっぷり使いたい。しかも、歌で始まりたい、歌で全部持っていくんだ」っていうアプローチなんです。なるほどなとも思ったし、1990年代を築き上げた小室哲哉のプロデュースワークスってものが、小室哲哉の視点から個性を見て光るものを抽出して、よりよく見せていくものであることを実感しました。

──視点が違うんですね。

西川貴教:1990年代の小室さんは、これからスタートするような新人をプロデュースすることが多かったから、最も魅力的なところを示してくれる人だと思ったんですけど、僕の場合なんてキャリアが長くて、変な話「いまさらどこを見せるの?」っていう話だったと思うんですよね。そんなときに、僕の声の中域にフォーカスしてくれたっていうところに、単に場当たり的なものではなく、時代を作ってきた人の凄みを感じました。


──一方で、今井了介さんの楽曲「ALL UNITED」もいいですよね。新境地でもあるし、ガーンとロックで押してきた後のピース感を強く感じさせる作品で。

西川貴教:そうなんですよ。それこそ今井さんも、こども食堂「こどもごちめし」など社会貢献をされていて、僕もそれに共鳴してこども食堂への寄付活動もずっとしているんですけど、本職じゃないところでばかりご一緒していたんで、「いや、ちょっと待ってよ、本職忘れてないか」と(笑)。で、今井さんとは「なんかやりたいですね」って言っていて、実際に随分前にデモを作ったりもしていたんですけどね。

──そんな経緯があったんですね。

西川貴教:僕が今までアプローチできていない音楽を、今井さんというインターフェースを通して実現していく面白さができたらいいなと思って、ブルーノ・マーズのシルク・ソニックじゃないですけど、今井さんの世界観と僕の歌で、エッジの強いものよりは少しマイルドで1960年代とか1970年代前半の流れがあるようなちょっと懐かしいような音世界で歌ってみるのはどうかなって。

──いいですね。西川貴教の新機軸で。

西川貴教:今の時代、本来井戸端会議のようなものがSNSを通じることで拡散したり、取り立てて別の意味を持ち始めたりとかしますよね。関西弁で「…知らんけど。」というすごく便利な言葉がありますけど、憶測や単なる主観でしかない根拠のないものが、さも事実や実際に起こったことであるように拡散されてしまったりして、それによって人が傷ついたり凄まじく刺々しい時代になる。当然ですけど、安心とか安全が担保された上で人に対して優しくしようという話になると思うんですけど、例えばコロナによってそこが急に欠落したことで、みんなピリピリして普段は「頑張れ」「日本代表をみんなで応援しよう」というスポーツにさえも、「やめちまえ」とか、急に平気でとんでもない罵声を浴びせるような社会を経験した。だからこそ、やっぱりもう1度「人に頑張れとか応援しようっていうことを大きい声で言いたい」という気持ちで今井さんと作っていったんです。それがこの「ALL UNITED」という曲でした。

──すごい伝わってくる曲だなと思いました。2025年になった今、若い方を含めて、また言葉を求めている時代に入ってきたような気もするんです。そういう刺々しい一面がある世の中だからこそ、西川さんの包み込むような言葉や強いメッセージはより響くと思います。

西川貴教:嬉しいですね。ありがとうございます。



──サブスクの時代になって、古いも新しいも関係なくなりましたし。

西川貴教:そうですね、いいものはいいという価値観ですね。一時期は、世界と日本が乖離してガラパゴス化が進んでいくことを危惧していた人が多かったんですけど、逆にね、ある意味で右向け右じゃなくて我道を進んできたところが、僕は良かったのかなとも思うんです。食文化もそうですし、いろんな日本の独特の文化って、ある意味で独立していたからこそ、他と交わらずにオリジナリティのあるものになっている。世界がどっちを向いてようが我々は我々だったことが、これから効いてくるような気はしますよね。

──日本の音楽は面白いですからね。グラミー賞を主催するザ・レコーディング・アカデミーも、今後日本の音楽が世界をリードするとの予想を語っていましたよね。今まで気付かれなかった日本の音楽がいよいよ世界へ向けた産業として伸びていく際に、西川貴教の存在って重要ですし、『SINGularity III -VOYAGE-』は海外で受け入れられるものだと本気で思っていますよ。

西川貴教:実際海外でステージに立つと、社会情勢などを飛び越えて、コンテンツとかアーティストとか楽曲を受け止めてくれる人たちがちゃんといてくれるんです。これまでの日本って「海外に出たって、採算取れないから行くのやめようぜ」って言って出ていく機会を失っているままだったんですけど、2024年末に小室さんと一緒に中国に行って2人でパフォーマンスしたことで、これまでとは違ったブレイクスルーを肌で感じましたし、いろんな可能性を小室さんとも追求して行きたいとも思いました。僕自身が繋いできたアニメやゲームなど、日本独自のコンテンツを社会と繋いでいくきっかけ作りもしていけたらいいなと思います。

