<![CDATA[quipped]]>https://j.ktamura.comGatsbyJSSat, 31 Dec 2022 16:09:29 GMT<![CDATA[2022年に読んだ本]]>https://j.ktamura.com/archives/2022-bookshttps://j.ktamura.com/archives/2022-booksSat, 31 Dec 2022 00:00:00 GMT<p>参考:<a href="2021-books">2021年に読んだ本</a></p> <p>去年同様、*が付いているのが、読んだ本、それ以外はオーディオブックで聴いた本。特にオススメの本には☆をつけた。</p> <p>近年珍しい年間50冊越え。やはり仕事が落ち着いて自由な時間が増えた影響は大きい。しかしなんだかんだ中国語の本は読めなかったので、来年こそ読む。</p> <ul> <li>*<a href="https://amzn.to/3sQ1aTF">残像に口紅を by 筒井康隆</a>:去年TikTokで再発見された1989年作の実験的小説。音が消えていく中、段々と表現がぎこちなく難読化していく。肌感、仮名が半分なくなっても十分に読める感じ。「器官と器官の劇甚な摩擦とバルトリン氏の助力の倍加」がツボるならお勧めです。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3nkc5Bz">あ・うん by 向田邦子</a>:著者唯一の長編(といっても200頁)。戦中の二つの家族の生き様を描いた話。稀代のシナリオライターはやっぱり話の構成が上手だし、彼女の描く男たちはどこか情けなく、どこか憎めず、リアリティに溢れている。ここまで女を描ける男っているのかな。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3GCpi06">Dark Money by Jane Mayer</a>:TNYの記者を長年勤める筆者が、Koch兄弟を中心に超富裕層による政治献金とその絶大な影響力について書いたルポタージュ。冗長だけど文章はさすがMayerという感じ。一次情報が少なく恣意的な部分もあり、ノンフィクションとしては若干物足りず。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3B8LWLD">国家の罠 by 佐藤優</a>☆:10年くらい前に団長から勧められた本をやっと読んだ。最後の30ページで大笑いからの涙腺ジワり。著者と西村検察官(現霞ヶ関公証役場公証人)のやり取りとかドラマにうってつけだが、テーマ的に国家の中枢に近すぎるんだろうか。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3ByY09o">Frog by Mo Yan</a>☆:ノーベル文学賞授賞作家莫言の長編。中国現代化を背景とした一人っ子政策と違法妊娠がテーマなのだが、最初の330ページはテーマが重すぎて暗くなる一方だったが、最後の50ページで全て回収されて暗澹な気持ちになりながらも、その構成力には感銘を受けた。</li> <li><a href="https://amzn.to/35dgpw9">Startupland by Mikkel Svane &#x26; Carlye Adler</a>:Zendeskの参考資料として読んだのだが創業ストーリーがリアルすぎて泣きそうになった。こういう美化されてない起業ストーリーはもっと世に広まってほしいと思う。 日本からグローバル狙えるのか不安…みたいな起業家こそ是非。</li> <li><a href="https://amzn.to/3IjmQgb">Man &#x26; God at Yale by William F. Buckley</a>:戦後アメリカ保守の重鎮Buckleyが24歳の時に書いた母校エールの批判。割と保守の間では読み継がれているらしい。まあ大学の教授陣の思想が偏っていて、結果的に教育内容も偏るよねって話を、めっちゃスノッブに書いた本。</li> <li><a href="https://amzn.to/3sgh2hB">Why We Make Things &#x26; Why It Matters by Peter Korn</a>:UPennを卒業後なぜか大工を経て家具職人になり、ついには家具職人学校も創立した人の自伝。弁護士の父というナチュボン設定に最初は白けつつも、20代と40代で癌を患うなど中々壮絶に苦労しており色々と考えさせられた。</li> <li><a href="https://amzn.to/3MQrHbp">The Sleepwalkers by Christopher Clark</a>:近代欧州史の権威による第一次世界大戦の原因を探った大作。聞き流した感じだったので時間を見つけて熟読したい。取り敢えずわかったのはロシアのウクライナ侵攻をサラエボの凶弾に例えるのは無理があるということ。例える人は素人。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/37oAnpb">R62号の発明・鉛の卵 by 安部公房</a>:本人は嫌がったそうだがカフカとの共通点を感じざるを得ない。研ぎに研いだ最初の一文で世界観を切り開くところとか。若干の読みづらさが心地よい。著作をあと数冊は読んでみようと思えた短編集だが、表題作2篇はまあまあかな。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3CFVE9n">失敗の本質 by 戸部 良一 et. al.</a>:この30年くらい語られる「ここがダメだよ日本企業」の出発点。国民や組織の気質はそうそう変わらず、戦略策定においてはあらゆる尺長で時間の側面が軽視されやすいという感想。帰納的な日本人読者のための帰納的な構成がメタにツボった。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3IqXN9W">仁義なきキリスト教史 by 架神恭介</a>:@y0k1mura 氏のオススメでキリスト教の輪郭を掴むために読んだ。イエスの誕生からカトリックの20世紀初頭ファシスト支持までを時空を飛び越えて広島任侠の世界に投影した意欲的歴史的フィクション。ちゃんと勉強した後再読したい本。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3wyCYXU">野火 by 大岡昇平</a>:キリスト教徒が書いた小説もいくつか読んでみるかということで手にとった。テーマに圧倒されがちだが、写実的かつ整った文体も割と好き。 ベルクソンに言及するシーンでは「熱帯雨林で腹すかした兵士がそんなこと考えるか」とはツッコみたくなった。</li> <li><a href="https://amzn.to/3JEyz9J">God Is Not Great by Christopher Hitchens</a>:宗教について読むなら反神論者の代表作も。Audibleで聴く特典として朗読が故Hitchens本人。 まあ彼的にNot Greatなのは神というより組織的宗教活動なのかなと。“No child's behind left”はまさにHitchens節で不謹慎にも吹いた。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3uKpt51">教養としての世界宗教史 by 島田裕巳</a>:書店で見かけた時「教養としての〜」という枕詞が鼻についたが、宗教は本当に知らないことばかりなので購入。概要書としてはよくまとまっているのではないか。ユダヤ教〜キリスト教〜イスラム教の繋がりあたりはよく書けていた印象。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3uTxWTv">万年筆インク紙 by 片岡義男</a>:万年筆とインクと紙についてとりとめのない自分語りをする本。章も節も無く280頁ダラダラと続く。 創作としては二流の筈だが、万年筆とインクと紙オタクの自分は、金ペン堂とかカキモリといった固有名詞にテンションが上がり読了してしまった…</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3JPkvJS">神学の思考 by 佐藤優</a>:現代神学のサーベイ。氏は賛否両論あるが、そもそも日本語で非信者向け神学の入門書はあまり無いので読むことに。数多く引用されているBarthを筆頭とした神学者の原著を知らないのでコメントしづらいが、とりあえず佐藤優氏のフェミニズムは伝わった。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3vmRgZt">白い人・黄色い人 by 遠藤周作</a>:初期の短編二編。前者は芥川賞受賞作。キリスト教について少し齧ってから読む遠藤周作は違って見えておもしろい。 しかし「ピエール、ひえるじゃないですか」のくだりにダジャレの意図を垣間見てしまう自分の魂も救済されるのだろうか。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3Le0yO9">海と毒薬 by 遠藤周作</a>:大戦末期の九大病院生体解剖事件をモチーフに、いわゆる悪の陳腐さをリレー形式でのナレーションで描いた話。話としては面白いし、高い技術力を感じたが、悪の陳腐さそのものに非キリスト教性と日本人性を見出そうとした点には違和感を感じた。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3MxI7o1">沈黙 by 遠藤周作</a>☆:作者のmagnus opusをやっと読んだ。テーマ、構造的技術、蜥蜴や海といったメタファー、「転んだ」者に死者の生活を継がせるアイロニーなどどれをとっても完成度が高い作品だった。 実在したフェレイアに遠藤の考える日本人の神性を語らせるシーンは見事。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3ONXgUa">これから読む聖書: 創世記 by 橋爪大三郎</a>:最初の15行でみんな諦める創世紀を全部読むためのガイドブック。正直2,090円の価値があるとは思えないが、これがなかったら50章読みきれなかった気がする。社会学者らしく途中でレヴィ=ストロースとヴェーバーが出てくる。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3KvbLsI">キリスト教と日本人 by 石川明人</a>:日本とキリスト教の関わりについて書かれたサーベイ。バランス感覚が良く書かれており、構成もしっかりしていたのでスラスラ読めた。特に「沈黙」を読んだ後でなぜ切支丹弾劾が激化したかの背景についても知ることができた。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/38B9PS1">お金のむこうに人がいる by 田内学</a>☆:元同僚の息子に投資のwhyにあたる部分を平易かつ適切に説明する本はないかと三省堂本店を彷徨っていたら巡り合った良著。 スミスもマルクスもケインズもゲェって人でもこれは読める。子供がいる親御さんはぜひ親子で読んでほしい。