Deep Sky Memories

横浜の空で撮影した星たちの思い出

M105, M96, M95 (2025/2/24) / NGC3371 と NGC3373 の謎

2月24日夜の撮影のメインターゲットはω星団でした。

が、保険というか、何の成果も得られませんでした!!*1になるのは避けたくて、選んだサブターゲットはしし座の銀河 M105, M96, M95 のスリーショットでした。M105 はそれ自体が NGC3389, NGC3384 との三重銀河で、これらを一度に収める定番の構図です。

実は過去にスカイメモS + BLANCA-80EDT + OM-D E-M5 で撮っています。このブログを始める少し前で、振り返り記事でも紹介しそびれていましたが、こんな結果でした。

NGC3389, NGC3384, M105, M96, M95 (2016/12/10 04:33)
NGC3389, NGC3384, M105, M96, M95 (2016/12/10 04:33)
笠井 BLANCA-80EDT (D80mm f480mm F6 屈折), 笠井 ED屈折用0.6xレデューサー (合成F3.6) / Kenko-Tokina スカイメモS, D30mm f130mm ガイド鏡 + QHY5L-IIM + PHD2 による自動ガイド/ OLYMPUS OM-D E-M5 (ISO200, RAW) / 露出 3分 x 8コマ 総露出時間 24分 / DeepSkyStacker, Lightroom CC で画像処理

冷却CMOSでガッツリ撮るのは今回が初めてです。

22時頃から撮影開始。超低空ではダメだったガイドもこの時は絶好調でした。実はこの日たまたま SB-10 のマニュアルを読み返していて、今までずっと大気差補正をONにしていたことに気付きました。マニュアルによるとオートガイド時は大気差補正はOFFが推奨とのことで、今回からOFFに設定しました。だから好調だったというわけでもない気もしますが…

特にトラブルなく深夜 0:20 ぐらいに撮影完了。結果はこちら。

M105, M96, M95 (2024/2/24 22:05)
M105, M96, M95 (2024/2/24 22:05)
高橋 FSQ-85EDP (D85mm f450mm F5.3), フラットナー1.01× (合成F5.4) / ZWO IR-Cut Filter 48mm / Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + QHY5L-IIM + PHD2 2.6.13 による自動ガイド / ZWO ASI294MC Pro (Gain 150, -10℃), SharpCap 4.1.11817.0 / 露出 2分 x 52コマ, 総露出時間 1時間44分 / PixInsight 1.8.9-3, Lightroom Classic で画像処理

M105, M96, M95 (2024/2/24 22:05) (マーカー付き)
M105, M96, M95 (2024/2/24 22:05) (マーカー付き)

前回に比べてF値は暗くなって倍の露出時間が必要でしたが、4倍の露出時間で撮ったのでさすがによく写りました。ただし、背景のムラが結構ひどくて PI の ABE で取り切れなかったムラは Lightroom で手動でマスクを被せて誤魔化してますが…

せっかくなので等倍で切り出して各銀河を見ていきます。まず M96 から。

M96 (2025/2/24 22:05)
M96 (2025/2/24 22:05)

ぱっと見わかりにくいですが棒渦巻銀河です。*2 地球からの距離は3180万光年。写真に写った5つの銀河のうち NGC3384, M105, M96, M95 の4つは「M96 銀河群(M96 Group)」に属する銀河です。M96 はその中で一番明るいものです。

中心から右上に向かってうっすらですが暗黒帯が見えます。左下の腕の切れ込みのように見えるのは ESO の Very Large Telescope (VLT) の撮影画像を見るとどうやらこれも暗黒帯のようです。

一つ気になるのは銀河の外側を取り巻くリングの左上の部分に、リングにそって小さく細長く伸びる銀河のような何かです。Wikisky でも Galaxy Annotator でいつものように処理してもそれらしき銀河がヒットしないのですが、VLT の画像を見るとこれはどう見てもエッジオン銀河です。

改めて Hyper LEDA で確認すると 2MASXJ10465229+1150201 (PGC3760438)という7億5400万光年先の銀河でした。光度データが入ってないため Galaxy Annotator でいつものように最大光度で絞り込むと抜け落ちてしまっていたようです。実際には16等台後半ぐらいでしょうか。

次は M95 です。

M95 (2025/2/24 22:05)
M95 (2025/2/24 22:05)

これは見るからに棒渦巻銀河です。地球からの距離は3230万光年。腕が棒の部分をリング状に取り巻いていて、さらにその外側に伸びています。全体的に猫の目みたいに見えますね。

最後に NGC3389, NGC3384, M105 の三重銀河です。

NGC3389, NGC3384, M105 (2025/2/24 22:05)
NGC3389, NGC3384, M105 (2025/2/24 22:05)

左下が NGC3389(6260万光年、渦巻銀河)、左上が NGC3384(3060万光年、レンズ状銀河)、右が M105(=NGC3379, 3680万光年、楕円銀河) です。3つとも違うタイプの銀河ですね。NGC3389 だけ M96 銀河群に属さない銀河で、他の倍くらい遠くにあります。色も他と違って青っぽいですが、より若い頃の姿が見えているということでしょうか。

NGC3371 と NGC3373 の謎

実は Galaxy Annotator で処理すると NGC3389 は NGC3373、NGC3384 は NGC3371 と表示されてびっくりしました。すわバグか?と思ったらそれぞれ重複して登録された別名だそうです。しかし何故そんなことに?そして重複してるのに番号の小さい方ではなく大きい方が正解みたいに扱われているのは何故なのか?

調べてみると結構ややこしい事情がありました。NGC/IC Project Restoration Effort の NGC3371 のページにざっと事情が書いてありますが、以下に順を追ってまとめます。

話はジョン・ハーシェル(Sir John Frederick William Herschel)が星雲星団のカタログであるジェネラルカタログ(General Catalogue of Nebulae and Clusters of Stars)を作成した19世紀半ばに遡ります。ジョン・ハーシェル天王星の発見や天の川の構造の研究で有名なウィリアム・ハーシェル(Sir Frederick William Herschel)の息子です。

ジェネラルカタログは18世紀末にジョン・ドライヤー(John Louis Emil Dreyer)が追補して、現在も使われる「ニュージェネラルカタログ (New General Catalogue of Nebulae and Clusters of Stars)」(NGCナントカが収録されたカタログ)として生まれ変わりました。

NGC3371 はジェネラルカタログでは GC2196、NGC3373 は GC2198 でした。この2つはジョン・ハーシェルが発見した星雲で、それぞれ GC2193 と合わせた3つの星雲のうちの一つとして記録されました。ジェネラルカタログの記載では GC2193 が3つのうちの1つ目、GC2196が2つ目、GC2198が3つ目となっています。*3

しかしこの1つ目の GC2193 というのは M105(=NGC3379) ではなく、M105 から北に1.2度ほど離れた NGC3367 のことなのです。

ドレイヤーが1879年にまとめた General Catalogue Supplement の注記には GC2196(NGC3371) と GC2198(NGC3373) について、ビール(スイスの地名)、コペンハーゲン、ウプサラ、ライプツィヒで観測されなかったと記されています。*4 どうも GC2196(NGC3371) と GC2198(NGC3373) は行方不明になって誰も観測できていないようなのです。

