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ルール 1宇宙を見ることは、昔をみること

不思議なことに、地球から宇宙をながめると、そこに見えるのは昔の宇宙の姿です。例えば私たちに見える太陽は、8分ほど昔の姿。すばる(散開星団M45)は 400年ほど昔の姿なのです。なぜ、そんなことが起こるのでしょう?私たちにものが見えるのは、そこから発した光が、私たちに届くから。けれど宇宙の星々はとても遠いので、光でさえやってくるのに時間がかかります。そのため、こちらに届くころには、その光が伝える星の姿はもう「昔の姿」になってしまっているのです。

ルール 2見える宇宙と見えない宇宙がある

宇宙図の中心に描かれた私たち人間の前後左右には、「現在の宇宙」が広がっています。しかし私たちに、その宇宙の姿は見えません。ルール1を忘れずに。見えてくるのは、昔の宇宙なのです。私たちが肉眼や望遠鏡で捉えることのできる天体をこの宇宙図に並べていくと、図の中心にあるような、きれいなしずく形の表面になります。宇宙のこの部分だけを、私たちの眼は見ています。またそれぞれの天体は、何千年前、何億年前と、違う時代の姿を私たちに見せているのです。

ルール 3宇宙では、遠くの距離は要注意

天体までの距離を表す時によく使われるのが、「光が旅をしてきた道のり」です。例えば、私たちに見える宇宙の中で一番遠くからきた光は、138億年をかけて「138億光年」の距離を旅してきました。しかしその長い旅の間にも宇宙は広がり続けたため、光が進んでこなければいけない道のりは、スタート時点よりもどんどん伸び、光が放たれた場所自体も、はるかに遠ざかってしまいました。光が届いた現在、その場所は、もう私たちから470億光年のかなたに離れていると推測されています。

ルール 4宇宙は「科学の眼」で見えてくる

私たちに見える宇宙は、広大な宇宙の、ほんのひとしずくです(しずく形の表面)。しかし「科学の眼」は、それを手がかりに、さまざまなことを明らかにしてきました。私たちに見える宇宙が、どうやって誕生したのか(すり鉢形の底の部分)。それがどのように広がってきたか(すり鉢形の表面のかたち)。そしてすり鉢形の向こうにも、宇宙は遠く広がっているという可能性。この宇宙図には、そうした科学的発見の成果がたくさんに詰まっています。宇宙は、あなたに読み解かれるのを待っています。

推測される「現在の宇宙」の姿暗黒の中に輝く星々


最新の観測が明らかにした宇宙の姿。

それは、宇宙を構成する成分の約7割が宇宙膨張を加速させる謎のエネルギー「ダークエネルギー」、
2割以上が正体不明の物質「ダークマター」であり、
普通の「元素(※)」は5%程度である、というものでした。
この宇宙には、星が数百億、数千億集まっている銀河や、銀河が数百個、数千個も集まっている銀河団、
さらに何億光年にもまたがった銀河の網の目状の構造「大規模構造」など、
多様な階層構造が存在していることもわかってきています。

※ 私たちのまわりのすべてのものを作っている基本的な成分のことを元素といいます。
私たちをはじめ、動植物から夜空に輝く星々までのすべては、元素の組み合わせだけからできています。


観測機プランク等が
明らかにした
宇宙の組成

宇宙に現れる網の目ダークマターと大規模構造


銀河はなぜ、網の目状に分布しているのでしょうか?
その原因となったのが、ダークマターです。
重力は働くものの、光で観測することのできない、いまだ正体不明の物質です。
かつてこの宇宙では、ダークマターがまわりよりわずかに多い部分に、
重力によっていっそう多くのダークマターが集まり、
立体的な網の目のような「大規模構造」が作られていったと考えられています。
ダークマターの多い部分には普通の物質もより多く集まるので、
この大規模構造をなぞるようにして銀河が誕生したのです。