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3vZOQjI">Kochland by Christopher Leonard</a>:今やアメリカ最大規模の未上場企業にして革新左派の最大の敵Koch Industriesの伝記とも言える本。Jane Mayerの本より遥かに取材が綿密で、内容も濃い。 「商社」誕生ストーリーとして興味深く、著者のFRB本も読みたいと思った。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/38GOgzw">神学の技法 by 佐藤優</a>:マサルさんの神学入門書下巻。半分くらいが教会論なので、必然的に彼のプロテスタント信仰が色濃く出ている。もう少し宗教改革について勉強してから再読したいし、カトリックの観点から書いた入門書も読んでみたくなった。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3LPp88g">ふしぎなキリスト教 by 橋爪大三郎・大澤真幸</a>:社会学者ふたりがキリスト教について駄弁った本で、スラスラ読めた。神学・社会学クラスタからはだいぶ集中砲火を浴びた本なので、内容の鵜呑みはおすすめしないが、マルクス主義の宗教性など、問題提起の本としては良かった。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/384OP6t">古代哲学史 by 田中美知太郎</a>:キリスト教は休憩してギリシャ哲学。作者は有名人らしい。意外と実用的。第一部は古代ギリシャ哲学を100ページたらずで纏め、第二部は(古いだろうけど)網羅的な索引、第三部はヘラクレイトスの訳。腰を据えてプラトン読もうと思えた。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3Pc4mC2">One Billion Americans by Matt Yglesias</a>:奇才政策コラムニストによる対中国米経済政策本。一言で言うと表題そのまま「人口増加しか勝たん」働き方改革・移民緩和・都市計画の見直しなど多角的に分析・提言している良書。何気にアメリカも日本と似た問題を抱えてるのよね。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/38sON8u">キリスト教と笑い by 宮田光雄</a>:神からイエス、ルターからバルトに至るキリスト教関係者と笑いの関連性をまとめた本。筆者の10年くらいの研究が200ページでまとまっている。 こんな本どこで見つけたんだって思うでしょう?YouTubeで紹介されていたんです。ネットは広い。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3Nd4Aa7">お役所仕事が最強の仕事術である by 秋田将人</a>:自治体に30年務めた筆者の公務員仕事術をまとめた本。学びとしては役所の仕事も民間の既存顧客対応の仕事も「守りの仕事」という意味ではよく似ているということ。そういう意味ではカスタマーサクセスの人とかにオススメかも。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3sJMnsZ">地面師たち by 新庄耕</a>:著者の作品は3作目。全宅ツイのサポートもありリアリティみなぎる作品となっている。悪くなりきれないやつを描いたらこの人は当代随一よね。情景描写の静謐な文体とドス黒いテーマの対比が秀逸。もう少し辰さんのキャラが立っていたらさらによかった。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3G3TRg1">十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。 by 遠藤周作</a>:タイトルに釣られて買ったが、全てのビジネスパーソンに勧められる本。特に男性。あとクソリプ飛ばす人は全員読んだ方が良いと思うが、そういう人は十頁も読まずに捨てそう。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3MNQVGX">これから読む聖書: 出エジプト記 by 橋爪 大三郎</a>:筆者の『これから読む聖書』シリーズ二冊目。創世記のやつよりは本として価値があった。途中の律法のところ、特に補償に関するところに惹かれるのは散々契約書を読んだからだろうか。聖所作成マニュアル部分はもう一度読む。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3wNWK1i">夏が破れる by 新庄耕</a>:一気に読んでしまったが、いやあ怖かった!映像化されたら絶対に観れない本格心理スリラーでしたw 胸をざわつかせる描写力と読者の想像を掻き立てる構成力。まるで映画を観ている感覚を活字だけで演出する感じ。手法は違えどPuigに通ずるものがある。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3GRzSBH">にごりえ・たけくらべ by 樋口一葉</a>:五千円札氏の代表作8編。地の文は文語+会話は江戸ことばの文体を雅俗折衷体と呼ぶそうで、これに苦戦。 文体は難しいが話はポップで現代に通ずるものがある。出てくる男にクソ野郎が多く、筆者はアラサー女子に対して辛辣。また読む。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3xlGRQ4">聖書考古学 by 長谷川修一</a>:歴史的遺物や遺構から聖書の内容を検証した本。聖書のメタ分析だとモーゼ五書の文書仮説が有名だが、列王記あたりになると聖書以外の史料も少なくてなく、かなりのところを推論できるらしい。旧約聖書をもっと読んでから再読したい。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3zCoqYG">日本語で読むということ by 水村美苗</a>:『日本語が亡びるとき』に続く2冊目。僕にとって水村氏は史上最も似た境遇にある作家であり、だからこそ氏のエッセイはサーッと読めてしまう。それが良いかどうかは正直わからないのだけど『日本語で書くということ』も買ってしまった。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3NJhtJO">The Lord of Easy Money by Christopher Leonard</a>☆:Kochlandに続き2冊目。綿密なリサーチと構成力で、過去20年の米国金利政策という味気ない話をドラマたっぷりに描いた本。リーマンショック以降金融政策に無頓着だったので良いアップデートになった。FOMCはやっぱり必読ね。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3O4Z1eo">マルティン・ルター ことばに生きた改革者 by 徳善義和</a>:ルターの伝記。作者もルター派の神学者なので肯定的すぎるのかもしれないが、まずは1冊目ということで。恥ずかしながらルターが聖書をドイツ語に訳したことがStandard High Germanの始まりというのは初めて知った。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3xTD8s4">日本語で書くということ by 水村美苗</a>:氏の(20世紀前半日本)文学への愛を感じるエッセー集。私は水村氏と同じく渡米したが割と英語に馴染んでアイデンティティを持ってしまったので、かえって日本文学のclassicsに疎いのだが、この本を読み谷崎と漱石は読み込もうと思えた。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3Or63L3">Martin Luther Renegade &#x26; Prophet by Lyndal Roper</a>:牧師の娘にしてOxfordの歴史学者が10年かけた伝記。宗教改革に関してはルター自身の啓蒙の才能もあれど、地政的、技術的、人的要因に因る部分も多いことがわかる。ルター本人の短所と問題点も客観的に検証されている。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3ApygxM">自壊する帝国 by 佐藤優</a>:『国家の罠』の前段の話。ソ連崩壊という歴史的事件を背景に、氏が第二の青春と呼ぶモスクワ勤務時代を回顧した本。ソ連崩壊の原因がわかるわけではないが、佐藤優については理解が深まる。若い時に異文化の友を持てるって素晴らしいことです。</li> <li><a href="https://amzn.to/3OYphrG">Winners Dream by Bill McDermott</a>:ServiceNowのリサーチの一環として拝読。典型的なアイルランド系家庭に生まれた筆者がSAPのCEOに昇りつめるまでの立身出世物語を描いた本。ザ・営業マンって感じで共感ポイントが多く、SAPクラウド事業の裏側も見えて興味深かった。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3QGAgGz">兄弟 by 余華</a>☆:2年前からの積読を消化。小説を読みながら泣いたのは何年、いや何十年ぶりだろうか。作り話だからこそ伝えられる人生の真理を、鮮やかに描かれた現代中国60年のsense of time and placeの中に見た。 そして彼女が原作を1日で読み終えていて草</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3QIcmex">第四間氷期 by 安部公房</a>:ツイッターで薦められていて読んだ。未来予知装置を作った技術者の苦悩を描いたSF。この何かザラザラした感じの描写は最初とっつき難いが徐々に癖になる。 個人的にはキモいタッチの挿絵は要らなかったかなあ…水棲人は想像の範囲の方が良かった。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3R5cG6A">戦艦武蔵 by 吉村昭</a>:小説家の友人に薦められて読んだ。1944年にレイテ沖海戦で沈没した巨大戦艦について緻密な取材と写実的な筆致で書いた本。活躍しなさすぎでガンダムでいうクィンマンサ・αアジール感があった。『失敗の本質』も読んでいたことで尚更その悲劇性を感じた。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3qNfpq9">沈黙の宗教ー儒教 by 加地伸行</a>:神保町で目に留まって買った本。「儒教こそ日本の宗教である」という日本の知識人が誰しも一度は考えるテーゼを、仏教徒の中国思想史の専門家が多角的に語った本。戦前世代おっさん特有の偉そうな語り口が残念だが、総じて示唆に富んだ良書。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3LpJ3eF">福音書ー四つの物語 by 加藤隆</a>:年初には福音書の数すら知らなかった自分がまさか四つとも通読するとは思っていなかった。そのガイドブックとなった本。もう少し聖書を読み込んでから再訪したい。そもそも四つあり、その差異を論じるというのがキリスト教っぽいよね。