──これから先が更に楽しみですね。



西川貴教:今作では、小室さんを始め、今井さんもそうですし、原(一博)さんのような、1990年代に身近なところで第一線で活躍されていたけど、あまり交流がなかったような方ともご一緒できた。当時は僕も自分を押し出すことでいっぱいいっぱいで、傍らを見る余裕はなかったんですよね。今でこそ、そういった同じ時代でシーンを作ってきた方々に「今の僕に何を歌わせたいですか」って聞いてみたくて、取り組んだんです。

──手応えはどうでした?

西川貴教:どう悩まれるのかなと思ったんですけど、もうサクサクで。

──スムーズだったんですね。

西川貴教:やっぱりキャリアもあるので、仕事が早いんですよね。原さんもすぐ曲を上げてくれて、僕が提案するアレンジのアイデアやサウンドの方向性も快く受け入れてくれた。こうしてアルバム制作はスムーズに進んだんですよね。気がつくと「お、出来てた」みたいな感じだったんで(笑)、『SINGularity III -VOYAGE-』は今でもすごく新鮮に聴けています。

──自身では発掘できない隠れた魅力を第三者に引き出してもらうことは、何より大きな刺激で喜びでもありますね。

西川貴教:そこにもっともっとフォーカスしていかなきゃいけないなってすごく思ったし、そこが西川貴教という名義でやる以上の1番の魅力なんです。ただ、クリエイターとかコンポーザーの方とかと「今の西川に何歌わせたいか」「もっと自由でいいですよ」って話をしても迷って困惑することもあるので、今回小室さんや今井さん、原さんといった時代の先陣を切ってやられた方々の作業を見せてもらうことで、間口を広げて見せていただけた。「それができるんだったら、こういうことも」と、別の扉が開くようなことが起きるんですね。こだわりの強い方かと思ったら、ものすごく柔軟でいろんなことを受け入れる許容があって、もっと一緒にやりたいと思ったし、こんな人だったんだっていう発見もあったから。

──どうしても若いクリエーターは、西川貴教のパブリックイメージをどこまで無視していいものか、測りかねるんだと思います。「何でも受け入れる」という度量を伺いつつも、的はずれな提案を恐れて尻込みするというか遠慮するというか。

西川貴教:なるほど、そうかもしれないですね。今回は1枚のアルバムでいろいろ表現することができたので、この次がさらに楽しみですね。いや、本当に。期待していただきたいです。

──まだまだ尽きることがありませんね。





西川貴教:T.M.Revolutionも全然現役のアーティストでとても大切なものなんですけど、この西川貴教という形でやってみようと思った背景には、本格的に活動をスタートさせた2018年の前年に、僕は母を亡くしているんですよね。母や家族にいろんな景色を見せたいと思って、それまでもいろんな形で頑張ってきましたけど、西川貴教という田舎から出てきたひとりの男として、もう1回、まだまだその可能性を貪欲に獲りに行く姿を見せたかったし、自分の可能性を「ここまでだ」と決めないことをわかりやすく体現したかったんですよね。50歳を超えてきたりとかすると、本当に「あれやりたかったな」とか「これしたかったな」って思うこともあったり、ためらったりとかすることも多いですけど、でもやっぱり人生1回なんだったら、ギリギリ死ぬ直前に「あれやっといたらよかったな」って思いたくないなっていう。で、この年齢になってくると本当にそれがいつ来るかわからないとも思うんです。お仕事したり顔見知りだった人が結構不意に亡くなったりするじゃないですか。それこそ僕の身近なところで言えばBUCK-TICKの櫻井さんがステージで亡くなった。僕にとってバンド活動してて本当に唯一直系の先輩だったので、ああいう姿を見ると、やれることや可能性があるんだったら戸惑うことなく進みたいと思います。そんな気持ちを持っている人間がいるということを、これからの人たちに見せられるだけでも、もしかしたら元気になってもらえるかなとも思って。

──最高です。西川さんが元気で歌ってくれているのが1番の説得力ですから。3月からは<TAKANORI NISHIKAWA LIVE TOUR 003「SINGularity III -VOYAGE-」>が始まりますが、どんなライブになりそうですか?



西川貴教:「VOYAGE」というタイトル通りですけど、これまでの「I」「II」「III」という3枚の『SINGularity』というアルバムが詰まった形のツアーになると思います。何より今回は昼・夜の2回公演で、会場ごとにどちらかの公演が[PLAN-A]、もう一方が[PLAN-B]となっているので、その内容と違いを体験していただけたら嬉しいです。

──1日に2公演、喉は大丈夫ですか?