最初の星が宇宙に灯る星や銀河の出現


約130億年前には、銀河はすでに宇宙に存在したことが、観測からわかっています。
しかし最初の星がいつ頃生まれたのかについては、正確なことはわかっていません。
理論的な研究からは、宇宙で最初の星たちはおそらく
太陽の数十倍程度の重さを持っていたと考えられています。
その巨大な星々は、内部でさまざまな元素を作り出した後、
超新星爆発を起こして宇宙に消えていきました。
こうしてまき散らされた元素が、次の世代の星の種となったのです。


原子が登場し、宇宙が晴れ上がる原子核と電子の結合


宇宙誕生から約37万年後、「宇宙の晴れ上がり」が起こります。
それまでの宇宙は、高温のため大量の「電子(※1)」が飛び交っていました。
光は、この電子の影響で直進できず、そのため宇宙は雲の中のように不透明だったのです。
しかし宇宙の温度が約3000度まで下がると、
電子は原子核と結合して「原子」となり、光をじゃましなくなりました。
こうして、宇宙は見通しが良くなったのです(※2)。
これらの原子が、最初の星たちの材料となりました。

※1 この世界の物質をバラバラにしていったときに、これ以上分けられない最小のものが「素粒子」。
電子はこの素粒子のひとつです。

※2 この時に解き放たれた光を、現在私たちは宇宙マイクロ波背景放射として観測することができます。


観測機プランクで捉えた
宇宙マイクロ波背景放射

すべてを生み出した3分間物質生成の出発点


宇宙誕生直後の約3分間。それは、私たちのまわりにある、
すべての物質のもとが生み出された時間でもありました。
超高温の宇宙は、この間に急激な膨張を起こしながら冷えていきました。
その中で、物質のもとである素粒子のうち「クォーク」と呼ばれるものが集まり、
陽子や中性子となりました。さらにはその陽子や中性子が集まって、元素の中でももっとも軽い、
水素やヘリウムの「原子核」がつぎつぎと生み出されたのです。
このとき生まれた原子核は、総数の92%が水素、残り8%がヘリウムでした。
それでは、宇宙誕生の瞬間にもっと近づいてみましょう。


超高温の火の玉宇宙灼熱のビッグバン


宇宙は誕生直後、とてつもない大量のエネルギーによって加熱され、
超高温・超高密度の火の玉となりました(※1)。ビッグバンの始まりです。
その中で、光子を含む大量の素粒子が生まれました。それらは光の速さで飛び交っていましたが、
ビッグバンの始まりの約1兆分の1秒後に「ヒッグス場」が形成されて、それとの相互作用によって
特定の素粒子は動きにくくなり、光よりも遅くなりました。
「動きにくさ=慣性質量(※2)」を持ったのです。
素粒子には「粒子」と「反粒子」があり、お互いが出会うと消滅し、
光のような軽い粒子になる性質をもっています。しかし粒子の方が反粒子より10億個に1個ほど多かったため、
粒子の方が残ることになりました(※3)。
これが、現在の宇宙の物質のもとになったと考えられているのです。

※1 この時の温度は10億度の10億倍のさらに10億倍にもなります。
※2 質量には、「動きにくさ」である慣性質量と、万有引力を引き起こす重力質量の2つがあります。
これらは全く同じ大きさになりますが、なぜ同じになるのかはわかっていません。
※3 反粒子は今も生まれては消えています。


素粒子から星の材料、原子へビッグバンの起こった
「場所」は?

時間と空間の始まり宇宙の急膨張「インフレーション」


ビッグバンのすさまじい高温は、その直前まで宇宙に満ちていたエネルギーが熱に変化したものでした。
宇宙は誕生直後からビッグバン直前までの間、1秒に満たない極めて短い時間に、
「インフレーション」と呼ばれる、数十桁も大きくなるような猛烈な加速膨張(※)を起こしたのです。
現在の宇宙膨張を加速させているダークエネルギーと同じ、
しかしその100桁以上もの驚異的な大きさをもった「真空のエネルギー」が、
生まれたばかりの宇宙空間を倍々に膨張させていったのではないかと考えられています。
そしてこのインフレーションとともに、この宇宙には、時間が流れ、空間が広がり始めたのです。

※この膨張のスケールを例えるなら、ウイルスが一瞬にして銀河団以上の大きさになるほどの、想像を絶するものでした。


私たちは、宇宙のどこにいるのか?