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3qUXVsb">みかづき by 森絵都</a>:実家近くの本屋で買った積読を消化。森さんの作品は『カラフル』に続いて二作目。ポップな情景描写の向こうに深い家族愛と日本人の死生観を強く感じた600ページだった。進学塾の盛衰というモチーフで戦後日本を描くセンスも秀逸。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3V6iW11">Dream Hoarders by Richard V. Reeves</a>:Upper Middle Class(準富裕層)が階層固定の主原因だと説いた本。筆者はBrookingsのシニアフェローでColeman Hughesのポッドキャストでその存在を知った。それこそ「年収2,500万円なのに老人と貧乏人のせいで辛い」勢に薦めたい一冊。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3T2Xmby">夕あり朝あり by 三浦綾子</a>:敬虔なキリスト教徒だった白洋舎の創業者五十嵐健治の人生がテーマなのだが、信仰に関係なくスタートアップの創業者に薦めたい一冊。ハードシングスの連続なのだが、常に前向きで、勇気づけられること請け合いである。信じるものは強い。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3UcMzg5">東方キリスト教の世界 by 森安達也</a>:ギリシャ正教~ボスニア教会~ロシア正教に至るまでの「東側」のキリスト教の歴史をまとめた本。作者は94年に夭逝しており、今回は復刊。情報量が多すぎて消化不良気味なので再読候補。キリスト教のローカライズがふんだんに見てとれる。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3DIWByk">トマス・アクィナス by 山本芳久</a>:中世の神学者/哲学者アクィナスを愛してやまない学者によるサントリー文芸賞受賞作。哲学にとっての神学のモチーフ的重要性と、神学にとっての哲学の思考ツールとしての有用性を感じる良著。ニコマコス倫理学を読んでから再読したい。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3GAJh2h">教義学要綱 by Karl Barth(天野有・宮田光雄訳)</a>:キリスト教について見聞を深める上でバルトの作品は何か目を通さなくてはと、丸の内の丸善で見つけて買った。使徒信条を解説するだけで350ページ語れるんだなというのがまずの印象。プロテスタンティズムが全面に出ている。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3VBUPHm">プレーンソング by 保坂和志</a>:コロナで寝込んでいても読めそうな本をと積読消化。何気に初保坂作品。事件という事件がないのでネタバレも何もないが、敢えてネタばらしをするなら、終盤いきなり始まる5人の会話シーンの可読性を担保するための最初の200頁といってよい。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3FDe7pX">プロパガンダ戦史 by 池田徳眞</a>:慶喜の孫にして外交官として対米謀略放送『日の丸アワー』を企画した著者が、プロパガンダについて綴ったエッセー集。歯に衣着せぬ物言いは清々しい。英国人はどんな状況下でも己の非を認めず、権謀術数の限りを尽くすという指摘には笑った。</li> </ul><![CDATA[2021年に読んだ本]]>https://j.ktamura.com/archives/2021-bookshttps://j.ktamura.com/archives/2021-booksFri, 31 Dec 2021 00:00:00 GMT<p>参考:<a href="2020-books">2020年に読んだ本</a></p> <p>まさかのコロナ続きで、今年も家で過ごす時間が多かったが、去年よりは外で活動する機会も増えた。ツイッターで知り合い(?)もできて、オンラインは割と充実していたが、2022年は流石にまた国外に行けると良いな。 去年同様、*が付いているのが、読んだ本、それ以外はオーディオブックで聴いた本。特にオススメの本には☆をつけた。</p> <p>2021年も2020年に引き続き46冊で50冊には届かず。2022年は中国語を本格的に勉強するので、2-3冊は中国語の本も読むのがとりあえずの目標。</p> <ul> <li><a href="https://www.amazon.co.jp/Economic-Consequences-Peace-Maynard-Keynes/dp/1420967630/tag=jktamura22">The Economic Consequences of The Peace by John Maynard Keynes</a>:ケインズのベルサイユ条約批判。Gutenbergで全文タダで読める。「良い戦略・悪い戦略」にも書いてあったが、実現不可能なゴール設定は破滅に向かう好例。</li> <li><a href="https://amzn.to/3nQjBBE">The Price of Peace: Money, Democracy, and the Life of John Maynard Keynes by Zachary D. Carter</a>:JMKの伝記。ケインズ経済学の歴史的背景を知るには良かったが、ケインズは2/3くらい読み進めたところで死んで、そっから先は戦後米国経済の話に。この部分が長すぎた。</li> <li><a href="https://www.amazon.co.jp/dp/B003ZSISWG/ref=cm_sw_r_cp_awdb_c_ZSvbGbJ6XA1Z4&#x26;tag=jktamuracom-22">The Affluent Society by JK Galbraith</a>:先のケインズの伝記後半の主人公Galbraithの代表作。「消費を盲信する産業セクターからは大きなイノベーションは生まれない」という主張が、いかにも冷戦期の人。全ては経済格差に始まり、教育に終わるという主張は同意。紙でも読む。</li> <li><a href="https://amzn.to/393nleY">Capitalism and Freedom by Milton Friedman</a>:戦後経済学の巨人の代表作的啓蒙書。米国左派リベラルからは批判の的となりがちだけど、政治と経済の自由は連動するという主張は妥当に聞こえた。累進所得税には強く反論しているが、富裕税に対してはなんと言っただろうか。</li> <li><a href="https://amzn.to/3aibAAJ">The Indispensable Milton Friedman (edited by Lanny Ebenstein)</a>:Reaganomicsの影響もあり、Friedman=保守というイメージが強かったが、classical liberalだなと。彼はKeynesのことを「偉大だが、理論の綻びは歴史が証明した」と評価したが、それは本人にも当てはまる。</li> <li><a href="https://amzn.to/3ukpsDG">A Personal Odyssey by Thomas Sowell</a>☆:貧しい南部の家に生まれ、不屈の精神と類まれなる努力で、アメリカを代表する知識人となったSowellの半生を描いている。歯に衣着せぬ物言いは、自分語りでも変わらず。Affirmative Action反対派になった経由も分かって良かった。</li> <li><a href="https://amzn.to/3aNBm12">A Conflict of Visions by Thomas Sowell</a>:先の自伝に続いてSowellの著作2冊目。個人的には非常に面白く聴けた。Constrained v Uncontrainedという二項対立そのものの理論的強靭性には疑問が残るが、保守派と革新派の話が噛み合わないのがなぜか、色々とヒントをもらえる。</li> <li><a href="https://amzn.to/2NLyKrR">The People, No by Thomas Frank</a>:Thomasつながりで、初のFrank本。アメリカ大衆主義の歴史を追った本。結論から言うと、いつも悪いのは強欲傲慢のクソエリートで、たまに旗の色が赤くなったり青くなったりするだけと。この手の話は、どうエリートの自浄につなげるかが課題。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3bHoAk6">ニューカルマ by 新庄耕</a>☆:フォローしてる樋口恭介氏がおすすめしているので読んだ。狭小邸宅に続いて2冊目。サプリの話とか、タイミング的にも納得しながら読んだ。D2C≒デジタル化されたネットワークビジネスな気すらする。読者にカタルシスを与えない構成と文章はさすが。</li> <li><a href="https://amzn.to/3v6qKm2">Marxism by Thomas Sowell</a>:去年Marx/Engelsのアンソロジーを読んだ時に感じた、「あれ、マルクス主義から想像していたのと違くないか」に応える本。マルクス主義v.マルクスの整理が進んだ。それにしても人物評の章に描かれるマルクスのモラハラ糞野郎ぶりはヤバい。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/2OL0E8d">Animal Farm by George Orwell</a>:渡辺直美氏のオリンpigの件で、この風刺小説の金字塔が未読であることを思い出した。100ページ足らずに色々と詰め込むOrwellの構成力。人並みに教養を積んだから気づく暗喩。大人になるまでとっておいてよかった。表紙がかわいい版を選んだ。</li> <li><a href="https://amzn.to/2QfMcVR">The Triple Package by Amy Chua &#x26; Jed Rubenfeld</a>:Coleman HughesのpodcastにAmy Chuaが出てて、その存在を知って聴いた。耳から入ってくると、出典をちゃんとチェックできないので「へーそうなんだ」となってしまうが、証拠不十分感がかなりあった。視点は面白かったけど。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/2P4JLFD">And There Were None by Agatha Christie</a>:実はアガサ・クリスティを読んだことがなかったので、まずは代表作。10年ぶりにKindleで読んでみたが、iPhone画面と比べて快適すぎた。そしてこの程度の推理物でgkbrしてしまうくらいにはチキン野郎。以上ネタバレしない感想。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3cM7Utm">Klara and The Sun By Kazuo Ishiguro</a>:ノーベル文学賞取って以来…というか10年くらい著作を読んでなかったんだけど、話題になっているのと、周りが高評価だったので読んだ。