西川貴教:大丈夫です。おかげさまでそういったトラブルもなくここまできています。定期的に耳鼻科にも通っていますし、喉を使ってようが使ってなかろうが診てもらって、声帯は自分でみるということを続けていますよ。結局、声帯も粘膜ですから、日頃の身体作りもすごく影響していると思うんですよね。それこそ50歳になってフィットネスに力を入れて生活とか食生活を180度変えたので、そういう状況を作っていくことがすごいいい形に出ていることを、如実に感じます。

──攻めていますね。

西川貴教:実際に食べているものが身体を作っていくので、ひとつひとつの食事に何を摂るかということにフォーカスしていくと、タンパク質は要は分解していくとアミノ酸ですから、そこがきちんと行き渡ってこそ、粘膜も柔軟に動くというか。身体の中に炎症を作らないことですよね。それで実際に無茶なツアーでも全然平気でできるということをやっていますね。もう実証実験です。人生が実験です(笑)。

──これからの活躍を楽しみにしています。ありがとうございました。

撮影(ライブ写真)◎高田真希子/team SOUND SHOOTER
インタビュー◎DJ DRAGON(BARKS)
文・編集◎烏丸哲也(BARKS)

3rdアルバム『SINGularity III -VOYAGE-』

2025年2月26日(水)発売
予約:https://erj.lnk.to/KJJHLC
「天叢雲剣-SKYBREAKER-」先行配信中:https://erj.lnk.to/xoAlzj
●初回生産限定盤|CD+Blu-ray|ESCL-6066~7|¥4,950(税込)
●初回生産限定盤|CD+DVD|ESCL-6068~9|¥4,950(税込)
 └付属品:別冊フォトブック・スリーブケース
●通常盤|CD|ESCL-6070|¥3,500(税込)
[CD|初回生産限定盤・通常盤 共通]
1.[Ω]
2.Never say Never [日本テレビ系アニメ『EDENS ZERO』第2期オープニングテーマ]
3.BREACH
4.ALL UNITED
5.Energy Overflow (西川貴教 × Fear, and Loathing in Las Vegas)
6.天叢雲剣-SKYBREAKER- [『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀4』オープニングテーマ]
7.LIBERATED
8.FREEDOM (西川貴教 with t.komuro) [『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』主題歌]
9.BEYOND THE TIME-メビウスの宇宙を越えて-
10.Breaking Daylight
11.VOYAGE
12.あんなに一緒だったのに
13.Believer-TK SONG MAFIA Remix-
[Blu-ray/DVD|初回生産限定盤]
「FREEDOM」Music Video(イナズマロック フェス 2024 ver.)
「天叢雲剣-SKYBREAKER-」Music Video


初回生産限定盤


通常盤

<TAKANORI NISHIKAWA LIVE TOUR 003 SINGularity III -VOYAGE->

●日程・会場・開場/開演
2025年
・3月5日(水)神奈川・KT Zepp Yokohama
 [PLAN-A]14:00 / 15:00 [PLAN-B]18:00 / 19:00
・3月19日(水)大阪・Zepp Osaka Bayside
 [PLAN-A]14:00 / 15:00 [PLAN-B]18:00 / 19:00
・3月23日(日)愛知・Zepp Nagoya
 [PLAN-B]14:00 / 15:00 [PLAN-A]18:00 / 19:00
・3月29日(土)東京・Zepp Haneda
 [PLAN-B]14:00 / 15:00 [PLAN-A]18:00 / 19:00
※各日2回公演
●チケット:1Fスタンディング ¥8,800/2F指定席 ¥9,900 ※税込/1ドリンク別途
https://www.sonymusic.co.jp/artist/takanorinishikawa/live/

<イナズマロック フェス 2025>

会場:滋賀県草津市 烏丸半島芝生広場 (滋賀県立琵琶湖博物館西隣 多目的広場)
公演日:2025年9月20日(土)、21日(日)
出演アーティスト:後日発表
チケット詳細:後日発表
主催:イナズマロック フェス 2025 実行委員会
オフィシャルサイト:http://inazumarock.com/
オフィシャルX (旧Twitter):https://x.com/irf_official #イナズマロックフェス #IRF25
オフィシャルLINE:https://line.me/R/ti/p/%40inazuma_rock_fes

◆西川貴教オフィシャルサイト
◆『SINGularity III -VOYAGE-』特設サイト
◆<イナズマロック フェス 2025>オフィシャルサイト
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