宇宙の誕生にせまる始まりは「無のゆらぎ」?


宇宙の始まりについて、ある説では、宇宙は「無」から生まれたとしています。
「無」とは、物質も空間も、時間さえもない状態。
しかしそこでは、ごく小さな宇宙が生まれては消えており、
そのひとつが何らかの原因で消えずに成長したのが、私たちの宇宙だというのです。
また、生まれたての宇宙では、時間や空間の次元の数も、いまとは違っていた可能性があります。
ある説によれば、宇宙は最初は11次元で、やがて余分な次元が小さくなり、
空間の3次元と時間の1次元だけが残ったのだといいます。
宇宙の始まりは、まだ多くの謎につつまれています。
それを解き明かしていくのは、いまこれを読んでいるあなたかもしれません。


さまざまな元素から、生命が生まれた地球上生命の誕生と進化


現在の地球では、私たち人間をはじめとして、陸上にも多くの生命が繁栄しています。
しかし、かつては海だけが生命の世界でした。
地球最初の生命も、太古の海中で誕生したのです(※)。海に含まれるさまざまな元素が組み合わさり、
しだいに複雑な有機物となるという化学反応が、
やがて最初の生命の誕生につながったと考えられています。
こうして生命を生み出した地球は、では、どのようにしてこの宇宙に生み出されたのでしょうか?

※地球最初の生命がいつ生まれたのかはまだわかりませんが、
発見されている最古の化石は約35億年前のものです。


生命を生み出すステージが整う太陽系および地球の形成


地球を含む太陽系の仲間たちが誕生したのは、およそ46億年前。
宇宙を漂うガスやダストの集まりからしだいに太陽がかたちづくられ、同じ頃、
その周囲をまわるガスやダストが、地球やその他の惑星となっていったのです(※)。
では、このガスやダストはどこからやってきたのでしょうか?
それは、いまはもう消えてしまった星々が宇宙に残した"かけら"だったのです。

※ 宇宙には、空気のような気体(ガス)と、
砂粒よりも細かな固体(ダスト)が大量に漂っている場所があります。


元素をばらまく、星の大爆発宇宙の錬金術、超新星爆発


太陽系の材料となった"かけら"たち。それを作り出し、
宇宙にばらまいた原因のひとつは、「超新星爆発」でした。
太陽の10億倍以上も明るく輝く爆発は、星の中の元素を一気に別の元素へと変えてしまいます。
2種類ある超新星爆発のうち、太陽よりずっと重い星が起こす爆発では、
星の中で作られた酸素などの元素が飛び散ると同時に、金や銀のような元素が生み出されます。
一方、白色矮星を含む連星が起こす爆発は、
私たちの身体に欠かせない鉄を多く作り出します。


一生を終え、宇宙に溶ける星さまざまな姿をとる惑星状星雲


すべての恒星が、一生の最後に超新星爆発を起こすわけではありません。
太陽のような比較的軽い恒星は、寿命がくると、
ゆっくりと自分自身を作っていた物質を宇宙に放出し始めます。星はしだいにかたちを失い、
星の芯の部分だけを中心に残して、宇宙空間へと広がっていくのです。
これを「惑星状星雲」といい、丸いものや細長いものなど、さまざまな姿のものがあります。


年老いた星は、元素の工場一生を終える寸前の恒星の姿


多くの恒星は年老いると、まわりの惑星を飲み込むほどに膨らんで赤色巨星になります。
中心ではこの時、それまで恒星を輝かせてきた「核融合反応」の燃料である水素がなくなり、
ヘリウムから炭素や酸素を作る、別の核融合反応が進みます。
太陽よりずっと重い恒星は、より大きい赤色超巨星や外層を失ったウォルフ・ライエ星になり、
中心ではさらに核融合反応が進行してケイ素や鉄などの元素が作られます。
私たち人間にとって重要な元素の多くは、こうして年老いた恒星の内部で作られたのです。


