いちき串木野市からバスで避難してきた住民ら=16日、姶良市の県森林技術総合センター
九州電力川内原発(薩摩川内市)の重大事故を想定した国と鹿児島県合同の原子力総合防災訓練。16日までの3日間、地震に伴う複合災害を念頭に新規の内容を数多く実施した。参加した住民は一定評価するものの、避難遅れへの不安は尽きない。「一人も取り残さないで」。高齢者への配慮や多様な条件設定を望む声が上がった。
原発の重大事故に際しては、5キロ圏内の住民が被ばくを防ぐため即時避難、5~30キロ圏では屋内退避するのが原則だ。訓練もこれに沿ったが、現実にはパニックは避けられないとの見方は根強い。
30キロ圏の住民も一斉に逃げると予測するのは、原発に近い薩摩川内市峰山地区のコミュニティ協議会主事、田邑俊和さん(57)。地区には「薩摩川内市避難車両」とのステッカーが配布されているが、「実際には優先されないのではないか」と危機感を抱く。
いちき串木野市川上地区の介護福祉士前田比佐子さん(68)も大渋滞や交通事故による逃げ遅れを懸念する。訓練では、国の一時移転指示を受けたバス避難はスムーズだったものの、「(2月の)積雪時は国道や高速道路が通行止めになった」と気をもむ。
■ハードル
5~30キロ圏の屋内退避を巡っては、原子力規制委員会が退避期間の目安を3日間とする運用案を2月に示したばかりだ。「外気を取り込むエアコンは使えない。高齢者は暑さや寒さに耐えられるだろうか」。鹿児島市郡山町の自営業桑原耕さん(67)は指摘する。
近隣の施設に屋内退避するケースもある。薩摩川内市と接する阿久根市大川地区では、住民約60人がマイカーで隣接地区の集会施設に向かう訓練をしたが、これも高齢者によっては避難のハードルとなる。
「自力で立ったり歩いたりできない人も多い」。同市で福祉タクシーの会社を経営する尻無浜敬七さん(67)は難しさを説明する。「過疎が進んだ大川では高齢者を支援する人が足りない。家同士も離れており、住民の助け合いだけでは解決できない」と訴える。
■質の向上
地域住民にとってはそれぞれの生活の維持と、こぞって逃げる態勢の両立が切実な問題といえる。
初めて船による避難に臨んだ5キロ圏の薩摩川内市滄浪地区。コミュニティ協議会の森満幸守会長(67)は訓練を好感しつつ、足の悪い人には困難さを伴うとして「一人も取り残さないよう、来年度以降もあらゆる事態を想定した内容にしてほしい」と要望する。
同じく5キロ圏の同市水引地区から夫婦で姶良市にバス避難した永田弘行さん(65)ちどりさん(60)も訓練の質向上を求める。「風向きで適切な避難先は変わるはず」「いつも家にいるわけではない」。避難ルートの拡充や外出先からの避難など多様な条件で実施するよう提案した。