中野正剛事件

1943年10月21日の日本の事件

中野正剛事件(なかのせいごうじけん)とは太平洋戦争中の1943年日本の現職衆議院議員だった東方同志会中野正剛に対し、行政が特別高等警察を通じてその身柄を拘束した事件。中野は最終的に釈放されたが、直後に自殺した。

概要

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以前から内閣総理大臣東條英機を批判していた衆議院議員の中野正剛は、1943年正月に朝日新聞紙上に「戦時宰相論」を発表して名指しこそしなかったものの、改めて東條を痛烈に批判した。それにより、中野は東條が最も警戒する人物の一人となった[1]

1943年10月21日に東條の意による警視庁特高部によって中野は身柄拘束される[2]治安維持法違反や戦時法違反では証拠不十分のため、行政検束という形を取った[3]東條は大いに溜飲を下げたが、この中野の身柄拘束は強引すぎるものとして世評の反発を買うことになった。友人の徳富蘇峰鳩山一郎は中野の釈放を各方面に主張した。[要出典]行政検束は形式上はすぐに釈放してまたすぐに拘束するという手法で事実上の長期身柄拘束が可能な仕組みであったが、相手が国会議員であったため、行政検束で長期間身柄を拘束することは国会の反発を招きかねなかった[4]。さらに大日本帝国憲法第53条には「両議院の議員は現行犯罪又は内乱外患に関する罪を除く外会期中その院の許諾なくして逮捕せらるることなし(原文は片仮名、旧字体)」と規定されており、議会開会が10月26日に迫っていた[5]

10月24日に東條に呼び出されて中野の起訴を指示された検事総長松阪広政は、中野の言動は大日本帝国憲法第29条により法に触れない言論の自由の範囲内の収まっているとして「証拠不十分でこんな証拠ではとても起訴はできない。大体、総理、あなたは中野のことになると感情的になりすぎる」と東條に反論して喧嘩になるありさまだった[6][出典無効]検察警察側としては、中野ほどの大物になると拷問などの強引な取調べはできなかった。[要出典]中野を議会出席停止させるよう東條に呼び出された国務大臣大麻唯男(東條のイエスマンとして議会統制をおこなっていた)も「憲法上の立法府の独立を侵害しかねないのでできません」と反論される[7][出典無効]。東條は証拠不十分とする松阪の一言をとらえて「新しい証拠が出てきて、中野が自白したらどうする」と食い下がり、松阪は議会開会の1日前である10月25日正午までの取調べという条件をつけた[8]。東京憲兵隊の取調べに対して、中野は「自宅で身内の東方同志会2人にガダルカナルの敗戦は陸海軍の作戦不一致の結果だと話した」と自白する[9]

中野は10月25日に釈放された[10]

釈放されたものの、憲兵2名の見張りがつき、追い詰められた中野は10月27日に割腹自殺した[11]。戦後、戦争の裏面暴露を題材としたラジオ番組『真相はかうだ』では、東條暗殺に関与したことが発覚し東條側に自決を迫られ、自決しなければこちらで殺すと脅されたものとして描かれている[12]。他に、南進論を唱えて戦争を支持してきた責任を取ったとする説[13]東條内閣の倒閣運動に関与したため東條が怒り、やはり自決を迫って自決せねば息子を激戦地に送ると脅したためとする説[13]、警察の取調にもそれまで屈したことがなかったにもかかわらず憲兵の取調に屈し、それを屈辱に感じたためとする説等がある。当時の東京憲兵隊長は酔った自慢話に「中野を殺したのも自分なり」と語ったとも言われる[14]

中野の亡骸は荼毘に付された後、ただちに列車にて故郷の福岡に送られたが、深夜博多駅で迎えたのは縁者の当主一人であったという。

脚注

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  1. ^ 纐纈、2008年、99頁
  2. ^ 管賀、2016年、109頁
  3. ^ 管賀、2016年、107・109頁
  4. ^ 管賀、2016年、108・109頁
  5. ^ 管賀、2016年、110頁
  6. ^ 管賀、2016年、106・110頁
  7. ^ 管賀、2016年、112頁
  8. ^ 管賀、2016年、112・113頁
  9. ^ 管賀、2016年、113頁
  10. ^ 管賀、2016年、114頁
  11. ^ 管賀、2016年、115頁
  12. ^ 真相はかうだ 第1輯”. 次世代デジタルライブラリー. 国立国会図書館. 2023年4月26日閲覧。
  13. ^ a b 軽井沢で東条の倒閣工作 中野正剛、道半ばで自刃”. 毎日新聞社. 2023年4月25日閲覧。
  14. ^ 『犯罪の大昭和史 戦前』文藝春秋社〈文春文庫〉、2016年12月1日。 

参考文献

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  • 纐纈厚『憲兵政治―監視と恫喝の時代』新日本出版社、2008年。ISBN 4-40-605117-1 
  • 管賀江留郎『道徳感情はなぜ人を誤らせるのか - 冤罪、虐殺、正しい心』洋泉社、2016年。ISBN 4-80-030745-7 

関連項目

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