その後、1881年にクリスチャン・H・F・ピーターズ(Christian Heinrich Friedrich Peters)が、1880年に GC2196(NGC3371) を確認した、GC2198(NGC3373) は見つけられなかったと報告しています。*5 しかし実際には GC2198(NGC3373) の周りにはそれらしき星雲は影も形もありません。

https://rna.sakura.ne.jp/share/Wikisky-SDSS-III-NGC3367.jpg
NGC3367 周辺 (Wikisky.org の SDSS-III 画像より)
https://rna.sakura.ne.jp/share/Wikisky-SDSS-III-NGC3379(M105).jpg
NGC3379(M105) 周辺 (Wikisky.org の SDSS-III 画像より)

一方、NGC3384 と NGC3389 はそれぞれジェネラルカタログの GC2207 と GC2211 として掲載されています。どちらもジョン・ハーシェルの父、ウィリアム・ハーシェルが18世紀末に発見したものです。

それでは何故 NGC3384 = NGC3371、NGC3389 = NGC3373 だと言えるのでしょう?NGC/IC Project のハロルド・コーウィン(Harold G. Corwin Jr)は次のように推理します。

ジョン・ハーシェルの観測記録では GC2196(NGC3371) と GC2198(NGC3373) の位置は GC2193(NGC3367) の位置からの相対位置で記録されていました。1st (GC2193(NGC3367)) と 2nd (GC2196(NGC3371))の間の赤経の差と位置角(position angle)、2nd と 3rd (GC2198(NGC3373))の間の赤経の差と位置角です。模式的に描くとこんな感じです。*6*7

https://rna.sakura.ne.jp/share/JHs-record-of-NGC3371-and-NGC3373.png

1st から 2nd の位置角は68.4度、2nd から 3rd の位置角は156.8度と記録されていて、これは 1st = NGC3379(M105), 2nd = NGC3384, 3rd = NGC3389 とした場合の位置角とよく一致します。ということは、ジョン・ハーシェルは 1st を NGC3367 と取り違えて観測した結果 NGC3384 と NGC3389 を未発見の天体だと誤認したのではないかというのがコーウィンの推理です。ピーターズが見たという NGC3371 は何だったのか?という謎は残りますが、コーウィンは当該位置の近くにある恒星を見間違えた可能性があるとしています。

結局、NGC3371 と NGC3373 は観測ミスもしくは計算ミスで誤登録された NGC3384 と NGC3389 と思われ、実際登録された位置には星雲は存在しないので忘れてしまって構わないというわけなのでした。

しかし Galaxy Annotator も修正が必要ですね… Hyper LEDA の objname には NGC3384 と NGC3389 の方が入っているので、優先順位の高いカタログの名前を取る際に objname がそのカタログの名前になっていたらそれを採用するようにすればよさそうです。*8 というわけで近いうちに修正しようと思います。

*1:諫山創進撃の巨人』より、調査兵団団長キース・シャーディスの言葉。

*2:Wikipedia 日本語版では2007年の文献を元に渦巻銀河としていますが、英語版では2010年の文献を元に棒渦巻銀河としています。Simbad では SBa, Hyper LEDA では Sab, bar ありに分類されています。

*3:Sir John Frederick William Herschel. 1864, General Catalogue of Nebulae and Clusters of Stars. Philosophical Transactions of the Royal Society of London Vol.154: 85p

*4:J.L.E. Dreyer. 1879, A Supplement to Sir John Hershel's "General Catalogue of Neblae and Clusters of Stars.". The Transactions of the Royal Irish Academy Volume XXVI: 392p

*5:C.H.F.Peters. 1881, Positions of nebulae. Series I. Copernicus: an International Journal of Astronomy, Volume 1, pp.: 51-54

*6:下絵に今回撮影した写真を使っていますが、実際には歳差運動によってジョン・ハーシェルが観測した当時とは位置角が異なります。

*7:模式図中の 53, 24 は赤経の差として記録された値ですが、観測記録には単位が書かれておらず、コーウィンは秒であろうとしていますが、ジェネラルカタログに登録された赤経の差を取ると26.5秒と11.6秒で、記録された値の半分になっています。1st = NGC3379(M105), 2nd = NGC3384, 3rd = NGC3389 とした場合も26.8秒と12.0秒でほぼ半分です。なぜ倍の値になるのかわかりませんがコーウィンも特に説明していません…

*8:というか問答無用で objname を出力していた v0.9.3 までのバージョンでは NGC3371 とか出なかったはずですね。

ω星団 (2025/2/24) / 近況

2月24日の深夜、ケンタウルス座の球状星団「ω星団」を撮影しました。

ω星団(NGC5139)は全天最大の球状星団ですが、北半球からは地平高度が低く見えにくく、メシエ・カタログにも載っていません(メシエが観測していたパリからは見えなかったため)。日本だと北海道は無理ですが、東北以南では見えるはず、なのですが、光害地では厳しいだろうとずっと敬遠していました。

が、前日に Twitter仙台から電子観望で見えたという投稿があり、それなら横浜からでも写るかも?と思って調べてみました。

ベランダからだと真南に建物があり、低空の天体は南中前には遮られてしまうのですが、その東側はかなり開けており、高度2.5度くらいからはクリアーです。SCW の予報では深夜は相模湾沖まで雲がない快晴。ならば今日撮れるか?Stellarium のシミュレーションだと0:40あたりから1:20くらいはチャンスがありそう。高度は2.5度から4.0度。実際に使えるフレームが撮れるのは20分間くらい?

以前なら諦めていた低空の撮影ですが、紫金山・アトラス彗星(C/2023 A3)とアトラス彗星(C/2024 G3)の撮影で、高度1度台までクリアーな天気は実際にあるし、そんな時は高度2度台でも7等星ぐらいは写る、ということを知ってしまったので、条件さえ揃えば写るはず、と思って撮影することにしました。

とはいえ低空がどこまで晴れるかは運次第で、せっかく機材を出しておいて何も撮れずに終わるのも辛いので、夜半から深夜まではしし座の銀河 M105 + M96 + M95 のスリーショット(NGC3384, 3389 を含めれば5ショット)を撮ることにしました。これについてはまた後日。

0:20 頃に銀河の撮影を終えてオメガ星団を導入。まだ遠くの家屋の陰に隠れて見えません。しかし近くの5.75等星はプレビューでもはっきり見えているので、シミュレーション画像を見ながら構図を合わせて待機。0:38ぐらいから屋根の上にぼんやりとその姿が見えてきました。高度は3度弱。

ω星団の出 (2025/2/25 0:39)
ω星団の出 (2025/2/25 0:39)
高橋 FSQ-85EDP (D85mm f450mm F5.3), フラットナー1.01× (合成F5.4) / ZWO IR-Cut Filter 48mm / Vixen SX2 / ZWO ASI294MC Pro (Gain 354, -10℃), SharpCap 4.1.11817.0 / 露出 2秒 / PixInsight 1.8.9-2, Lightroom Classic で画像処理

この低空で2秒露出でもわかる存在感。家屋の屋根が写野の外に出た0:50頃から撮影開始。南側の建物の通路の照明からの迷光がプレビューでもわかるくらい目立ってき1:20頃に撮影を終了しました。

この後せっかくなのでとケンタウルス座A(NGC5128)も撮ろうとしたのですが、既に建物の照明の射程内に入ってしまっていてまともに撮れませんでした。でも丸い銀河の前に暗黒帯が横切る様子は写っていたので次の機会に狙ってみたいです。

撤収後 PixInsight の Blink で写りを確認し、低空のカブリがひどいフレームと照明の迷光のカブリが認められるフレームを除外すると総露出時間は約20分になりました。結果がこちら。

NGC5139 ω星団 (2025/2/25 0:52)
NGC5139 ω星団 (2025/2/25 0:52)
高橋 FSQ-85EDP (D85mm f450mm F5.3), フラットナー1.01× (合成F5.4) / ZWO IR-Cut Filter 48mm / Vixen SX2, D30mm f130mm ガイド鏡 + QHY5L-IIM + PHD2 2.6.13 による自動ガイド / ZWO ASI294MC Pro (Gain 150, -10℃), SharpCap 4.1.11817.0 / 露出 30秒 x 39コマ, 総露出時間 19分30秒 / PixInsight 1.8.9-2, Lightroom Classic で画像処理

結構ブレてますし、大気色分散で星像も色ズレしていますが、その大きさ、球状星団らしい姿は見て取れます。周辺のカブリが取り切れなくてクロップしてごまかしたので1.5倍くらいに拡大した構図になってますが…

ブレているのはオートガイドがほとんど機能しなかったからです。ガイドカメラの写野に地上の灯りが入っておりコントラストが低下してガイド星が一つしか選べず、それすらしょっちゅう見失う有様でした。オフアキ使った方がよかったのかも?