成熟し、宇宙に輝く星核融合反応と星の寿命


恒星は生涯のほとんどを「主系列星」として過ごします。
これはいわば、一人前となった恒星の呼び名。
その中心では、4つの水素原子から1つのヘリウム原子を作る核融合反応が進んでおり、
この反応が、大量の光を生み出しています。星が主系列星として輝く期間は、
その質量で決まります。太陽より軽い恒星の場合は100億年以上ですが、
太陽の10倍重い恒星では、数千万年にとどまります(※)。

※ 私たちの太陽の寿命は100億年あまり。数十億年以上先の遠い将来には赤色巨星となり、
最終段階では白色矮星になります。


星の誕生と成長ジェットを吹き出す原始星


恒星を生み出す材料となるのは、宇宙に漂うガスやダストです。
これらが大量に集まることで、星の赤ちゃんともいうべき「原始星」がかたちづくられます。
このとき集まってきた物質の一部は、細いガスの流れである「ジェット」となって、
また原始星から飛び出していきます。物質が集まり続け、中心部分の温度と圧力が上がってくると、
いよいよ核融合反応が始まり、原始星は主系列星となって宇宙に輝き始めます。


元素は宇宙を流転する恒星の生まれる場所、分子雲


銀河の中で、ガスとダストが特に濃く集まった場所を「分子雲」と呼びます(※)。
その主成分は水素分子ですが、水や一酸化炭素、アルコールなどの分子もごくわずかに含まれます。
これらは、前の世代の星たちが一生を終える時にばらまいた多様な元素でできていす。
つまり恒星は、元素から生まれ、元素に還るのです。私たちの身体も、地球や太陽、夜空の星々も、
みんなこの元素の大循環の一部。そして宇宙を流転する物質のすべては、さかのぼれば、
宇宙最初の3分間に生み出された物質へと行きつくのです。

※ 分子雲は暗い雲のように見えるものや、まわりの星に照らされて輝いて見えるものがあります。


宇宙図について

宇宙図のねらい

宇宙図の狙いは、宇宙に対して興味を深める機会を多くの方に提供すると同時に、宇宙の新しい楽しみ方を広く提案することです。人間と宇宙の関わりや、身の回りにあふれる物質の起源、宇宙の歴史やその構造など、どなたでも一度は気になる宇宙の謎について、最新の天文学が到達した成果をしっかり盛り込むことにしました。一読すると難解に見えますが、ぜひ、じっくりと時間をかけて読んでみてください。

宇宙図の制作について

「一家に1枚 宇宙図」は、文部科学省が科学技術週間に制作・配布している一家に1枚ポスターシリーズの第3作として、2007年に初版が発行になりました。その後の5年間に解明された新しい知見に基づき、2007年版よりもさらに見やすく工夫して改訂されたポスターが、本サイトで紹介している「一家に1枚 宇宙図 2013」です。