相変わらず、胸がじわじわと締めつけられる感じに文章を紡ぐの上手。他にも著作読んでみるか…</li> <li>*<a href="https://amzn.to/32l8cl8">White Noise by Don DeLillo</a>☆:初DeLillo!出世作らしいが、納得。DFWたち90sアメリカインテリ小説家への影響力を感じる文体とテーマ。久しぶりに小説を読みながら、いやあこれは中々真似できないなあと感心した。もっと早く読んでおけば…と思うと同時に今だから楽しめる説。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3tdfous">Zero K by Don DeLillo</a>:White Noiseが良かったので、図書館でKindle版で借りられる本作を読んだ。文章は上手だけど、小説としてはイマイチ。死生観で迷ったことがないからか、テーマがそもそも面白くなかった。ただ、大金持ちの息子の心理描写はリアルだし、構成は精緻。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3cm579D">Exhalation by Ted Chiang</a>:出世作Arrival…は入っていないChiangの短編集。実は読んだことがなかったが、流石Hugo賞を4回取るだけあるわ。久しぶりにSFっぽいSFを読んでて楽しかった。Story of Your Lifeも読むつもり。</li> <li><a href="https://amzn.to/361JkAt">Greenlights by Matthew McConaughey</a>:ハリウッドスターの自伝なぞ、持てる(そしてモテる)者のオナニーだろ所詮…という先入観を持って読み始めたが、色々と期待を裏切られた。きちんと自分のvoiceがあり、文章もうまい。本人が全部ナレーションしてるし…とてもオススメ。</li> <li><a href="https://amzn.to/3dHkzOu">Powerful by Patty McCord</a>☆:Netflixの人事戦略の築いた著者による回顧録。従業員の勤続って大事なKPIなんだっけ等、色々と人事の常識に疑問をぶつけた良書。自分は「会社はキャリアの乗り物」と信じているので、共感する点が多々あった。でも日本だと労基が大きな壁っぽい。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3i94m69">美しい日本語の辞典 by 小学館辞典編集部</a>:丸善本店の辞書コーナーに一冊だけ残っており、装丁が気に入って買った。結構知らない表現が載っていて、寝る前とかにパラパラ読んでいる。ことばの定義はパッとググれるけど、こういう倒置インデックス的なのは、辞書ならでは。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3ydM36n">The End of the End of the Earth by Jonathan Franzen</a>:Franzenのエッセー集。気候変動の記事をなんか読んでたら言及されていたので読んだ。彼の野鳥愛が伝わってくるのと、相変わらず英語は上手。 Franzenさえも昨今の環境左派には食傷気味という点が興味深かった。</li> <li><a href="https://amzn.to/3ixNZkI">Wanting: The Power of Mimetic Desire in Everyday Life by Luke Burgis</a>:ジラールの啓蒙書。作者がネット系起業家ということもあり、親近感を持って読めた。後半はふわっとしているが、前半はscapegoat論含む模倣理論を明解に説明している。VCのくだりは笑うしかない。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3s5hwWb">あのこは貴族 by 山内マリコ</a>☆:映画にもなった、東京と田舎の女性を描いた小説。恵比寿の本屋で一冊だけ平積みで残っていたので買った。山内氏は、映画のような映像を思い浮かべ、それをことばに起こすらしいが、その描写力には感心する。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3g3u5N9">万年筆バイブル by 伊東道風</a>:万年筆の仕組みから歴史まで事細かに説明した本。丸善本店で別の本を探していたら目に留まった。 アナログ時計とか、万年筆みたいな、機械じかけの日用品好きとしては、興味深く読めたし、勉強になった。作者名は伊東屋スタッフ陣のペンネーム。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3AGvSiY">時間をもっと大切にするための小さいノート活用術 by 高橋拓也</a>:先の「万年筆バイブル」は、こちらの本を探している時に見つけた。ふとしたきっかけでDialog Notebookを見つけ、その流れで「まいにち、文房具」の存在を知り、そこからたどり着いた。手書きノート初心者向け。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3kcnJfJ">職業としての小説家 by 村上春樹</a>:ずっと気になっていたのだが、丸善本店でふと目を落とした時に視界に入ったので買った(探していたのは、みうらじゅんとリリー・フランキーの本w) 村上春樹氏は芸術家というより、職人なんだなと。そして、職人の方が、アートを産むのよね…</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3jq9c0t">向田邦子ベストエッセイ by 向田和子編</a>:今年は向田邦子没後40年ということで、どこの書店も特集を組んでいる。どのエッセイを読んでも、彼女の粋な生き様が溢れ出てくる。特に最後の「手袋のさがす」は、「ふつう」の息苦しさを感じている人に、ぜひお勧めしたい。</li> <li><a href="https://amzn.to/3Bmyxi5">Against All Enemies by Richard Clarke</a>:アフガニスタン撤退の報を受けて、そう言えばこれ読んでなかったと思い、手にとった。Clarkeのアルカイダ分析を読むと、いつの時代も国策は、国益よりも、国内政治的な動機に動かされるんだなと感じる。コロナ政策もそうだしね。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3jFbut3">ぼくはこんな本を読んできた by 立花隆</a>:“真の過去の知の総体は、常に最新のレポートの中にしかない” “それに僕は、「この一冊」という読み方はするべきじゃないと思っててね。何かに興味を持ったら、関連の本は十冊は読むべきなんです”</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3yZzuvj">男どき女どき by 向田邦子</a>:向田邦子氏が語る男女の話、というか女からみた男の話。フィクションもエッセイも収められている。「目は心の窓といいます」「老いに席をゆずろうとしない」といった表現に、稀代のヒットメーカーのセンスを感じる。</li> <li><a href="https://amzn.to/2XyaMFo">Between You &#x26; Me: Confessions of a Comma Queen by Mary Norris</a>:TNYにコピーエディターとして何十年も務めているNorris氏の自伝…のフリをした痛快な英文法の与太話エッセイ集。自伝でBryan Garnerの名前が出てくるのはさすがTNY関係者。一番ツボったのは筆記具の話かなw</li> <li><a href="https://amzn.to/3lEvefN">The Psychology of Money by Morgan Housel</a>:兵長が読んで良かったと言ってのでオーディオブックで聴いた。お金との付き合い方を考えるためのガイドブック。特に新しい発見はなかったけれど、この手の話は定期的にインプットした方が、心の筋トレ的な意味で良い。</li> <li>*<a href="https://shop.specialprojects.jp/products/kissa-by-kissa-3rd-ed">Kissa by Kissa by Craig Mod</a>:中山道と伊勢路を歩き、道中出会った喫茶店とその人間模様について書いたフォトエッセイ。鎌倉からスタートして京都までその距離963キロ、立ち寄った喫茶店29店。 一般には流通していないので、ご本人のウェブサイトから直接お求めあれ。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3lU2yzE">いま生きる「資本論」 by 佐藤優</a>:サラリーマンはマルクスを読むと不幸が減る、というのが僕の持論なのだが、この本はマルクスの代表作「資本論」の啓蒙書。 竹中半蔵氏は資本論を理解しているから労働を搾取するパソナの会長をやっているんだというくだりは、さすが佐藤優w</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3zDDVvR">思い出トランプ by 向田邦子</a>:直木賞受賞作3篇を含む短編13篇(よってトランプ)。エッセイは色々と今年読んでいて、創作はなんぼのもんじゃろって感じだったが、創作の方がすごかった。あとがきで水上勉氏が、短編を学びたい人は収録作を写してみると良い、というのも頷ける。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/2We7Ihf">新聞記者、本屋になる by @ochimira</a>:記者を58歳で辞めた筆者が本屋を始めた経緯を書いた本。本だけでは売上は立たないこと、本を売るので忙しい本屋は読書好きには向かないこと、長居して何も買わず店構えを撮ろうとした客にキレそうになった話など、SMBのリアルを感じる。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3uPj3kR">カラフル by 森絵都</a>:近所の本屋で「高校生の間で話題!」と宣伝されており、流行りに乗りたいオッサンは買わされてしまった。今流行ってる割には時代描写がすごい自分の年代とマッチしているなと感じ、出版年を調べたら98年だった笑 SNSが荒む今、この話が流行るのも納得。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3plYPOD">Freedom by Jonathan Franzen</a>☆:出世作はNational Book Award受賞のThe Correctionsだが、こちらの方が秀作。2004年&#x26;2010年という時代設定も個人的にはドンピシャだった。今のFranzenの年齢くらいになったら懐古的にもう一度読み直したい。フィクションでは今年No. 1作品。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3vD6byl">共同幻想論 by 吉本隆明</a>:高校生の時に読んだ記憶があるが、今読み返すと、あの頃さして理解できていたは思えない。