・ロボティックス研究者である著者は、人間の意識に関する古今東西の思想家をたどった上で、「西洋思想が長い時間をかけて行ってきたことは、釈迦や老荘の思想に至る長い道程であった」と洞察する。その上で「予想以上に東洋思想に傾倒した。こころや意識の問題について考えれば考えるほど、東洋流のやり方を取り入れることの重要性を痛感する」と述べている。仏教や瞑想が静かな世界的ブームになっているのもうなずける。
・古今東西の思想家をたどった個所が大変興味深い。本書で紹介されているスピノザやヒュームなどの著作は、評者のような一般読者は敷居が高くてなかなか読めないが、著者はそのエッセンスを紹介してくれる。その解説が大変わかりやすい。難解で有名なスピノザの汎神論も、著者の手によって非常にわかりやすく紹介されている。
・古今東西の思想をたどるのは、著者の「受動意識仮説」を思想史の中で検証するためで、「受動意識仮説」とは、意識は次のようなものであると考える。
① 無意識というシステムは、部分部分のモジュールが独立して各々の得意な情報処理を行う超並列計算機である。
② 意識は無意識の結果を受け取ってあたかも自分が注意を向けて自分の自由意思が行ったことであるかのように幻想体験し、その体験結果をエピソード記憶に転送する受動的・追随的な機能を持つシステムである。
③ 例えていえば、心は民主主義社会のようなボトムアップ・システムである。
・したがって意識の中に湧き上がる「知」「情」「意」は無意識に従う受動的な働きだという。心の主人のような顔をしている「意識」は、実は「無意識」または「深層心理」に従っているのだ。常識を覆すような分析だが説得力があり、また思い当たる節もある。「受動意識仮説」は仏教の洞察と共鳴しているのではないか。
・心の成長、修行に取り組んでいくうえで、貴重ないい本に出合ったと思う。