さつま揚げを手に店前で笑顔を見せる寺田成弘さん(左)、加世さん
昭和が続いているとすると、2025年は「昭和100年」に当たる。人とのつながりが密で、ものを大切にしていたあの頃。平成、令和にかけて、ふるさと鹿児島で今なお愛される建造物や老舗を探した。
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さつま揚げ発祥の地とされるいちき串木野市。多くの専門店がある中、昔ながらの手作りで提供している1軒が、今年で創業77年を迎える新生町の寺田屋だ。かつては近くを甑島航路の船が発着し、多くの店でにぎわった創業の地で、今も営業を続けている。
寺田成弘さん(67)、加世さん(65)きょうだいが切り盛りする。父親の故・敬蔵さんが戦後間もない1948年に自宅を兼ねた店を開業。以前は、串木野で水揚げされたアジやサバを使って製造していた。2人も子どもの頃、積み上がった魚をさばくのを手伝っていたのを覚えている。
現在でも地元ならではの豆腐と地酒が入ったさつま揚げを作る。形を整えるのが木製の型から機械になるなど、変化した部分はある。ただ、味を調える作業時にすり身の温度を10度前後に保ったり、一つ一つ手作業で揚げたりと、手間を惜しまないのは変わらない。
物価高で仕入れなどに苦労するが、客の「おいしい」「みんなが待っている」といった言葉が励み。40年以上、購入を続けるファンもいる。2人は「父の始めた店をこつこつと続けていきたい」と話す。新年は6日から営業。
〈企画連載「昭和100年ふるさとのレトロ」③〉