しかしデカいですね。M22 もデカかったですが、それより一回り以上デカい感じです。

球状星団は微恒星の写りでだいぶ大きさが違って見えるのですが、 Stellarium のデータではω星団の大きさは M22 の1.7倍だそうです。

まあ、球状星団の中のかなり明るい星しか写っていない写真を見てどれだけデカいとか言ってもしょうがないですね。デカさを堪能したい方は k (id:mayururii)さんがリモート撮影でオーストラリアから撮った写真を見てください。迫力が違います!

というわけで写りはビミョーですが、遠征しないと撮れない、多分一生見ることもない、と今まで思っていたω星団を撮れて満足しました。

近況

アトラス彗星(C/2024 G3)で燃え尽きてここ一ヶ月ほどコレになってました。。。

ウテナ「北斗七星… そういえば、今日は星の話、しませんね。」
鳳暁生「…本当のことを言おうか。実は星なんか、全然興味ないんだ。」
少女革命ウテナ』第37話

アトラス彗星も南半球ではすごい姿が見えていましたが最後は燃え尽きちゃいましたね。近日点を無事通過とか言ってましたが決して無事ではなかった…

実は1月17日もアトラス彗星を撮っていたのですが、さすがに昼の空ではだいぶ見えにくくなっていて、日没後は空が暗くなる前に低空の雲に邪魔されて残念な写りにしかなりませんでした。その後夜になってから木星と火星を撮っていたのですが、なにぶん冬のシーイングではイマイチで仮処理だけしてほったらかしでした。まあこのへんは気が向いた時にアップしようと思います。あと WinJUPOS 12.3.12 のレビューも書かなきゃ…

夕空のアトラス彗星 (C/2024 G3) (2025/1/14, 2025/1/15)

1月14日と1月15日、前回の経験と反省を活かして(?)真昼のアトラス彗星(C/2024 G3)の撮影に再チャレンジしました。平日ですがリモートワークなのをいいことに部屋のモニターに彗星を映したまま仕事して時折撮影していました。正直あんまり仕事になってなかったような…

SOHO 画像ではアトラス彗星は無事近日点を通過して、崩壊・消滅したアイソン彗星の二の舞にはならず、13日より明るく、尾の向きも変わった姿が見えました。

軸外収束光の対策

前回はよく考えずに危険な撮影をしていたことに後で気付いて反省文を書くはめになりました…

今回は前回の反省を踏まえて今回は軸外に収束する太陽光への対策を施しました。太陽からの離角は前回より少し大きくなっているため、たぶん何もしなくても大丈夫だろうとも思いましたが、より安全に撮影できるようにできることはやっておこうと。



前回大丈夫だったのはおそらく内径43mmの眼視アダプター(CCA-250)の端面が遮光環の役割を果たしたためだと思われます。しかし、完全には遮れてない可能性がありますし、アダプター内面のつや消し塗装へのダメージも心配です。

そこでます、眼視アダプターの端面は対物レンズの焦点面から56mm離れた位置にありますが、これをもっと焦点から離して収束する太陽光のエネルギー密度を離します。さらに、より内径の小さいリングで遮光することで、焦点面に近いパーツに太陽光が当たらないようにします。

ということで、本来ドローチューブと CA-35(TSA-102) の間に入れる延長筒(フィルターボックス補助リング(TSA-102))を抜いて、接眼側に延長用のリングを取り付けて光路長を稼ぎ、CA-35(TSA-102) の内側に ZWO 1.25インチフィルターアダプターを遮光環として取り付けました。

遮光環入りアダプター組立後
遮光環入りアダプター組立後

対物側から見たアダプター
対物側から見たアダプター

遮光環
遮光環

遮光環を取り外したところ
遮光環を取り外したところ

遮光環を取り付けるリングを取り外したところ
遮光環を取り付けるリングを取り外したところ

遮光環入りアダプター分解後
遮光環入りアダプター分解後

かなりややこしい構成になっています。パーツ構成は接眼側から順に、

  • AstroStreet 1.25" - To 2" Adapter
    • 接眼側: 1.25" スリーブメス
    • 対物側: 2" スリーブオス
  • ビクセン 42T→50.8AD
    • 接眼側: 2" スリーブメス
    • 対物側: M42 メス
  • 笠井トレーディング CNC2インチLP直焦点アダプター
    • 接眼側: M42 オス
    • 対物側:
      • 外側: 2" スリーブオス
      • 内側: M48 メス → ①
  • タカハシ接続リング M54-M48
    • 接眼側: ① M48 オス
    • 対物側:
      • 外側: M54 オス → ②
      • 内側: M48 メス → ③
  • タカハシ CA-35 (TSA-102)
    • 接眼側: ② → M54 メス
    • 対物側: M72 → ドローチューブ
  • ZWO M48-M42変換リング
    • 外側: ③ → M48 オス
    • 内側: M42 メス → ④
  • ZWO M42M-M42F-21Lリング
    • 接眼側: ④ → M48 オス
    • 対物側: M42 メス ← ⑤ / ← ⑥
  • ZWO T2-1.25" フィルターアダプター
    • 外側: ⑤ ← M42 オス
    • 内側: M28.5 メス
  • ZWO T2-T2 アダプター
    • 接眼側: ⑥ ← M42 オス
    • 対物側: M42 オス

「タカハシ接続リング M54-M48」の対物側 M54 部分の内側が M48 メスになっていることを利用して、ここに変換リングを噛ました M42 の延長筒を取り付けて、この延長筒の内側に遮光環として「ZWO T2-1.25" フィルターアダプター」を取り付ける、というのがキモです。

延長筒と CA-35 の隙間から CA-35 の内面に太陽光が当たるのを避けるのと、1.25" フィルターアダプターの取り付けにかなりガタがあるので自然に脱落しないように、「ZWO T2-T2 アダプター」を重ねてねじ込んでいます。「ZWO T2-T2 アダプター」の外径は CA-35 の接眼側の内径より大きいので他を組み上げた後に最後に取り付けます。

これで遮光環は焦点面から約13cm離れることになります。前回の眼視アダプターは56mmだったので、収束光の直径は前回の倍以上、面積は4倍以上になり、エネルギー密度は1/4以下になります。計算すると前回64倍だったエネルギー密度は、今回は12.5倍まで下がります。これならだいぶマシではないでしょうか。

1.25" フィルターアダプターの内径が小さいためケラレが発生しないかと思いましたが、焦点面からの距離130mmをF値で割ると24.5mmで、光軸付近ではケラレはありません。