「一家に1枚 宇宙図 2013」

監修: 文部科学省、日本天文学会 天文教材委員会
著作・販売: (公財)科学技術広報財団
企画: 国立天文台天文学普及プロジェクト「天プラ」
制作: 「一家に1枚 宇宙図」制作委員会
縣秀彦、小阪淳、高梨直紘、平松正顕、亀谷和久、塚田健、川越至桜、成田憲保、内藤誠一郎、日下部展彦、高田裕行、石川直美、杉山直、市来淨與、山岡均 ほか
アートディレクション: 小阪淳
コピーディレクション: 片桐暁
協力: 観山正見、佐藤勝彦、駒宮幸男、青木和光、三浦均、額谷宙彦、杵島正洋、石崎昌春、東京大学国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)、村山斉、Kevin Bundy ほか
参考文献: "Nine-Year Wilkinson Microwave Anisotropy Probe (WMAP) Observations: Cosmological Parameter Results", arXiv:1212.5226
画像提供: 国立天文台・ハワイ観測所すばる望遠鏡、三鷹キャンパス50cm望遠鏡、石垣島天文台105cm望遠鏡/TMT観測所公社/国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト(4D2U)/小久保英一郎/長島雅裕/矢作日出樹/小泉周/吉田直紀/ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/Andrew Fruchter/Anglo-Australian Observatory/AURA/David Malin Images/Adam Riess (STScI, Baltimore, MD)/Caltech/Canada-France-Hawaii Telescope/Coelum/CNES/CXC/the ERO team/ESA/ESO/HEIC/INAF/JPL/J.William Schopf,University of California,Los Angeles/Malin Space Science Systems/NASA/NOAA/Palomar Observatory Sky atlas - National Geographic Society/S.Andreon et al Optical: DSS; ESO/SAO/SOHO/Space Science Institute/STScI/The Hubble Heritage Team/PDB ID:1DNN Trifonov,E.N.,Sussman,J.L.,Smooth bending of DNA in chromatin.In:"Molecular Mechanisms of Biological Recognition"(Ed. M. Balaban),Elsevier/North Holland Biomed.Press,1979,pp.227-232/VLT/WMAP Science Team

「一家に1枚 宇宙図」Web制作委員会
夏苅聡美、内藤誠一郎、小阪淳、高梨直紘、平松正顕、川越至桜、成田憲保

協力:玉置陽一、小林秀明

自自然科学研究機構 国立天文台 天文情報センター



ウェブサイトに関するお問い合わせ

宇宙図の頒布について

宇宙図は、公益財団法人科学技術広報財団より有料頒布されています。
http://www.pcost.or.jp/

ダウンロード

「一家に1枚 宇宙図 2013」ポスターは、公益財団法人科学技術広報財団にて
A1 版,A2 版ともに表裏が日本語版,英語版のリバーシブルタイプのポスターを実費頒布中です。

詳しくは 科学技術広報財団のウェブページ http://www.pcost.or.jp/ をご覧ください。

ポスターのPDF版は、文部科学省科学技術週間のウェブサイトからダウンロードできます。
https://www.mext.go.jp/stw/

地球の歴史


宇宙図のメインビジュアルについて


この宇宙図のメインビジュアルである「すり鉢形」や「しずく形」は、曲率ゼロを仮定したルメートルモデルに基づいて計算されています。すり鉢形は、宇宙の晴れ上がり時点(開闢後、約37万年後)をスタート時点とし、宇宙背景マイクロ波放射として観測されている領域がどのように膨張していったのかを表現しています。一方で、しずく形は「私たちに今見える宇宙」にある天体が、光を放った時点で私たちからどれくらい離れた位置にあったのかを表現しています。これらの形を再現するには、共動距離(comoving distance)と固有距離(proper distance)という、ふたつの距離の概念を理解する必要があります。

共動距離は、空間上に固定された任意の2点間の距離を、空間の伸縮と比例して伸縮する(共動する)物差しで測った距離になります。物差し自体が空間と共に伸縮するので、この物差しで距離を測れば、両者の距離は常に一定になります。

一方、固有距離は、空間上に固定された任意の2点間の距離を、空間の伸縮と関係なく一定のサイズを保つ物差しで測った距離になります。私たちが日常的に用いている“距離”の概念と同じものと言えます。物差し自体は空間の伸縮と関係なく一定のサイズを保つので、この物差しで距離を測れば、両者の距離は空間が膨張すれば大きくなりますし、逆に、空間が縮小すれば距離は小さくなります。

共動距離は、ある赤方偏移に観測される天体が、現在、どれくらい離れた距離にあるかを基準にして定義されています。宇宙図においては、すり鉢形の上面(現在)における、横軸方向の大きさに相当しています。