今回はそれなりに理解できた気がするが、そもそも吉本隆明って文章が周りくどいし、反論の仕方が子供じみていると率直に思えるほどには歳をとった。再読候補。</li> <li>*<a href="https://www.amazon.co.jp/dp/4041717213/ref=cm_sw_r_awdo_navT_a_DHJZAFV0H89TRVFNSP9P?tag=jktamuracom-22">財布のつぶやき by 群ようこ</a>:近所のオシャレ蔦屋書店の「食と生活」コーナーにあった。初群ようこ。イメージ的には佐野洋子/向田邦子の後継者かな。独身で猫を飼うというのは日本の女性エッセイストの一つの型なのだろうか。 文体的には佐野/向田の方が好き。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3F9IaTh">文章読本 by 丸谷才一</a>:旧仮名遣いを敬遠して読んでなかった作家だが、いったん読み始めてしまうと割とすぐに慣れた。本の内容そのものは、割とその手の本にありがちな話だが、日本語特有の文章の書き方についての考察に関しては、讀みごたへがあつたやうに思ふ。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3FQvd11">春宵十話 by 岡潔</a>:何気に読んだことがなかったので丸善で平積みになっていたものを購入。若干懐古主義(と言っても彼が憂いている時代すら今や懐古される時代なのだが)を感じるが、スパッと言い切る物いいは心地よい。岡潔はツイッターに向いていたと思う。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3CV1vWB">遠野物語 by 柳田國男</a>:共同幻想論からの流れで二十年ぶりに読んだのだが、意外に面白かった。ここでいう面白いというのは、カフカ的な意味不明な面白さ。 後半2/3の拾遺の部分は初読だったのだが、こちらの方が面白い。最初に生えた陰毛を抜くとボーボーに生えるらしいよ。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3DhD9q8">樹影譚 by 丸谷才一</a>☆:BRUTUS村上春樹特集で、彼の選ぶ51冊にランクインしていた表題作+他2作。村上氏は丸谷氏を日本語のスタイリストと評したが、言い得て妙である。話そのものは至極くだらないのだが、独特の文体と構成力で面白く読める。メタな意味で村上春樹に似ている。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3mzpIfO">山の人生 by 柳田國男</a>:遠野物語を買った時に一緒に買った。連載をまとめた作品なので、遠野物語よりは読みやすく書かれている(仮名遣い含め)。こういう話を読むと、鬼滅の刃的なものが日本人の心の響くのも頷ける。鬼の子の話とかそっくりそのまま出てくるし。再読候補。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3z2aWU7">The Man Who Loved Children by Christina Stead</a>:Franzenが勧めまくったことで再発見された作家/作品。前々から読もうと思っていてやっと読めた。いわゆる翻訳不可能な作品にして、強烈なフェミニスト文学。淡々と悲喜劇的クソ家族を描く。あと出てくる男がことごとくクソ。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/30ZvgZu">歴史を考えるヒント by 網野善彦</a>:FFの方に勧められた網野史の入り口ということで読んだ。素人理解だと、本流の歴史学ではないそうだが、読み物としては楽しく読めた。他の作品も読んでみたいし、逆に反網野(メインストリーム?)でおすすめの日本史学者がいればぜひ知りたい。</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3sJTRwK">ここは退屈迎えに来て by 山内マリコ</a>:日本人女性の多くが当たり前に経験しているが日本人男性が到底知り得ないことを、真摯かつ丁寧に、でも何処かポップに描かせたら山内マリコは当代ピカイチだと思う。 「チンコ使わないセックスってないの?」</li> <li>*<a href="https://amzn.to/3FDOGSS">しない。 by 群ようこ</a>:限界アラサー独身という共同幻想にモヤる人にこそ読んでもらいたいエッセー集。名前こそ群だけど、全く群れないようこさんの話。我が道を行く清々しさには勇気づけられる。文庫版のあとがきにしれっとオチが書いてあるのでそこまで読んでほしい。</li> <li><a href="https://amzn.to/3qAzSxX">The Consolations of Philosophy by Alain de Botton</a>:今年最後はde Botton。哲学ダイジェストを文学タッチで、という感じ。出てくる哲学者は聞いたことあるけど読んだことない方々ばかりだったので、2022年はいくつか読もうと思う。とりあえずショーペンハウワーは非モテ。</li> </ul><![CDATA[AirPods Max - 5ヶ月経ってみて]]>https://j.ktamura.com/archives/airpods-max-5-months-inhttps://j.ktamura.com/archives/airpods-max-5-months-inSat, 03 Jul 2021 00:00:00 GMT<p>AirPods Maxを使い始めて、5ヶ月が経とうとしているので、<a href="https://j.ktamura.com/archives/airpods-max">前回のレビュー</a>の続編を書こうと思う。</p> <p><strong>重さは慣れる。</strong>最初はつらかった500gだが、数週間すると、すっかり慣れた。今では一日中使っていても、何も感じない。バッテリーの持ちが良いこともあり、気がついたら数時間つけっぱなし、みたいな日もある。ただ、つけっぱなしにしていると、恐ろしい結果になるらしいので、気をつけている。</p> <blockquote class="twitter-tweet"><p lang="ja" dir="ltr">もうだいぶ前のことだけど、仕事中ずーーーっとヘッドフォンをつけてた人がいたんだけどその人はヘッドフォンで頭髪を押さえてた部分だけがきれいに禿げた。それ以来、オーバーイヤーヘッドフォンというのは長時間使うものじゃないと思ってる。</p>&mdash; Satoshi Nakagawa (@Psychs) <a href="https://twitter.com/Psychs/status/1361828223613460484?ref_src=twsrc%5Etfw">February 17, 2021</a></blockquote> <script async src="https://platform.twitter.com/widgets.js" charset="utf-8"></script> <p><strong>音質はすばらしい。</strong>これは、本当に、本当に、すばらしい。最近、<a href="https://www.dolby.com/technologies/dolby-atmos/">Dolby Atmos</a>による、空間オーディオという新機能も追加され、ますます音質が良くなった。今後とも、垂直統合が可能にする画期的音響は、楽しみである。</p> <p><strong>相変わらずメガネとの相性は悪い。</strong>が、最近はAirPods愛が高じてか、悪いのはメガネの方なんじゃないかとさえ思い始めた。JINSさんに対しても、産業デザインの常識をどんどん覆しているアッポーを見習い、リムレスで甘んじてないで、ツルレスなメガネを作るべきだとすら思えてくるから怖い。え、それってコンタクトレンズ?ああ、そうですか…</p> <p><strong>暑い。</strong>最近、移動中にもZOOMに入る必要があるので、外出時にも使うのだが、これがクッソ蒸れる。耳あての部分は脱着可能になっているのだが、汗のかき過ぎで、そろそろ交換するなり、洗浄するなりしたくなっている。</p> <p>ちなみにこの耳あて、<a href="https://www.apple.com/jp/shop/product/MJ0J3FE/A/airpods-max%E3%82%A4%E3%83%A4%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3-%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%89">お値段7,480円</a>である。プリンターのインクカートリッジを彷彿させる強気の価格設定。アッポーのあくなき収益化への情熱と執念を垣間みた。このまま2030年ごろには、「御社が耳あてストアで売上の30%をハネているのは、法学院1年生にも失笑されるような独禁法違反ではないのか」と、上院議会で鬼詰めされるくらいまでやり切ってほしい。</p> <p><strong>だが実際のところ、マジで流行っていない。</strong>僕はこれでも毎週何十人ともテレカンをするのだが、今まで2人しか利用者を見かけていない。1人は資産家、もう1人はネタ好きの同僚だ。僕はこの利用者の少なさに、一抹の不安を覚えている。ま、まさかiPhone 12 Miniみたいなことにならないよな…(震</p><![CDATA[万年筆を買った]]>https://j.ktamura.com/archives/fountain-pen-of-grown-uphttps://j.ktamura.com/archives/fountain-pen-of-grown-upSat, 26 Jun 2021 00:00:00 GMT<p>自分の誕生祝いに万年筆を買った。このデジタル全盛期に、アナログ製品に2万円も溶かしてしまった。</p> <p>この一年ほど、手書きでノートをとることが増えた。去年の誕生日にプレゼントでもらった万年筆を使う、格好の口実だからだ。ただしその万年筆はおしゃれだが長時間利用には向いてないので、手が疲れない執筆用にと今回購入したのが、PILOT社のカスタムヘリテージ912というわけだ。</p> <p>手書きでノートをとるようになってから、Zoomで人の話を聴いている時に、より集中できるようになった。目線の先にあるのは、紙とペン先だけ。それ以外、注意をひくものは、何もない。</p> <p>加えて、人の話の聴き方が、立体的になった。窮屈なほどに線形であるパソコンやスマホのメモアプリだと、何分も前に発言されたことと、今話されていることのつながりが見えた時、その関係性を表現することが難しい。その点、文字どおり縦横無尽に使えるメモ用紙は、とても便利だ。話者の言葉を「書く」ことも、論点の再構成を「描く」ことも、さらっとできる。そして、その副次的効果として、会話中に、より意義のある質問ができる。意義のある質問は、対話を豊かにする。そして豊かな対話は、共に過ごす時間を豊かにする。</p> <p>タブレットでもまるで紙のようにノートが取れるアプリはあるに違いない。ただ、紙とペンほど起動時間もレイテンシも小さいアプリは、まだタブレットでは実現できていないように思う。