とはいえ、割とギリギリなので周辺減光が気になりますが、1/3インチクラスのセンサーなら大丈夫だろうと割り切りました。後で計算すると写野周辺の25%くらいはケラレが発生していたようですが、ASI290MM/MC で実際撮ってみた感じではあまり気になりませんでした。

1月14日の撮影

14日の昼には13日の昼よりも明るくなった姿が見えました。

【注意!】 太陽に近い天体の観察・撮影は大変危険です。些細なミスや不注意が失明や火災などの重大な事故機材の損傷につながる危険性があります。未経験の方は専門家の指導の元で観察・撮影してください。

アトラス彗星 (C/2024 G3) (2025/1/14 12:48)
アトラス彗星 (C/2024 G3) (2025/1/14 12:48)
高橋 FSQ-85EDP (D85mm f450mm F5.3 屈折), ZWO IR-Cut Filter / Vixen SX2 / ZWO ASI290MM (Gain 0), SharpCap 4.1.11817.0, 露出 0.25ms x 1000/2000コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 4.0.11, Lightroom Classic で画像処理

アトラス彗星 (C/2024 G3) (2025/1/14 12:48) (白黒反転)
アトラス彗星 (C/2024 G3) (2025/1/14 12:48) (白黒反転)

構図は前回同様、上が北です。西に傾いて伸びていた尾の向きが変わって東に傾いていました。13日に近日点を通過して太陽との位置関係が逆になったためです。

アトラス彗星(C/2024 G3)の軌道(Stellariumによるシミュレーション)
アトラス彗星(C/2024 G3)の軌道(Stellariumによるシミュレーション)

あと、微妙に尾が上に反り返っているような… 尾をたなびかせながら太陽の周りをグルッと回るので彗星の進行方向と逆方向に尾が曲がるのが SOHO 衛星のコロナグラフ(LASCO C3)画像でも見られますが、そういうことでしょうか?

また、尾の中心部にコマから鋭く尖ったトゲのように伸びた明るい細い尾見えます。太く薄い尾と違って反り返っていないのでイオンテイルでしょうか?

動画も貼っておきます。撮影動画からクロップした等倍速の動画です。

アトラス彗星 (C/2024 G3) (2025/1/14 16:33)
アトラス彗星 (C/2024 G3) (2025/1/14 16:33)

日没後にカラーカメラ(ASI290MC)でも撮りました。ちょうど飛行機雲の近くを通っていました。

アトラス彗星 (C/2024 G3) (2025/1/14 16:59)
アトラス彗星 (C/2024 G3) (2025/1/14 16:59)

昼でも見える明るさとはいえ夕空の飛行機雲の明るさにはかないません。一般人が飛行機雲を彗星と誤認するのもやむなしでしょうか。

双眼鏡でも探してみましたが、この日は見つけられませんでした。

1月15日の撮影

14日から15日にかけて、LASCO C3 の画像では写野から出るのを目前にしたアトラス彗星はは、巨大な尾が何本にも分かれる姿が見られ「九尾の狐」などと呼ばれていました。SOHO の公式サイトに貼られた画像は白飛びしていますが、未処理のFITS画像も公開されていて、Bluem さんがそれをディテールがよく見えるように処理して公開していました。

まあそこまでは見れないだろうとは思いつつもちょっとは期待して撮影しました。今回はカラーカメラをメインにしました。

アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/15 12:50)
アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/15 12:50)

青空の中を飛ぶ彗星の姿も風情があっていいですね。尾は東向きにほとんど横になって伸びています。

そして日没後…

アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/15 17:08)
アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/15 17:08)

来ました!明るい!尾が長い!「九尾の狐」は無理でしたが、それでもここまで見えると嬉しいです。

これなら双眼鏡でも見えるかと探してみたところ、見えました!夕空がまだ明るく気をつけないと見失いますが、尾の伸びた姿ははっきり見えました。残念ながら肉眼では識別できませんでした。

スタックするとこうです。背景の明るさが激しく変化する動画でスタック枚数を増やすとうまくアライメントされなかったので、3000フレーム撮りましたが1000フレームに制限してスタックしました。

アトラス彗星 (C/2024 G3) (2025/1/15 17:08)
アトラス彗星 (C/2024 G3) (2025/1/15 17:08)
高橋 FSQ-85EDP (D85mm f450mm F5.3 屈折), ZWO IR-Cut Filter / Vixen SX2 / ZWO ASI290MC (Gain AUTO), SharpCap 4.1.11817.0, 露出 24.5ms x 500/1000コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 4.0.11, Lightroom Classic で画像処理

尾が長いと言ってもフルサイズ換算で約3000mmの画角なのでたいしたことないだろうと思うかもしれませんが… 同じ光学系でセンサーサイズと解像度が同じカメラ(ASI290MM)で撮った太陽がこれです。

【注意!】 太陽の観察・撮影には専用の機材が必要です。専用の機材があっても些細なミスや不注意が失明や火災などの重大な事故につながる危険性があります。未経験の方は専門家の指導の元で観察・撮影してください。

太陽 (2025/1/15 10:31)
太陽 (2025/1/15 10:31)
高橋 FSQ-85EDP (D85mm f450mm F5.3 屈折), バーダープラネタリウム アストロソーラーフィルターフィルム, ZWO IR-Cut Filter / Vixen SX2 / ZWO ASI290MM (Gain 128), SharpCap 4.1.11817.0, 露出 0.125ms x 1000/2000コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 4.0.11, RegiStax 6.1.0.8, Lightroom Classic で画像処理

そしてこの日のアトラス彗星は太陽とほとんど同じ距離に位置しています。地球からアトラス彗星までは 0.954 AU (1億4275万km)、太陽までは 0.984 AU (1億4715万km)。3% くらいしか差がありません。

撮影したアトラス彗星を3%縮小して太陽に重ねてみたのがこちらです。

アトラス彗星(C/2024 G3)と太陽の大きさの比較 (2025/1/15)
アトラス彗星(C/2024 G3)と太陽の大きさの比較 (2025/1/15)

アトラス彗星の尾のうち夕空に負けない明るさの部分だけでも太陽の直径(地球109個分!)の半分以上の長さがあります。

ちなみに LASCO C3 の画像の中央の白い円は太陽(光球)のサイズなので、アトラス彗星の尾は大気に邪魔されなければ見える淡いところまで含めると、太陽の直径の何十倍もの長さに伸びていることになります。

さて、双眼鏡でも見えたのでデジタル一眼でも撮ってみました。換算200mmのレンズではだいぶクロップしないとよく見えない写りでしたが…

夕空のアトラス彗星 (2025/1/15)
夕空のアトラス彗星 (2025/1/15)
OLYMPUS ZUIKO DIGITAL ED 35-100mm F2.0 (100mm, F4) / 手持ち撮影 / OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II (ISO200, RAW) / 露出 1/40秒 / Lightroom Classic で画像処理

フルサイズ換算で約500mmの画角にクロップしています。手前のアンテナがなければなかなかエモい写真になったのですが… ともあれ、双眼鏡で見た時の印象に近い写りです。

最後にアトラス彗星が山の向こうに沈む「アトラス彗星の入り」の動画です。

アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/15 17:23)
アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/15 17:23)

入りの開始から尾が完全に見えなくなるまで1分近くかかりました。

ということで…

上に貼った Stellarium のシミュレーション動画からもわかる通り、アトラス彗星はこの先地球から離れていく一方です。太陽からも離れて明るさも急速に落ちていくものと思われます。太陽との離角は大きくなるのですが、日本からだと日没後の地平高度はほとんど上がらず観測条件的には今日がピークだったのではないでしょうか。

