懲役10年の服役後、再審求め30年…「なぜやり直し裁判すら始まらないのか」。機能不全に陥る〝最後の砦〟 法改正へ機運は高まる〈大崎事件 再審認めず〉

2025/03/01 15:03
再審制度の法整備の必要性を訴える鴨志田祐美弁護士(右から2人目)=2月26日、東京・霞が関
再審制度の法整備の必要性を訴える鴨志田祐美弁護士(右から2人目)=2月26日、東京・霞が関
 4度目の再審請求が最高裁で棄却された大崎事件。弁護団は決定の通知を受けた2月26日、東京と鹿児島市で会見を開き、「誠に遺憾だし、残念」と肩を落とした。だが、5人の裁判官のうち1人が付けた反対意見は、新旧の証拠を総合評価し、再審開始を認める内容。弁護団は第5次請求を視野に「次につながる大きな架け橋」と希望を口にした。(連載「遠い救済~大崎事件再審請求」㊦より)

 「もっと早く法改正が実現していたら、アヤ子さんはずっと前に無罪になっていたかもしれないのに…」

 26日正午、東京・永田町の参院議員会館。大崎事件弁護団の鴨志田祐美事務局長は、再審制度の見直しを求める超党派議員連盟の総会に出席しながら、やりきれない思いを募らせた。

 1時間ほど前、「(再審請求の)棄却決定が届いている」と連絡が入った。日弁連の再審法改正実現本部の会議が終わり、議員会館に移動しようとしていた。動揺を隠せないでいると、他の再審事件の弁護士が言った。「ここで諦めたらダメだ。最後まで闘おう」

 鹿児島県大崎町で1979年10月、男性の遺体が自宅横の牛小屋で見つかった「大崎事件」。義姉の原口アヤ子さん(97)は殺人と死体遺棄の罪に問われ、懲役10年が確定し満期服役した。捜査段階から否認を貫いたが、知的障害のある親族らの自白などで有罪認定された。

 服役後の95年に初めて再審請求し、第3次請求までに鹿児島地裁や福岡高裁宮崎支部が計3回再審開始を認めたにもかかわらず、いずれも上級審が取り消すという異例の経過をたどる。議連総会後の緊急会見で鴨志田事務局長は語気を強めた。「やり直しの裁判すら始まらないのはなぜか。それは検察官の不服申し立てが存在するからだ」

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 30年に及ぶ大崎事件の再審請求では、警察や検察の手元にある証拠の開示も思うように進まなかった。

 第2次請求で、地裁は検察の「開示すべき証拠は存在しない見込み」との回答をうのみにして消極的な訴訟指揮に終始。その後の高裁支部は一転して検察に証拠開示を勧告し、結果的に捜査報告書など213点が開示された。

 検察は「証拠はもはや存在しない」としたが、第3次請求でも初動捜査や遺体状況を写したネガフィルムが新たに見つかる。鴨志田事務局長は「さみだれ式に証拠が出てくる。最初から一度に開示される制度でなければ真実は見えてこない」と問題視する。

 再審請求手続きで開示された証拠が再審開始の決め手になった事件は少なくない。66年の静岡県一家4人殺害事件で再審無罪が確定した袴田巌さん(88)もそうだ。刑法学者や弁護士は「証拠開示のルールがないと再審制度は絵に描いた餅になる」と口をそろえる。

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 48年に現行の刑事訴訟法が制定されて以降、再審の規定は一度も改正されていない。無罪判決の誤りを是正する不利益再審が廃止され、現在は冤罪(えんざい)被害者を救済する制度として存在するが、条文は19条しかなく“機能不全”に陥っている。

 昨年3月に設立された超党派議員連盟は、議員立法で今国会に法改正案を提出し、成立を目指している。「スピード」を重視し、再審開始決定に対する検察官の不服申し立ての禁止、裁判所の証拠開示命令の明文化など4点を柱に据える。

 成城大の指宿信教授(刑事訴訟法)は「法務検察や警察は冤罪の存在すら認めていない。冤罪被害者の救済を目指す議連の取り組みは画期的だ」と評価する。

 大崎事件の弁護団や支援者は「存命中の無罪」を掲げている。「最後の砦(とりで)」と呼ばれる再審制度が本来の目的を果たすには確固たる手続きの整備が急務だ。原口さんは6月に98歳を迎える。

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