</p> <p>当然のことながら、デジタルの方が、保存性・検索性は高い。が、少なくとも自分の場合、紙とペンによって高められる話者の言葉への集中力は、後日紙からデジタル媒体にメモした内容を移植するコストを鑑みても、十二分に値する。</p> <p>他の人と過ごす時間の密度にこだわり始めたら、いよいよ人生も後半戦なのかもしれないが。</p><![CDATA[いまひとつの土曜日]]>https://j.ktamura.com/archives/showered-in-tokyo-bayhttps://j.ktamura.com/archives/showered-in-tokyo-baySun, 13 Jun 2021 00:00:00 GMT<p>昨日、運転する車の窓ガラスにオッサンの小便を浴びながら、色々と考えさせられた。</p> <p>所用で房総の方に行った帰り、アクアライン経由で神奈川の方に戻ってくる時のことである。首都圏外、運転をしない読者のために説明しておくと、アクアラインというのは、千葉県の木更津と、神奈川県の川崎をつなぐ自動車道で、海ほたるという人工島を境に、千葉県側は橋架、神奈川県側はトンネルになっている。</p> <p>総長15キロばかりのアクアラインだが、週末はとにかく混む。緊急事態宣言だろうが、まん防だろうが、お構い無しだ。狭い海中トンネルでの運転に慣れない人も多いのだろう。自然渋滞はもちろん、小さな事故はよく起きている。その度に狭い片道2車線は、駐車場と化す。</p> <p>昨日のアクアラインも、ご多分に漏れず、渋滞だった。漏れそうだったのは、僕の車の前に乗ったオッサンの膀胱だったのだろう。木更津方面からアクアラインに乗り、中継点の海ほたるがまだ見えないくらいのところで、事件は起きた。前を走っていた黒いホンダFITの助手席から、彼は飛び出してきた。細い水色の横じまが入った黄色いポロシャツに、ぴったりしたジーパンを履いているチョイ悪系のオッサンは、真っ先に欄干に向かう。</p> <p>おい、ここは東京湾のど真ん中だぞ。何をする気だ。車の中で何があったんだ。早まるなよ!ハンドルを握る手に力が入った。</p> <p>…が、次の瞬間、僕の心配は杞憂に終わる。事もあろうか、オッサンは立ちションし始めたのだ。イチモツが我々ドライバーの目に入らぬよう、車の進行方向に向かって。</p> <p>これには僕も驚いた。よほど我慢の限界だったのだろうか。少しずつだが進む車のバックミラーに、オッサンが映る。もちろんイチモツも映っているが、さすがにバックミラーだと細部までは見えない。代わりによく見えたのは、放出されている液体の方だ。</p> <p>ここは東京湾のど真ん中である。風が吹いている。それも横殴りの強風が。</p> <p>おっさんの小便も、横へ横へと飛んでいく。ちょうど南風が吹いていて、僕の車線は西から東に向かっているので、実質オッサンは、我々の車両に小便をかけていることになる。</p> <p>ここで僕は重大なことに気づく。おっさんが、僕の目の前で車を飛び出し、欄干に向かい、飛び降りると見せかけて、立ち小便をし、その副産物が、南風に運ばれて、車両サイドに飛んでいることを。</p> <p>つまり、僕の車には、おっさんの小便がふんだんにかかっていることを。</p> <p>おそるおそる車の左サイドの窓を見ると、水滴がついている。今日は快晴、空から水滴らしきものは、粒ひとつ落ちてきていない。つまり、この水滴は、99.99%、おっさんの老廃物である…</p> <p>茫然とする僕の前を、男性が走っている。さっきのオッサンである。膀胱を空にした彼は、黒いホンダFITに乗るべく走っているのである。ここで、オッサンのジーパンがくるぶしを見せるスタイルで、ノーソックスのローファースタイルなことに気づく。イタリアンファッションのちょい悪オッサン。渋滞で逃げ場のない赤の他人の車に、悪びれもせずに小便をひっかけて走り去る、ちょい悪オッサン。</p> <p>窓を開けていなかったことを不幸中の幸いとし、そのまま帰路についたのだが、何事もなかったかのようにFITに乗り込むオッサンを見て、色々と考えてしまった。</p> <p>あのオッサンは、アクアラインに乗る前にトイレに行けなかったのだろうか。アクアラインの混雑状況は、乗る何kmも手前からわかるよう、ありとあらゆる電光掲示板に書いてある。何も考えずにアクアラインに乗り、尿意に身を任せるのは、いくらなんでも非常識だ。こういうオッサン・オブ・オッサンな行為をするオッサンがいるから、僕らオッサンが…</p> <p>というか、あんなに颯爽と走れるなら、走って海ほたるまで行って用を足せば良かったのではないか。それとも颯爽と走れたのは、膀胱が空になったからなのだろうか。</p> <p>百歩譲って、立ちションそのものを許したとして、なぜ彼は他の人の車に小便をひっかけて良いと思ったのだろうか?ポリ袋やペットボトルのひとつくらい、車内になかったのだろうか?ひょっとしたらオッサンは、エコ意識が非常に高い御人で、プラスチック容器などひとつも車内にないのかもしれない。車もホンダFITだし…</p> <p>ひょっとしたら、彼は病を抱えていて、頻尿なのかもしれない。でも頻尿なら、なぜ混むことが容易に想像される土曜日のアクアラインに乗るのか。ぐるっと東京側を迂回すれば、いくらでもトイレはあっただろうに。</p> <p>何よりも気がかりだったのは、このにわかイタリアンファッション小便垂れ流しクソジジイが、当然のごとく立ちションをし、誰に謝るわけでもなかったことだ。車に小便をかけられるのはまだ良い。あの前後数車両の中に、若い家族連れがいたとして、もし事の一部始終を子供が見ていたとしたら、その親は何と思っただろう。</p> <p>日曜日の夕方、車を拭いたタオルの茶黄色いシミを見る僕の頭には、浜田省吾の「もう 彼のことは忘れてしまえよ」がこだまする。</p><![CDATA[折衷的スタートアップの時代?]]>https://j.ktamura.com/archives/moderate-innovatorshttps://j.ktamura.com/archives/moderate-innovatorsWed, 05 May 2021 00:00:00 GMT<p>これから数年のインターネットサービスは、折衷的になるんじゃないかとみている。</p> <p>折衷的とは、つまり両端を避け、真ん中あたりの程よい妥協解をみつけることだ。「折衷」とか「妥協」とか、もう言葉のニュアンスからして、「イノベーション」の明るいトーンに馴染みそうにないが、市場をみていると、そうなる気がしてならない。</p> <p>例えば、SubstackやGhostに代表されるニュースレター系のサービス。これらは、「誰でも閲覧できてしまうことで、炎上リスクが上がる」というブログの世界と、「怖いのはスクショだけ、ほぼ忖度なしに話せる」完全に閉じたグループチャットの世界の間に位置しており、その課金モデルも、たくさんのページビューを前提とした広告収入でもなければ、ごく少数の人間に自分の専門性を売るわけでもなく、数百から数千のファンから直接お金をもらうサブスクという、これまた中間的なアプローチだ。</p> <p>より時事的なネタだと、Spotifyが<a href="https://newsroom.spotify.com/2021-04-27/spotify-ushers-in-new-era-of-podcast-monetization-with-new-tools-for-all-creators/">発表した</a>ポッドキャストの購読者課金サービスなども折衷案と言える。アグリゲータ志向の会社としては正しい中央集権的なモデルを目指しつつも、クリエイターの方もちゃんと向いており、最初の2年間はマージンを取らないと発表している。以前、noteを例に、アグリゲータとプラットフォームの葛藤について<a href="https://j.ktamura.com/archives/note-platform">まとめた</a>が、Spotifyはその境目をうまく渡り歩いている印象だ。<sup id="fnref-1"><a href="#fn-1" class="footnote-ref">1</a></sup></p> <p>ではなぜネットサービスは折衷的になりつつあるのだろうか?ふたつ理由があると考えている。</p> <p>まずはインターネットそのものが成熟してきたから。成熟すると、極端な解が一通り出てきて、長所短所がはっきりする。長所短所がはっきりすると、いいとこ取りをした解がどんどん生み出されていく。いいとこ取りをして巨人の肩に乗るということは、重心は中央に寄るということだ。また数年すれば非連続な技術が出てくるだろうが、今は先人のとんがった成功と失敗を組み合わせる時代だ。</p> <p>もうひとつは、ネット人口が増えたから。世界に存在しているほとんどの人は中庸なので、極端な解にはついていけない。なので、結果的にいい塩梅に角が取れたサービスが支持されやすくなる。これはプロダクトもそうだし、その裏にある起業思想もそうだ。</p> <p>15年以上前、Facebookは世界をよりオープンにしてつなげると豪語していたが、ああいう厨二病的ミッションを掲げたネットサービスが今出てきたら、世論の双翼からフルボッコにあうだろう。実際一世代あとのユニコーンたちを俯瞰すると、政治的理想主義は薄れ、自由経済色が濃くなっている。Gig Economy系は読んで字の如くだし、ミッション系<sup id="fnref-2"><a href="#fn-2" class="footnote-ref">2</a></sup>のStripeだって「ネットのGDPを増やす」<sup id="fnref-3"><a href="#fn-3" class="footnote-ref">3</a></sup>という、いたってノンポリで、経済目線のミッションを掲げている。いわゆる“It's economy, stupid”の時代なのかもしれない。</p> <p>時代が変わるにつれて、起業家に求められる資質も変わっていくだろう。いつの時代も起業家は型やぶりな生き物だが、型のやぶり方にもいろいろある。今までのように、突拍子のないことを思いついたり、既存ルールを無視して突き進む革命家よりも、既存のものをうまく組み合わせたり、多種多様な価値観の絶妙な落とし所を探り当てる活動家の時代が来ているのではなかろうか。</p> <hr> <div class="footnotes"> <hr> <ol> <li id="fn-1"> <p>2021年5月時点で、筆者は少額ですが、Spotifyの株を保有しています。</p> <a href="#fnref-1" class="footnote-backref">↩</a> </li> <li id="fn-2"> <p>ミッション系というと、いわゆるキリスト系の学校みたいなニュアンスに聞こえるが、そういう意味ではなく、ホームページに行った時に、情熱大陸のエンディングテーマ曲が流れてきそうなスタートアップのことを指す。</p> <a href="#fnref-2" class="footnote-backref">↩</a> </li> <li id="fn-3"> <p>“Increase the GDP of the Internet”というものだが、あえて政治的深読みをするならば、インターネットそのものを国家として捉えているところだろうか。