横浜は明日は昼は天気が悪く、夕方はワンチャンあるかなといった感じですが、そのへんでラストでしょうか。名残惜しいですがサングレイザーのパワーを堪能できて満足です。ある意味アイソン彗星(C/2012 S1)のリベンジですね。地球に近付かない軌道とタイミングだったのは残念でしたが…

【危険!】真昼のアトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/13)

1月13日の昼、近日点通過を目前にしたアトラス彗星(C/2024 G3)を撮影しました。この日のアトラス彗星は太陽に極めて近いため撮影には危険が伴います。

反省文

結果から言うと撮影は成功しましたが、事前の危険性の検討が不十分で危うく機材を損傷するところでした。というか、事前に検討していればこの撮影が安全に行える保証がないことに気付いて撮影を断念していたと思いますし、そうするべきだったと思います。まずこの点について説明します。

事前に計画した撮影方法は以下のようなものでした。

  1. 赤道儀を「極軸を合わせていない赤道儀」に設定する
  2. 太陽撮影用フィルターを対物レンズに付ける
  3. 太陽を自動導入しアライメントを取る
  4. 太陽でピントを合わせてテスト撮影
  5. 水星を自動導入する
  6. 太陽撮影用フィルターを外す
  7. 巻き付けフードを取り付ける
  8. 水星でアライメントを取る
  9. 座標値を使ってアトラス彗星を導入する

実際、概ねこの手順で撮影できたのですが、上の手順に抜けがあることがわかりますでしょうか?わからないのであれば今回のような撮影は避けるべきだと思います。

抜けというのは、軸外に収束した太陽光がカメラ本体や鏡筒の内面を加熱あるいは焼損してしまう可能性を検討して対策していないところです。

収束した太陽光が機材のどこに当たるか、その位置で太陽光がどのくらいの面積に収束するか、そしてそのエネルギーで機材が焼損する可能性があるのか、これを事前に計算したり実験したりして、安全性を検証しておくべきでした。

撮影は FSQ-85EDP と ASI290MM で行いました。事前に Stellarium のシミュレーションで太陽がカメラの写野のはるか外にあることは確認しており、長めの巻き付けフードでフードを延長することで斜めからの太陽光によるハレーションを抑制できるだろうと思っていました。

しかし、後で確認すると13日の太陽とアトラス彗星の離角は正午で5.17度、14:00で5.08度。FSQ-85EDP のイメージサークルは0.73倍のレデューサー装着時もフルサイズセンサーをカバーするので、直径8.2度程度の写野にある対象は絞り環やフードに邪魔されないはずです。

彗星を正確に導入していれば太陽はイメージサークル外ではあるものの、遮光環やフードはあまり仕事をしておらず、後で接眼側から鏡筒を覗いてみると光軸から3cm程度離れた位置からでも対物レンズは半分以上見えていました。なのでカメラの取り付け方法によってはカメラセンサー周辺や接眼部のパーツが収束した太陽光に炙られる可能性がありました。

今回は接眼アダプターの端が最終段の遮光環の役目を果たしていたようです。これは焦点から56mm離れた位置にあり、対物レンズから入った光は直径約10mmの円に収束し、対物レンズとの面積比では約1/64に収束します。

太陽光のエネルギー密度は大気圏外では1平方メートルあたり1.4kWあり、地上からだと1.0kW/m^2が目安になるそうです。*1 1.0kW/m^2 で計算すると、これが接眼アダプターの端では面積比で64倍に圧縮されるので 64kW/m^2 の、エネルギー密度になります。

収れん火災の事例を検索すると、太陽光を 175kW/m^2 のエネルギー密度で1.81秒照射するとポリプロピレンのシートが溶融して、日が傾いて113kW/m^2 になったところで溶融が止まっていたという事例がありました。*2

エネルギー密度的にはセーフのように見えますが、上の事例は水レンズが固定されていて太陽の動きに合わせて焦点位置が移動しているから溶融が止まったわけです。今回は赤道儀で1時間以上連続で追尾していたので 64kW/m^2 では全然余裕がないのでは?

実際には鏡筒内やカメラに焼損の痕跡は確認されなかったのですが、接眼アダプターはアルミニウム製で放熱性が高いため大丈夫だったのでしょうか?

ともあれ、事前に大丈夫かどうかは確認していなかったし、些細な導入ミスで軸外の太陽光がもっと焦点に近い位置で収束してしまう可能性についても考えていませんでした。たまたま事故にはなりませんでしたが、本来なら事前の実験で安全性を確認する必要があり、実験や対策が間に合わないのなら撮影すべきではありませんでした。

なので、以下は本来なら撮られるべきではなかった写真です。そんな写真は公開すべきではないのかもしれませんが、おそらく写真がなければ誰にも読まれず、ヒヤリハット事例としても活用されないのではないかと思い、敢えて掲載することにしました。

撮影

撮影は10:00頃から始めました。まずは太陽用フィルターを付けて太陽を導入して赤道儀のアライメントと鏡筒のピント合わせを行いました。ついでに撮影したのがこちら。

【注意!】 太陽の観察・撮影には専用の機材が必要です。専用の機材があっても些細なミスや不注意が失明や火災などの重大な事故につながる危険性があります。未経験の方は専門家の指導の元で観察・撮影してください。

太陽 (2024/1/13 10:13)
太陽 (2024/1/13 10:13)
高橋 FSQ-85EDP (D85mm f450mm F5.3 屈折), バーダープラネタリウム アストロソーラーフィルターフィルム, ZWO UV/IR Cut Filter / Vixen SX2 / ZWO ASI290MM (Gain 128), SharpCap 4.1.11817.0, 露出 0.1ms x 500/1000コマをスタック処理 x 2 をモザイク合成 / AutoStakkert!3 4.0.11, RegiStax 6.1.0.8, Microsoft ICE 2.0.3.0, Lightroom Classic で画像処理

続いて水星を自動導入し、導入誤差を修正してアライメントを追加。そして SB-10 の赤経/赤緯の表示が Stellarium で調べたアトラス彗星の座標になるように手動導入。

迷光によるものなのか、単に太陽に近いからなのか、カブリがひどくて彗星の姿が見当たらず、ストレッチしてもダメだったので、IR-Cut フィルターではダメなのかもと思い、急遽 赤外線フィルター(ZWO IR850)に換装。

IR ピント位置がズレるかもと思って再度太陽撮影用フィルターを装着して太陽を導入。やはりピントがズレていたので再調整して再び座標で導入。でもやはり見えず。スタックして炙ったら見えるかも?と思って AutoStakkert! でスタックしようとしたのですが、AP を置く場所もなくしょうがないので Image Calibration の Create Master Frame で位置合わせなしのスタック画像を生成して、それを Photoshop でいじってみると画面の端の方に彗星の姿が!