曲率をゼロとすれば、ある赤方偏移z の天体までの共動距離DC(z)は、

と書けます。ここでcは光速度、H0はハッブル定数、DHはハッブル距離、ΩMは密度パラメータ、ΩΛは宇宙項を表しています。

これに対して、任意の時点において、その天体がどれくらい離れた距離にあったかを示しているのが、固有距離です。曲率をゼロとすれば、赤方偏移zに対応する時代での共動距離の天体までの固有距離DP(z)は、

と書けます。この定義から、現在(z=0)での固有距離は、共動距離と等しくなります。

すり鉢形は、宇宙背景マイクロ波放射を放った領域(z=1090)までの各時代における固有距離を繋いだものです。一方、しずく形は、任意の赤方偏移にある天体が光を放った時点における固有距離を、z=0からz=1090まで繋いだものです。以上の計算に基づき、メインビジュアルは描画されています。

各パラメータについては、観測機Planckの最新の成果に基づいた数値を使用しています。具体的には、次の通りです。

H0 67.15 (km/s/Mpc)
ΩM 0.317
ΩΛ 0.683
出典:
"Planck 2013 results. XVI. Cosmological parameters", arXiv:1303.5076,
Table 5 の [Planck+WP+high-l] を利用。

参考文献・書籍等:
(日本語)須藤靖(2005年)、一般相対論入門、日本評論社
(英語)Phillip James Edwin Peebles (1993), Principles of Physical Cosmology, pp 310-321, Princeton University Press

太陽系天体に生命を求めて

私たち人間の住む地球以外に、この宇宙に生命は存在するのでしょうか?
まずは私たちに身近な太陽系の天体たちから、その可能性を探ってみましょう。
太陽系は、大きさも環境もさまざまに異なる、数多くの天体からなっています。

太陽系の天体=太陽、8つの惑星、小惑星や彗星(準惑星・太陽系外縁天体を含む)、衛星など

宇宙探査技術の発展により、地球外に生命を探す科学的な研究が始まっています。太陽系内の天体には、直接探査機を飛ばして生命の痕跡を探すことができます。探査すべき候補と考えられているのは、地下に液体の水があるかもしれない火星や、表面を覆う氷の下に海が広がっている可能性のあるエウロパ(木星の衛星)など。知的生命体や進化した生物の可能性はほとんどありませんが、いつか地球の微生物のような存在が、これらの天体で発見される日がくるかもしれません。

もうひとつの地球を探して




太陽系の外に広がるはるかな宇宙にも、生命は存在するのでしょうか? 夜空に瞬く太陽以外の恒星に初めて惑星が発見されたのは、1995年のこと。以来、天文学者たちは、惑星が恒星のまわりを公転することで恒星がわずかにふらつく運動や、惑星が恒星の前を通り過ぎることで恒星が見かけ上少し暗くなる現象などを手がかりに、800個以上の太陽系外惑星を発見しています。

これまで天文学者たちが行ってきた観測から、太陽系外には多様な惑星系が存在していることがわかってきました。そして最近では、木星型の大きくて重たい惑星だけでなく、より小さくて軽い、地球と同程度の大きさや質量を持つ惑星まで発見されるようになってきました。さらに、恒星からの距離が地球のように適切なため、その表面に液体の水を持ちうる惑星もいくつか発見されてきています。もうひとつの地球と呼べるかもしれない惑星がいよいよ発見される日も近いかもしれません。

太陽系外の天体はあまりに遠いので、もうひとつの地球と呼べるような惑星が見つかったとしても、探査機を直接飛ばすことはできません。そこで、惑星の表層環境や大気を地上の超大型望遠鏡や宇宙望遠鏡で観測して、液体の水の存在を調べたり、酸素やオゾン、メタンなどの生物が作り出す可能性のある物質(バイオマーカー)の痕跡を探して、そこが生命を育む環境かどうかを調べる方法が考えられています。今後のさらなる研究によって、地球のような惑星や地球型の生命が、宇宙の中で普遍的な存在かどうかが明らかになっていくでしょう。

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