</p> <a href="#fnref-3" class="footnote-backref">↩</a> </li> </ol> </div><![CDATA[あなたは、彼女に10億円の小切手を切れるだろうか?]]>https://j.ktamura.com/archives/1b-yen-for-herhttps://j.ktamura.com/archives/1b-yen-for-herFri, 05 Mar 2021 00:00:00 GMT<p>最近、結果の平等と、過程の平等について考えている。</p> <p>100万円を、10人に配るとしよう。もしこの10人について何も知らなければ、1人あたり10万円ずつ配るのはとても平等に見える。これは、全員が同じ金額をもらうという「結果」の観点からも、各人の懐事情を気にしないという「過程」の観点からもだ。この考え方は結構普遍的なもので、あらゆるゲームの出発点として妥当とされているものだ。桃鉄で開始時の所持金がプレイヤーによって異なったり、得点系スポーツの開始スコアが0:0でなかったとしたら、不平等だと感じる人がほとんどだろう。</p> <p>ここで、この10人の経済状況が、著しく違うことがわかったらどうだろうか?仮に、10人のうち、9人の総資産が1万円で、1人の総資産が1億円だったとしよう。この場合、先ほどの1人10万円ずつというのは、結果の平等という観点からは、最適ではないように見える。「1億円持っている人に10万円を上げる必要はない。むしろ9人に11万円ずつ配り、余った1万円を9人の中から抽選で1人にあげる方が、平等だ」と容易に考えられる。この場合、総資産は、12万円が8人、13万円が1人、1億円が1人となる。最も貧しい人は12倍豊かになり、貧富差は、1万円:1億円≒1:10,000から12万円:1億円≒1:833に縮まっている。</p> <p>だが、10人に10万円ずつ配るという方法も、そこまで悪くはなく思える。なぜなら、その場合、11万円が9人、1億10万円が1人で、貧富差は1:909だ。先ほどの1:833に比べればやや劣るが、スタート地点の1:10,000と比べれば、それでもすごい進歩だ。さらに、億り人にびた一文あげなかった先程の分配法と違い、配り方に関しても平等だと胸を張って言える。「過程」と「結果」の双方の観点からどちらの分配方法がより平等か、なかなか甲乙つけがたい。</p> <p>こいつ何を言っているんだと思うかもしれないが、もうひとつだけ思考実験に付き合ってほしい。</p> <p>仮に、10人中億り人が9人いて、1人だけ1万円しか持ってなかったとしよう。この場合、どうやって100万円を配るのが平等だろうか。10人に10万円ずつ配るのは、「過程」の観点からは平等だが、「結果」の平等からはほど遠い。1億10万円が9人に11万円が1人…全くもって趣味の悪いジョークにすら思える。「結果」の平等という観点からすれば、総資産1万円の人に、100万円全部あげるべきだろう。そうだとしても、101万円の所持者と億り人たちでは、総資産の差は実に1:99である。</p> <p>上のふたつの例で示したかったこと、それは原状によって、「過程」の平等と「結果」の平等の持つ意味が、ほぼ同じにもなりえるし、大きく乖離する場合もあるということだ。さらに言えば、圧倒的不利な状況に置かれている人が少ないほど、そのふたつの意味は乖離する。この考え方は、いわゆるダイバーシティの話を考える上で、見落とされがちであると同時に、最も議論されるべき話だと感じる。</p> <p>最近だと、様々な会社や組織が、意識的にダイバーシティ施策を進めており、定量的ゴールを設けるようになっている。JOCの女性理事40%以上という話もそうだし、ベンチャーキャピタルの世界での、投資先〇〇割を女性起業家にという話もそうだ。多民族国家のアメリカでは、「女性」の代わりに人種やジェンダーで閾値を設けるところも少なくない。</p> <p>これらの施策に反対する人たちは一定数いる。そういう人たちの反対論にはいくつかのパターンがあるが、多くの場合、特に非過激派の場合、「過程」の平等を「結果」の平等よりも重んじる価値観から来る。選考プロセスに、ジェンダーや人種といった属性を加味することは、「過程」の平等さを欠くのではないかと。この論点はたしかに一理ある。男性だから、女性だから、若いから、年をとっているから、ゲイだから、シスだから、クイアだから、金持ちだから、貧乏だからといって、プロセスが変わるのはおかしいではないかと。女性を〇〇人雇う、経営陣を〇〇%性的マイノリティにする、みたいのは、「結果」の平等の押し売りなのではないかと。</p> <p>ここで、先程のふたつの総資産の原状の話に戻る。圧倒的不利な状況に置かれている人が少ないほど、「結果」と「過程」の平等は乖離する、という話だ。昨今のダイバーシティの話の多くは、先の話でいう後者、つまり圧倒的不利な状況に置かれている人が少ない場合の話が多い。これは仕事の世界での女性の立場もそうだし、一般社会生活における障がい者や性的マイノリティの場合もそうだろう。結果として、「結果」の平等を主張する人たちと、「過程」の平等を主張する人たちの話は、哀しいほど噛み合わない。「過程」を平等にしたところで、「結果」は平等になるとは限らないからだ。</p> <p>無論、実際のジェンダーをめぐる平等性が、先の記述よりも遥かに複雑なものであることは、重々承知している。むしろ、僕の哀れなほど簡略化されたモデルですら、これだけ難しい問題なのだ。ましてやリアルな社会に於いては推して知るべしである。</p> <p>ここまで「過程」と「結果」にかぎカッコをつけてきたには理由がある。何が結果であり、何が過程なのかについて、ダイバーシティ施策賛成派と反対派の間で、合意が得られていないからだ。これが問題を複雑化する。</p> <p>例えば、先のJOCの女性理事40%以上という話の場合、女性理事を40%にすることは、「過程」だろうか、それとも「結果」だろうか?</p> <p>スポーツの世界でのさらなる女性の活躍を促すためにロールモデルを増やす、という観点からは「過程」と言える。世の女性たちが、JOCの要職に就く女性たちをみて、社会の変化を感じ、自身たちも勇気づけられ、結果として男性偏重の流れを変えられるという考え方だ。一方、これを「結果」としてみることも難しくはない。JOCの役員は、誰がどう考えても選ばれた人しかなれないような要職で、それをほぼ半数が女性が占めるという「結果」だという見方。あくまで40%で50%ではないので、厳密には平等ではないのだが、主張はわからないでもない。</p> <p>ただし、この40%の女性役員を結果とみるか、過程とみるかで、その後の議論の展開は変わってくる。仮に2人の結果平等主義者がいたとする。40%の女性役員を「結果」としてみる人は、「少なくともJOCという組織の文脈では平等となりました。めでたしめでたし」と言うかもしれない。一方、これをあくまで「過程」としてみる人は、「いや、これは女性があらゆる社会的場面で正当に評価されるための過程に過ぎません。結果は別のところにあり、それは…」と議論を続けるだろう。似たような道徳的価値観を持っていたとしても、物事の捉え方が違えば、結論も違う。そして実世界では、物事の捉え方はもちろんのこと、道徳的価値観も十人十色であり、もうそれは議論のスタート地点に立つことすらすごいエネルギーを要するのだ。</p> <p>僕もここまで書いてだいぶんエネルギーを消耗したのだが、最後にもう一度だけ、似たような思考実験に戻りたい。</p> <p>ただし今度は、あなたは投資家で、目の前に9人の男性起業家と、1人の女性起業家がいるとする。10人とも、資金調達真っ只中であり、あなた観点だと、全員とも投資先として同じくらいのリターンを得られる可能性を持っているとしよう。あなたの手元には10億円の軍資金がある。リスク分散的には、全員に1億ずつ投資するのが、賢い投資だろう。</p> <p>ただここで、新たな事実が発覚する。9人の男性起業家はすでに10億円ずつ調達済みだが、10人目の女性はまだ1円たりとも調達できてないというのだ。</p> <p>その時、あなたは、彼女に10億円の小切手を切れるだろうか?</p><![CDATA[Thomas Sowellと教育]]>https://j.ktamura.com/archives/sowell-odysseyhttps://j.ktamura.com/archives/sowell-odysseyTue, 23 Feb 2021 00:00:00 GMT<p>Thomas Sowellほど、アメリカ社会を象徴するインテリも中々いない。1930年ノースカロライナに生まれたSowellは、物心つく前に、生母から叔母に里子に出される。Sowellという名字も、Thomasという下の名も、彼がMomと呼ぶ叔母につけられたものだ。貧しい南部の黒人の家に生まれたSowellは、ニューヨークで育ち、海兵隊に服役したのち、ハーバード大学を卒業、その後コロンビアで修士号、シカゴ大学で経済学博士号を取得する。専門の経済学史を中心として、様々な分野で独自の見解を発表し、黒人だけではなく、20世紀アメリカを代表するpublic intellectualになっていく。今年で91歳になるが未だに現役で、スタンフォード敷地内にあるリバタリアンのシンクタンクHoover Institutionで研究を続けている。最近だと、Trumpを支持した悪名高き黒人の爺さんとして、一世代前ならRobert Bork裁判官の最高裁判事審問の証言人として、その名を聞いたことがあるかもしれない。</p> <p>そんなSowell氏が書いた自伝が“A Personal Odyssey”<sup id="fnref-1"><a href="#fn-1" class="footnote-ref">1</a></sup>だ。ずっと日記でも書いていたんじゃないかと思うほどの綿密さで、Sowellは自身の半生を振り返るのだが、特筆べき点がふたつある。</p> <p>ひとつは、教育、特に子供の教育への強いこだわりだ。与えられた環境の中で最高の教育を受けられるべきだという彼の主張には、自身の成功体験に裏付けされた強い想いを感じる。貧しくても、夜間高校の卒業生でも、大学一年次に24歳でも、そして市民権運動前の黒人でも、努力相応の教育を受けることができたから、今の自分があると。だからSowellは、必要とされる努力を、人種間で調整するAffirmative Actionに反対する。プロセスの公平性を損なうという思想的な問題もそうだが、実際に自分が数少ない黒人の教授として教鞭を取る中で、Affirmative Actionによって下駄を履かせてもらったマイノリティの生徒たちが、中々結果を出せなかったり、勉学に向き合う姿勢がなかったりする現実を見てきたからだ。</p> <p>自伝を読むとわかるが、それでもSowellは黒人の、否、がんばろうとするあらゆる学生の教育に対して非常に情熱的である。Hoover Institutionに移り、教鞭を取らなくなったことでせいせいした、みたいなくだりがあったが、あれは一種のツンデレだろう。黒人の地位をアメリカ社会で引き上げるためには、「黒人にしては〜」と評価されるだけでは不十分だと信じており、根本的な初等教育格差の問題に取り組まずに、学力不十分の生徒を大学に入れることで帳尻を合わせようとする大学の欺瞞に愛想を尽かしたのだ。本当の教育をしたかった人間が、教育現場に幻滅する、というのは、現代社会あるあるなのかもしれない。</p> <p>もうひとつSowellの生き方の特筆すべき点は、限りないまでのプロセスの公平性へのこだわりだ。