アトラス彗星 (C/2024 G3) (IR) (2025/1/13 11:06)
アトラス彗星 (C/2024 G3) (IR) (2025/1/13 11:06)
高橋 FSQ-85EDP (D85mm f450mm F5.3 屈折), ZWO IR850 Filter / Vixen SX2 / ZWO ASI290MM (Gain 132), SharpCap 4.1.11817.0, 露出 0.5ms x 500/2000コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 4.0.11, Lightroom Classic で画像処理

改めて SharpCap のプレビューでストレッチして彗星の姿を確認し、画面中央に導入。とりあえず撮影してはみたものの、どうもショボい気が… 太陽でピント合わせした時に IR だと IR-Cut より太陽黒点コントラストが落ちてショボく見えたのを思い出して、IR-Cut に戻してみることにしました。

まず SB-10 の画面をスマホで撮って表示されている座標を控え、フィルターを交換して再度太陽を導入してピントを合わせ直して、控えた座標を使って彗星を再導入しました。すると IR-Cut の方が尾がよく見えるじゃないですか!ということで、これで行くことにしました。

結果

【注意!】 太陽に近い天体の観察・撮影は大変危険です。些細なミスや不注意が失明や火災などの重大な事故機材の損傷につながる危険性があります。未経験の方は専門家の指導の元で観察・撮影してください。

アトラス彗星 (C/2024 G3) (2025/1/13 13:44)
アトラス彗星 (C/2024 G3) (2025/1/13 13:44)
高橋 FSQ-85EDP (D85mm f450mm F5.3 屈折), ZWO IR-Cut Filter / Vixen SX2 / ZWO ASI290MM (Gain 0), SharpCap 4.1.11817.0, 露出 0.25ms x 500/2000コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 4.0.11, Lightroom Classic で画像処理

ピクセル等倍です。尾が2つに分かれているようにも見えるのですが、正直よくわかりません。核が分裂したという話が気になって2.5倍バローで拡大したものも撮影しました。

アトラス彗星 (C/2024 G3) (2025/1/13 12:44)
アトラス彗星 (C/2024 G3) (2025/1/13 12:44)
高橋 FSQ-85EDP (D85mm f450mm F5.3 屈折), 笠井FMC3枚玉2.5倍ショートバロー(合成F15.1), ZWO IR-Cut Filter / Vixen SX2 / ZWO ASI290MM (Gain 128), SharpCap 4.1.11817.0, 露出 0.34ms x 500/2000コマをスタック処理 / AutoStakkert!3 4.0.11, Lightroom Classic で画像処理

なんかコマがいびつな形をしているような… でも3カット撮ったものを比べても一貫してそういう形をしているとも言えないようで、よくわかりません。

ともあれ、F5.3, 1/4000秒で昼間に撮れる彗星というのも驚異的です。まあ、超キツいストレッチかけてこれだけ見えるということではあるんですが、撮っていてむっちゃアガりました。それだけに実は危険な状況だったことに気付いた時にはむっちゃヘコみました…

謎の降下物

最後に動画を。撮影した SER を SER Player でストレッチして出力したものです。再生速度は等倍速です。

アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/13 13:24)
アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/13 13:24)
高橋 FSQ-85EDP (D85mm f450mm F5.3 屈折), ZWO IR-Cut Filter / Vixen SX2 / ZWO ASI290MM (Gain 0), SharpCap 4.1.11817.0, 露出 0.25ms / SER Player 1.7.2, TMPGEnc Video Mastering Works 5 で画像処理。

ストレッチで背景がザラザラになった動画をネットに上げられるビットレートまで圧縮したので背景がモヤモヤしてますが、それはともかくとして、この上から降り注ぐモノは何なんでしょう?撮影開始からちらほら見えていたのですが、時間が経つにつれだんだん増えていってこんなふうになってしまいました。

最初は鳥とか虫とかかと思っていたのですが、鳥が光りますか?おかしいと思いませんか?あなた。実際明らかに鳥と思われるものも飛び込んではきたのですが、そういうのはシルエットとして見えますし形も動きも全然違います。一貫して上から下に落ちてくるということもありません。

大気中のチリやホコリの類かとも思ったのですが、それにしてはあまりに明るく形がはっきりしており、そして大きすぎるのです。ということは光学系の内部で発生している?ここで思ったのが軸外に収束した太陽光で鏡筒の内面の塗装が炙られている可能性です。

彗星を撮っていたつもりが、鏡筒内にダストテイルを発生させてしまった!?とはいえ、異臭や煙の発生があったわけではないし、あちこち触って確かめたわけではないのですが、触ると熱い部分も特になかったと思います。

15時前に雲も出てきたので撮影を終了して鏡筒の内側やカメラや接眼部のパーツをチェックしたのですが、特に炙られたような痕跡はありませんでした。接眼アダプターの裏に四ヶ所白い点があったのですが、拭き取ると綺麗に消えてしまって塗装に異常もなかったので、過去に汗か何かを垂らしてしまった跡のような気がします。

それに太陽は彗星の南にあり、太陽光で炙られるとしたらカメラより上の部分が炙られるはずです。カメラには倒立像が写っているので、炙られて出たダストは下から上に昇っていくように見えるはずです。しかし動画に映っているモノは逆に上から下に降ってきているのです。

というわけで結局コレが何なのかわからずじまいなのですが、コレのせいで AutoStakkert! のスタックがうまくいかなかった動画もあり(Analyse で Image Stabilization がデタラメになってしまう)なんとかしたいところです。まあ、こんな撮影そうそうやらないんですけども…

アトラス彗星(C/2024 G3) 3日目、4日目 (2025/1/10,11)

1月10日、11日もアトラス彗星を撮りました。10日はベランダから、11日はマンションの廊下の端から撮りました。

3日目 (2025/1/10)

1月10日はベランダからだと彗星の出てくる位置の近くに木と電柱と電線がありどうにも避けようがなく、かといってマンションの廊下の端(東の端)からだと南東に近い位置は死角に入りそうですし、いつもの公園からだと低空は全く見えません。

この狭い隙間に雲が来たら万事休すといったところですが、結局は地平線まで雲ひとつない快晴になり、6:10頃に木立の影から出てきたところから彗星の姿を確認できました。

アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/10 06:10:54-06:11:05)
アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/10 06:10:54-06:11:05)
William Optics RedCat 51 (D51mm f250mm F4.9 屈折), ZWO IR-Cut Filter 48mm / Sky-Watcher Star Adventurer GTi / ZWO ASI294MC Pro (Gain 0, -10℃), SharpCap 4.1.11817.0 / 露出 738ms〜641ms x 15 総露出時間 約10秒 / PixInsight 1.8.9-3, Lightroom Classic

アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/10 06:10:54-06:11:05) (拡大)
アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/10 06:10:54-06:11:05) (拡大)

アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/10 06:10:54-06:11:05) (拡大) (白黒反転)
アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/10 06:10:54-06:11:05) (拡大) (白黒反転)

彗星の高度は1.23度。コマは明るいですが尾はやはり短く狭い電線の隙間に収まっていました。

電線をまたいで次の隙間に見えたのが 6:13 頃。高度は1.65度。

アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/10 06:13:23-06:13:39)
アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/10 06:13:23-06:13:39)
露出 416ms x 39 総露出時間 16秒 / その他の撮影データは上に同じ。

アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/10 06:13:23-06:13:39) (拡大)
アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/10 06:13:23-06:13:39) (拡大)

アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/10 06:13:23-06:13:39) (拡大) (白黒反転)
アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/10 06:13:23-06:13:39) (拡大) (白黒反転)

こちらは6:10の写真よりも彗星の姿がシャープに写っています。超低空で星像が肥大していたのでしょうか。尾の見え方は変わってないようです。彗星が高度が上がって明るくなる一方で朝焼けも広がって背景が明るくなり、2つの要素が打ち消し合っているのでしょう。

次に彗星が見えたのは電柱と電柱上の機器の後ろを通り過ぎた約10分後でした。

アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/10 06:24:18-06:24:49)
アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/10 06:24:18-06:24:49)
露出 110ms〜99ms x 300 総露出時間 31秒 / その他の撮影データは上に同じ。

アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/10 06:24:18-06:24:49) (拡大)
アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/10 06:24:18-06:24:49) (拡大)

アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/10 06:24:18-06:24:49) (拡大) (白黒反転)
アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/10 06:24:18-06:24:49) (拡大) (白黒反転)

すっかり空が明るくなって、フレーム毎の露出時間は1/10秒。それでも尾はギリギリ見えています。とはいえここからはもう写りが良くなる見込みはないのですが、惰性でさらに10分ほど撮ってから撮影を終了。プレビューで彗星が薄明の空に溶け込むのを見送って6:45頃に撤収を開始しました。

4日目 (2025/1/11)

1月11日はお休みするつもりでした。ここまで3連チャンの上、11日は昼からアイドルイベントがあり、しかもアトラス彗星は前日よりさらに東寄りに出てくるため、写線*1 を障害物に邪魔されるベランダではなく外で撮らなくてはならないからです。

彗星は太陽にさらに近づき観測条件も悪いし… と思ったのですが、マイナス3等級まで行ってるかもとの誘惑には勝てず…

結局マンションの廊下の東の端に陣取りました。来ちゃった… って感じですが、赤の他人の部屋の前なんで怒られたらそこで終了です。緊張感が半端ない。

マンションの北側なので、いつものドリフトアライメントが使えず、ガイドカメラ付けてごちゃごちゃするのも避けたくてポーラードリフトアライメントもやりませんでした。画像処理は PixInsight の CometAlignment を使えばスタックできるし、極軸は少々いいかげんでも赤道儀で追尾すれば写野回転も十分小さかろうということで。*2

なのですが、おかげで彗星の出現位置の導入には苦労しました。コカブでアライメントを取って*3 座標で導入を試みたのですが、だいぶズレているようで、仕方なく人力プレートソルブしてみたもののどうしてもうまくいかない、と思ったら、見比べていた Stellarium がリアルタイム表示になってなくて全然違う時刻で止まっていたせいでした…

その後なんとか彗星出現位置を写野のセンターに入れて追尾を止めて待機の態勢が整いました。ここまで1時間くらい寒い中で立ちっぱなしだったので部屋に戻って手足を温めてから使い捨てカイロを2つ持ってきて待機。

この場所からだと電柱に邪魔されず、遠方の鉄塔と手前の木はありますが、高度1.6度くらいから障害物が一切ありません。そしてこの日も地平線まで雲一つない快晴。

6:14頃、既に朝焼けはだいぶ広がっていましたが、鉄塔の隙間越しにアトラス彗星が見え始めました。高度は1.25度。鉄塔とその電線を通り過ぎて6:16頃からオールクリアー。

アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/11 06:16:45)
アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/11 06:16:45)
William Optics RedCat 51 (D51mm f250mm F4.9 屈折), ZWO IR-Cut Filter 48mm / Sky-Watcher Star Adventurer GTi / ZWO ASI294MC Pro (Gain 0, -10℃), SharpCap 4.1.12946.0 / 露出 312ms / PixInsight 1.8.9-3, Lightroom Classic

アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/11 06:16:45) (拡大)
アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/11 06:16:45) (拡大)

アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/11 06:16:45) (拡大) (白黒反転)
アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/11 06:16:45) (拡大) (白黒反転)

この日の分の写真は複数のフレームをスタックせずに単フレームで処理しています。

最初 CometAlignment + ImageIntegration でスタックした写真も作ったのですが、鉄塔のシルエットがクッキリしているだけに全体的に手ブレしたみたいな写真になってしまって、彗星もブレて見えてしまって…

そこで新星景みたいに止まっている地上風景を合成して仕上げようかと思って CometAlignment の reference frame を処理していたら、それだけで彗星がちゃんと見えるし、なんならスタックしたものよりクッキリ写っていたのでし、もうスタックはやめて単フレームだけで処理することにしました。これだけ背景が明るいとノイズも全然許容範囲です。

スタックするとシンチレーションによるブレでぼやけるというのもあるんでしょうね。Blink で動画で見ると遠くの鉄塔もシンチレーションでゆらゆら動いているし、彗星も瞬いていたので、なるべくクッキリ見えるフレームを選んで処理しました。

ちなみに全体にもやもやしたノイズがありますが(特に白黒反転して強調したもの)、これは背景光のショットノイズではなく、構図を変えても同じパターンで動かない固定のノイズでスタックしても消えません。*4 センサーのノイズにしては空間周波数が低すぎるのでフィルターか保護ガラスのムラかと思うのですが未検証です。

撮影中に朝焼け空の明るさはどんどん変化していくので、露出をリアルタイムに調整しながら撮っていてなかなかPCから目が離せなかったのですが、せっかく外に出て撮影しているので、隙きを見て双眼鏡で鉄塔の方向を見てみると、彗星の姿が見えました!

いかにもな彗星、というよりは、朝焼け空に付けた白っぽい引っかき傷、的な見え方でした。上の写真は眼視よりはクッキリしていますが、色調などは眼視のイメージに寄せて処理しているので、この写真を薄目で見たらだいたい双眼鏡で見た時の印象に近いです。

その1分後の6:17の写真。

アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/11 06:17:23)
アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/11 06:17:23)
露出 271ms / その他の撮影データは上に同じ。

アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/11 06:17:23) (拡大)
アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/11 06:17:23) (拡大)

アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/11 06:17:23) (拡大) (白黒反転)
アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/11 06:17:23) (拡大) (白黒反転)

さらに2分後の6:19の写真。

アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/11 06:19:12)
アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/11 06:19:12)
露出 192ms / その他の撮影データは上に同じ。

アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/11 06:19:12) (拡大)
アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/11 06:19:12) (拡大)

アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/11 06:19:12) (拡大) (白黒反転)
アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/11 06:19:12) (拡大) (白黒反転)

空はだいぶ明るくなっていましたが、色合いのせいか、これが一番よく写っています。彗星はこのくらいまでは双眼鏡でも見えていましたが、その後は薄明に紛れて見失ってしまいました。

確認できる尾の長さはやはり画像上で 200 pixel 前後、視角としては 12' 前後でしょうか。もっとノイズの少ないカメラや長焦点の望遠鏡で撮ればもう少し淡いところまで確認できたかもしれません。

その後10分ぐらい惰性で撮り続けて、その後6:40頃までプレビューで彗星を眺めながら時々記念写真的に撮影していました。最後は 1/60s の露出でしたがストレッチするとまだ尾が出ているのがわかる程度に見えていました。名残惜しかったですが、他人の部屋の前ですし、いいかげん住人が起きてくるかもしれないので、撤収しました。

ということで…

そして今日、1月12日の朝は曇りということで撮影はお休み。4連チャンの後なのでむしろホッとしてしまいました。前日は夜までイベントでしたし、深夜には見逃せない番組があり、翌朝もまた見逃せない番組があって、その間に撮影を入れるのは無茶でしたので…

その後のアトラス彗星は、SOHO 衛星の LASCO/C3 コロナグラフの撮影画像に出現とか、天文台の観測で核が分裂していたとか話題に事欠きませんが、明日以降観測条件は非常に厳しくなる模様。とはいえ、昼間でも望遠鏡なら確認できるとか赤外フィルターを使えば結構写るとかいう話もありますので、天候と体調が許せばなるべくチャレンジしてみようと思います。

*1:「写線」という言葉はないのですが射撃における「射線」と同様の意味だと思ってください。

*2:極軸望遠鏡も覗いてみたのですが、首がキツいし廊下の照明が明るくてよく見えなかったので諦めました。

*3:1スターアライメントではコカブが選べなかったので自動導入の方で選んでセンターに合わせて決定ボタンを押したのですが、これでアライメント取れてたんですかね?

