メディアは「希望」となり得るのか いま気候変動報道に求めるものは
気候変動の話をしよう⑫ 「Media is Hope」名取由佳さん、西田吉蔵さん
気候変動を知ること、その問題解決に向けて、メディアは「希望」となり得るのか――。様々な課題がある一方、新たな連携や取り組みも生まれつつある。2021年に発足した、気候変動報道をサポートする一般社団法人「Media is Hope(メディア・イズ・ホープ)」。ともに共同代表を務める、名取由佳さん(34)と西田吉蔵さん(40)に聞きました。
気候変動への危機感を共有し、多くの人たちのアクションにつなげていく。そのためのコミュニケーションのあり方について、様々な立場の方から、意見を聞くシリーズです。
――気候変動報道のサポートとして、具体的な動きが出てきていますね。
【名取由佳】 「新聞5社座談会」というのを2年連続で実施しています。朝日、毎日、読売、東京、日刊工業で気候変動問題を積極的に取り上げている記者の方々に語ってもらう企画で、講談社のFRaUのウェブ媒体で記事を出してもらいました。普段はライバル関係にある新聞社が一堂に会して気候変動の話をすることで、それだけ重要なイシューだというのが伝わるのではないか、と。
気候変動の記事を書くって結構ハードルがあり、どんなことに気を付けて書いているか、どういう記事が読まれやすかったか、知識の共有をめざしています。
【西田吉蔵】 全部を一つの媒体でやるのは難しいけれど、興味が芽生えるきっかけはテレビメディアが得意かもしれないし、深掘りするのは新聞メディアが得意かも、解決策を探ったり蓄積したりはウェブメディアが得意かも、と役割分担をしながら、それぞれつながっていくといったことができるといいと思っています。
このほか、メディア関係者向けの勉強会を開催したり、番組など個別に相談があれば専門家を紹介したり、幅広く活動しています。気候変動の報道や番組制作をしやすい環境をつくるため、メディアをサポートする先進企業との連携にも取り組んでいます。
――そもそもなぜ、この活動を?
【名取】 人に楽しんでもらうとか喜んでもらうのが好きで元々はテーマパーク業界で勤めていたんですけど、2019年ごろに気候変動の深刻さを知ったことをきっかけに、「もっと本質的なところで社会貢献したい」と思いました。
当時は気候変動問題って自分から取りにいかないと情報が入ってこなくて。グレタ・トゥンベリさんが出てきてSNSで上がってくる記事や動画を見るようになって自分で調べるようになって、やっと入ってきた。
このままだと解決には向かえない。そう思ったので、メディアで気候変動が「危機」と同じレベルで報道されるということがスタートラインだと考え、今の活動につながっています。
【西田】 私の場合は、小学生の頃から環境や社会問題への関心が高めでした。そうした問題を解決するため専門的な道も考えましたがその限界も感じて、映像や広告コミュニケーションの仕事をしていた。そんなとき、グレタさんが出てきて、自分の違和感や社会に対するもどかしさを代弁してくれているように感じて。SDGs(持続可能な開発目標)に関わる活動から始めて、解決するためにはコミュニケーション不足の改善やビジョンを言語化する必要性を感じていました。今なら自分の経験を生かせるのではないかと思い、この活動につながっていきました。
【名取】 当時はコロナもあって、オンラインでのやりとりが活発だった。気候変動や社会課題に関心のある人が集えるコミュニティーをつくって、1600人くらい登録してくれました。ちょうど西田もメディアへの活動を別でトライしていて、チームを発足して取り組もう、となった。それが2021年でした。
――きっかけとしてはSNSも大きかったようですが、なぜマスメディアに働きかけようと?
【名取】 既存のメディアがあってこそのSNSだと私は思う。
何が真実か分からず、誤情報が横行している。SNSは良い面もありながら、ネガティブな側面も大きい。日本では既存メディアの信頼度も影響力もまだまだ大きい。多くの人が同じ方向を向かなければ解決できない気候変動のような問題には、既存のメディアで気候変動報道が活発になる必要があると思う。
【西田】 コロナの時に「ソーシャルディスタンス」「マスク」といった行動変容が起きた。それはメディアが連日、「これは本当に危機なんだ」と報じていたことが大きい。
気候危機って人類最大の問題。コロナ級の報道があればもっと社会変容のスピードは速くなる。企業でも個人でも一つ一つの活動は増えているけれど、気候変動の緊急性を考えると爆発的に増えないといけない。だから広く一般に伝えるマスメディアは大きな役割があると思っています。
メディアに対する視線、鋭くなっている
――大事な問題で解決しなければという一方で、まだまだ十分な報道ができていない現状があると思います。メディアの課題や求めることは。
【名取】 まず一つは「問題…
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