印象に残っているのは、学術誌の編集者に招聘された時、「僕はここ最近学術誌に出版していないのですが、それでも声がかかったのは、なぜですか」と問い正し、実は自分がいわゆるマイノリティ奨励枠だったことを知るや、辞退したというエピソードだ。しかも声をかけてくれたのが、ノーベル経済学賞受賞者のKenneth Arrowだというから、大したひねくれ者である。SowellはHoover Instutionに落ち着くまで、いくつもの大学とシンクタンクを転々とするのだが、自分を取り巻くプロセスの不公平性を看過できなかったからで、彼の思想に賛同できない人でも、その生き方を批判する者はいないであろう。</p> <p>無論、Sowellがこういう生き方ができたのは、本人が優秀で、稀有な存在だったからだ。その一方、我々の多くは、自分たちが生きる社会の公平性に対して考えるとき、どうしても軸を失いがちだ。自分に都合が良いものに賛成したり、周りの主張に流されたり、既得権益に忖度してしまったり。自分のその時々の立ち位置に依らない物の見方ができるようになることが、教育を通してしか得られないひとつの価値なんだろう、とアメリカ社会の縮図とも言えるSowellの半生を読みながら感じた。</p> <hr> <div class="footnotes"> <hr> <ol> <li id="fn-1"> <p>最終章は<a href="https://www.hoover.org/research/personal-odyssey">オンライン</a>で読める。</p> <a href="#fnref-1" class="footnote-backref">↩</a> </li> </ol> </div><![CDATA[成功を語らう人が唯一役立つのは、奢ってもらう時]]>https://j.ktamura.com/archives/good-for-a-free-drinkhttps://j.ktamura.com/archives/good-for-a-free-drinkFri, 19 Feb 2021 00:00:00 GMT<p>こんなツイートをしたところ、それなりに反響があった。</p> <blockquote class="twitter-tweet"><p lang="ja" dir="ltr">「成功している人の今を真似ても、成功しない」というのは大体の人がわかること。誰もいきなりプロアスリートの練習メニューを真似しない的な。<br><br>だけど「成功している会社の今を真似ても、成功しない」はナゼか理解されないんだよな。競合に執着しすぎるスタートアップは、大体このミスを犯している。</p>&mdash; ktamura (@tamuramble) <a href="https://twitter.com/tamuramble/status/1362197844141072385?ref_src=twsrc%5Etfw">February 18, 2021</a></blockquote> <script async src="https://platform.twitter.com/widgets.js" charset="utf-8"></script> <p>自分としては至極当たり前のことを言ったつもりだったのだが、意外にも共感を呼んだので、少し補足しておく。</p> <p>別にスタートアップに限ったことではないが、概して成功の要因は複合的だ。よくよく考えれば当たり前で、成功は稀な出来事であり、稀な出来事が単一的要因によって引き起こされるとすれば、その単一的要因そのものが稀、ということになる。そして世の中そんなに稀なものはなかなか存在しない。なので、大抵の成功は、結果的に、何十もの要因がうまく積み重なった時に起きるレア事象というわけだ。</p> <p>だが、こういった複合性は、成功体験の汎用性を下げることとなる。最終的にどの要因がどの要因とつながって成功をもたらしたか、誰も確証が持てないからだ。その一方、成功者には自由主義の語り部としての重圧がのしかかる。我々人間は、本能的に「深イイ話」を欲しており、起業シンデレラストーリーは、そのテンプレを忠実に守りきるミームである。結果として、検証しようがないし、多分間違っているけれど、物語としては面白い成功秘話が誕生していく。</p> <p>僕自身、スタートアップで必死にもがいていた時は、周りの成功秘話を読んでは、自分たちと比較した。だが、時間が経つにつれ、そして自分たちの事業が紆余曲折を経ながらも「成功」していくにつれ、ほとんどの成功秘話が、あまりにも単純すぎることに気づくようになった。自分たちの一歩一歩を振り返った時、なぜその一歩が踏み出せたのか、正直分からないことがほとんどだった。</p> <p>一方、失敗したスタートアップの死屍累々も散々見てきたし、自分たちもたくさんの失敗をした。失敗談の面白いところは、成功秘話と真逆で、色々な要因が語られるのだが、決定的要因は単純な場合が多い、ということだ。「創業者が喧嘩する」とか「間違ったタイミングで経験豊富な給料の高い人を雇う」とか「競合に気を取られてお客さんに向き合わなかった」とか、どれもシンプルで、あっさりとスタートアップを殺す。でもそういう失敗はなかなか語られないので、必然と情報量のバイアスを生み、不安と背中合わせの起業家を必要以上に悩ませる。会社で問題が起きていても、それがどれだけ普通だか、なかなかわからないーこんな想いをするスタートアップの中の人は少なくないだろう。</p> <p>そういう背景があるので、公に自分たちの失敗を語る起業家は、それだけで尊い。最近だと、<a href="https://note.com/naofumit/n/n028df2984256">グッドパッチの土屋さん</a>は好例だし、<a href="http://thefailcon.com">FailCon</a>は、一度行ってみたいカンファレンスのひとつだ。僕は今でも仕事の立場があるので、具体的に、公の場で自分たちの失敗を語るのは難しい。ただ、個人的に起業家に相談される時には、失敗談を中心に話すようにしている。これは、相手を勇気づけたいという想いもあるし、正直成功の部分に関しては、僕らのコンテクストに特化しすぎていて、参考にならないからだ。成功した会社に唯一共通点があるとすれば、それは「ラッキーだった」ということだけなのだ。</p> <p>テックメディアのろくろ回しインタビューならいざ知らず、しっぽり飲む居酒屋の席で、自分たちの成功を必然のように語りアドバイスをする人がいたら、適当に相槌を打ち、潤った財布で奢ってもらおう。彼らから得られるものは、残念ながらご飯代くらいなのである。</p><![CDATA[あえて言おう、Airpods Maxであると]]>https://j.ktamura.com/archives/airpods-maxhttps://j.ktamura.com/archives/airpods-maxMon, 15 Feb 2021 00:00:00 GMT<p>Airpods Maxを買った。</p> <p>Airpods Proではない。 昨年12月に発表された、バカでかいアッポー謹製のヘッドフォンである。ここまで説明すると、2人に1人くらいはこう言う。「あーBeatsっすか?」</p> <p>断じてBeatsなどと言う買収した子会社の紛い物ではない。アッポーのデザイナーとエンジニアが、コロナ禍でFaceTimeという旧世代ICTツールを駆使し、研究に研究を重ね、プロダクトマーケティングの無茶振りに応え、なんとかクリスマス商戦に間に合わせた、血と涙の結晶のことだ。</p> <p>正直に言うと、12月に発表があったタイミングでは、ピクリとも心を動かされなかった。そもそもヘッドフォンにこだわりは無いし、値段が値段過ぎて、買う理由が見当たらなかった。急いで注文していた人たちをツイッターで見かけては、「みんなアッポー好き過ぎだろ」と傍観していたくらいだ。</p> <p>それが、だんだんとレビューを読むうちに欲しくなってきてしまった。<a href="https://www.youtube.com/watch?v=P63z_Y1DCDI">Yuka Ohishiのレビュー</a>を見て少し心が動き、ヘッドフォンにクソうるさいMarco Armentの概ね前向きな<a href="https://atp.fm/409">レビュー</a>でその品質を確信した。去年仕事向けに買ったJabraのヘッドセットが半分イカれていること、左右両方とも2代目のAirPodsの電池が1時間持たなくなってきたことなども、背中を後押しした。</p> <p>何より買う意欲をそそられたのは、apple.comで在庫を確認した時だ。確か1月後半くらいだったが、なんと入荷するのは4-6週間後だというではないか。どれだけ需要過多なんだAirpods Maxよ!そんな長い間待ってられるかとメルカリにさっと飛んだ。</p> <p>今思えばこの時に気がつくべきであった。メルカリに何個も売っているだけではなく、値段が良心的だったのだ。本当に需要過多ならプレミアムが付いているはずなのに、何なら公式サイトよりも安いではないか。並ぶ67000円の希望価格が「損だけはしたくない」という売主の叫びだったのだ…</p> <p>だが既にインフルエンサーマーケの沼に腰まで浸かっていた僕が、そんなメッセージに気づくわけがない。チェックアウトは俊速、入金したそばから売主にメッセージで催促、5日後にはアッポーの叡智が詰まったAirPods Maxを手にしていた。</p> <p>そこまでして手に入れたAirpods Maxさんだが…あえて言おう、カスであると。</p> <p>まず、重さがカスである。重すぎて、初日は着けているだけで首が凝りそうになった。その後だいぶ慣れてきたが、重いことには変わりない。重すぎて、長いミーティングだと使うのを躊躇してしまう。そもそも買った理由の半分くらいが、電池の持ちが悪い初代AirPodsの代わりに使うはずだったのに、電池の前に僕の首が持たない。例のブラケースに入れて、頭頂部のメッシュのところを持つと、その重みたるや、まるでるろうに剣心御庭番翁のトンファーである。ドヤ顔で登場したくせに、全くもって使い物にならなかったあたりもそっくりだ。</p> <p>次にカスなのが、眼鏡との相性の悪さ。耳あてに圧迫された眼鏡フレームが、耳の後ろ辺りを締めつけてくる。最初は平気なのだが、30分、1時間と経つうちに、頭痛の元となってくる。僕の頭がデカイからなのかもしれないが、それにしても痛い。眼鏡をしないで装着するという解を得たが、視力0.01で極度の乱視の筆者がこれをやると、視覚が奪われた状態で最高の音質環境に身を置くことになり、10分後には寝てしまう。睡眠導入デバイスとしては優秀だが、仕事道具としては、カスofカスofカス。</p> <p>最高の音質と書いたが、確かに音は申し分ない。しかしやはり値段がカスである。67000円。売り抜けたメルカリの元持ち主の安堵のため息が、ノイキャンを通貫して聞こえてくる。いや、まあいいんだけど、これだったら別の軽い、ANC付きの、頭が痛くならないヘッドフォンを買って、美味しい寿司を食べてもお釣りが来たなと思うわけで…</p> <p>最後にひとつ良いことがあるとすれば、テレカンした時にネタになることだ。アッポー信者はすぐ気づいてコメントしてくれるし、そうじゃない人でも、ロボットアニメを彷彿させるそのデザインに一言言わずにはいられないらしい。そこで「HAHAHA7万円近く溶かしたぜ、このクソヘッドフォンに」と言えたら、あなたも僕と同じ立派な資本主義のブタである。</p>