*4:正確には ComentAlignment で追尾誤差やシンチレーションによるブレで重ね合わせる位置がズレるのでディザリング的な仕組みで若干ノイズは減ります。

アトラス彗星(C/2024 G3) 2日目 (2025/1/9)

1月9日未明に再びアトラス彗星を撮影しました。前日より彗星の位置が東に寄ったため電柱に隠れそうで心配でしたが、ギリギリ大丈夫でした。

前日の結果はこちら。

今回は位置的には条件が悪く、光度的には条件が良いかもしれないという微妙な感じですがとにかく撮ってみました。

アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/9 06:12:44-06:13:04)
アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/9 06:12:44-06:13:04)
William Optics RedCat 51 (D51mm f250mm F4.9 屈折), ZWO IR-Cut Filter 48mm / Sky-Watcher Star Adventurer GTi / ZWO ASI294MC Pro (Gain 0, -10℃), SharpCap 4.1.11817.0 / 露出 1s x 18 / PixInsight 1.8.9-3, Lightroom Classic

アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/9 06:12:44-06:13:04) (白黒反転)
アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/9 06:12:44-06:13:04) (白黒反転)
撮影データは上に同じ。

前日よりも尾がはっきり写りました。見えている尾の長さ自体は測ってみるとあまり変わらないようです。プレビューでは朝焼けに埋もれてやはり尾はほとんど見えませんでした。

この薄明下では比較できる星が一つも見えないのですが、どうやら0等級を超えてマイナス等級になっているそうです。空の明さに埋もれがちなので水星に匹敵するほどの明るさと言われてもピンと来ないのですが…

明日は位置的にはさらに条件が悪いのですが、光度は1等以上明るくなる可能性があります。電柱の問題もあるので撮れるかどうかわかりませんが、一応頑張ってみようと思います。

アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/8)

1月8日未明に自宅からアトラス彗星を撮影しました。大彗星になるかもと期待されつつも、太陽からの離角が小さく、しかも北半球では高度が低くて観測条件が悪いという、落ち着かない状況ですが、日本からだと1月8日から1月10日あたりがラストチャンス。

Twitter では1月7日未明にギリギリ写ったとの報告もあり、横浜は深夜から快晴との予報だったので、早寝して夜中に起きてベランダで撮影準備を始めました。深夜1時過ぎから始めたのですが、結構雲が広がっていました。朝方までには晴れ上がることを祈りつつ準備を勧めます。

尾はそれほど伸びてないだろうし、薄明下では淡い尾は写らないだろうと思って、撮影機材には RedCat 51 と Star Adventurer GTi と ASI294MC Pro を選択。外が寒すぎるので室内からPCとスマホでコントロールできるようにしました。

極めて低い高度が勝負どころになるので、地上の建物や電柱の位置が問題になります。彗星が出てくる方位を確認して、iPhone の方位磁石が指す方向に障害物がない位置に機材を設置したのですが、極軸を合わせてアライメントを取って赤緯を彗星の出の時刻の彗星の座標に合わせて地上が見えるところまで極軸を回していくと、近くの電柱が邪魔になることが判明。

電柱は回避したつもりだったのですが、磁石の方位の誤差から読み違えてしまいました。危険ですが、機材をバラさずに丸ごと平行移動して電柱が写野外になるようにしました。電線はどうしても入ってしまうのですが、三脚の脚を伸ばすぐらいでは調整しきれそうになかったのでこれは諦めました。

結局準備が整ったのは3時過ぎ。高度2度付近の彗星の通り道を写野のセンターに入れて追尾を切って彗星を待ちます。この頃までには低空まで雲ひとつない快晴になり、プレビューでは高度1.5度付近の7等星まで見えていました。

5:40に水星が写野に入ってきたので試し撮り。既に薄明の空がどんどん明るくなっていて、Rチャンネルの露出が飛ばないようにゲインを下げていくと結局ゲイン0でも露出オーバーに。露光時間を変化させていかなくてはならなくなりました。露光時間を一定にしてタイムラプス動画を作るつもりでしたが、諦めました。

水星が通り過ぎ、彗星が写野に入る(ただし地上の木立に隠れて見えない)6:04に撮影開始。6:10あたりから追尾を開始。

6:07あたりでプレビューに彗星の存在を確認しましたが、背景が明るすぎるというか赤すぎて尾が出ているかどうかもよくわかりませんでした。背景が飛ばないように露光時間を調整しながら連続撮影しましたが、朝焼けが強すぎて露光時間が155msになり、彗星の姿がほとんど見えなくなったところで撮影を終了しました。

というわけで結果です。尾が見えてきたのはこのあたりから。

アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/8 6:12)
アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/8 6:12)
William Optics RedCat 51 (D51mm f250mm F4.9 屈折), ZWO IR-Cut Filter 48mm / Sky-Watcher Star Adventurer GTi / ZWO ASI294MC Pro (Gain 0, -10℃), SharpCap 4.1.11817.0 / 露出 890ms / PixInsight 1.8.9-3, Lightroom Classic

アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/8 6:12)(白黒反転)
アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/8 6:12)(白黒反転)
撮影データは上に同じ。

1枚撮りで処理したものです。半分くらいのサイズにクロップしたのでフルサイズ換算で950mmくらいの画角です。

カラーバランスは、とにかく彗星がよく見えるように調整しました。どうするのが正しいのかさっぱりわからないし、プレビューでも PI のオートストレッチでも朝焼けで空が真っ赤でしたが、それだと彗星の形がよく見えなかったので。リアルタイムで露出時間調整するためにPCのモニターに張り付いていたので、眼視ではどんな色だったのかはわかりません…

尾が出ているのははっきりわかりますが、背景が明るすぎてどこまで伸びているのかよくわかりません。

刻一刻と背景が明るくなっていくのでスタックしてもあまり意味がなさそうでしたが、一応スタックしてみました。

アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/8 06:13:18-06:13:39)
アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/8 06:13:18-06:13:39)
露出 673ms x 32 総露出時間 21秒 / その他の撮影データは上に同じ。

アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/8 06:13:18-06:13:39)(白黒反転)
アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/8 06:13:18-06:13:39)(白黒反転)
撮影データは上に同じ。

薄明のグラデーションの傾斜がキツくなってきたので Lightroom Classic で線形グラデーションフィルターをかけてレベル補正しています。最初の一枚撮りよりは尾が長く伸びている気がしますが、気のせいかも…

アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/8 06:13:43-06:13:55)
アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/8 06:13:43-06:13:55)
露出 597ms〜613ms x 19 総露出時間 12秒 / その他の撮影データは上に同じ。

アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/8 06:13:43-06:13:55)(白黒反転)
アトラス彗星(C/2024 G3) (2025/1/8 06:13:43-06:13:55)(白黒反転)
撮影データは上に同じ。

やはり尾が伸びているような… 画像上では 200 pixel くらいまで伸びてるように見えます。RedCat 51 と ASI294MC Pro の組み合わせだとピクセルサイズあたりの画角は 3.8028" なので、尾の長さは 200 pixel = 760.56" = 12.676' = 0.211° といったところでしょうか。条件がよければこの何倍かの長さの尾が見えそうですが…

ということで、一応撮れました。明日は太陽との離角がさらに縮まるので条件はさらに悪くなるのですが、明るさは1等近く明るくなるかもしれないので悩ましいところ。可能ならチャレンジしてみようと思います…