弘前在住の漫画家・石塚千尋さんが3月17日、幽霊画「令和返魂香之図(れいわはんごんこうのず)」を久渡寺(弘前市坂元)に奉納した。
円山応挙の幽霊画から着想を得て制作したという石塚さんの幽霊画は、デジタルアートを尺五立て(縦180センチ×横60.5センチ)の掛け軸に仕立てた作品。円山応挙の幽霊画を現代風に再現するというテーマで、久渡寺の石段参道を背景にはかなげな表情でたたずむ長髪の女性を描いた。
石塚さんは弘前を舞台にした漫画「ふらいんぐうぃっち」を連載中の漫画家。「幽霊画には怖いイメージを持っていたが、応挙の作品を実際に見てみると表情には憂いや、どこか喜ばしさも感じた。作品では応挙が注力したであろうと感じた髪の毛の描写にこだわった」と話す。
円山応挙は江戸時代中期に活躍した絵師。久渡寺が所蔵する幽霊画「返魂香之図(はんごんこうのず)」は、弘前藩家老の森岡元徳が1784(天明4)年に久渡寺へ寄進した女性の肖像画で、元徳が亡くなった特別な存在の女性を供養するために応挙に書かせた物と伝わる。2021年に応挙の幽霊画として国内初の真筆と認められ、市有形文化財に指定。同寺では毎年旧暦5月18日に1日限定で一般公開している。
久渡寺では奉納240年の節目に当たる2024年から、津軽ゆかりのアーティストに「返魂香之図」からインスピレーションを受けて制作した作品を奉納してもらい、公開する取り組みを始めていた。今回は2年目で、同寺の住職・須藤光昭さんが石塚さんとの共通の知人を介して制作を依頼した。
須藤さんは「幽霊画をこれからも末永く保存していくため、久渡寺だけでなく地域にとっての宝になってもらいたい。『ふらいんぐうぃっち』は弘前を題材に、地域活性化への思いが感じられる作品。石塚さんに奉納いただいた作品と応挙の幽霊画で相乗効果が生まれれば」と期待を寄せる。石塚さんは「漫画家としてこのような機会をいただいたのはありがたいこと。貴重な応挙の作品が久渡寺にあることを若い世代にも広められたら」と話す。
今年の幽霊画開帳は6月13日12時~13時。石塚さんの作品も同月13~15日に一般公開する。