【前編】『楽園追放』プロデューサー野口光一氏インタビュー
「40代で負けたら2度目はない」――『楽園追放』は勝つためのフィルム
2015年02月07日 15時00分更新
<後編はこちら>
オリジナル、SF、そして全編オール3DCG――。企画立ち上げ当時の映像業界では「当たらない」と言われた3要素をすべて兼ね備えていた劇場アニメ『楽園追放 -Expelled from Paradise-』。しかし蓋を開けてみれば、公開同日発売の数量限定BDが初週で完売、わずか13館での上映にもかかわらず興行収入は約2ヵ月で1億8000万円を超えるヒット作となった。
まさに三重苦からの大逆転劇を仕掛けたのは、今作が初プロデュース作品となる野口光一氏(東映アニメーション)。元々、VFXの専門家として名の知られていた野口氏だが、突如会社からプロデューサーへの転身を求められ、徒手空拳で未知の役職に挑んでの第1作だった。
自らの内側にある壁を壊すことで成長してきたクリエイターが、初めて自分の外にある壁――社会を乗り越える必要に迫られたとき、“負けが許されない40代の新米プロデューサー”はいったい何を考え、行動したのか? 前後編のロングインタビュー。
プロフィール:プロデューサー 野口光一氏
1965年生まれ。岐阜県出身。東映アニメーション 企画営業本部 映像企画部次長 兼 映像企画室プロデューサー。
CGスタジオの草分けと言えるリンクスで腕を磨き1995年に渡米、映画のVFX制作に従事。帰国後はポリゴン・ピクチュアズなどを経て、東映アニメーションに所属しながら映画・ドラマのVFXスーパーバイザーとして活躍。『楽園追放』は初プロデュース作品。主な担当作品に『イノセンス』『ゴジラ FINAL WARS』『男たちの大和/YAMATO』『坂の上の雲』『キャプテンハーロック SPACE PIRATE CAPTAIN HARLOCK』『楽園追放 -Expelled from Paradise-』等。
現在、AREA JAPANにて業界人へのインタビュー企画「3DCGの夜明け~日本のフルCGアニメの未来を探る~」を連載中(AREA JAPAN/東映アニメーション)。
『楽園追放 -Expelled from Paradise-』ストーリー
ナノハザードにより廃墟と化した地球。人類の多くは地上を捨て、データとなって電脳世界ディーヴァで暮らすようになっていた。
西暦2400年、そのディーヴァが異変に晒されていた。地上世界からの謎のハッキング。ハッキングの主は、フロンティアセッターと名乗った。
ハッキングの狙いは何か。ディーヴァの捜査官アンジェラは、生身の体・マテリアルボディを身にまとい、地上世界へと降り立つ。地上調査員ディンゴと接触しようとするアンジェラを待ち受けていたのは、地上を跋扈するモンスター・サンドワームの群れ。
アンジェラはそれを迎え撃つため機動外骨格スーツ・アーハンを起動する。荒廃した地上のどこかに、フロンティアセッターが潜んでいるはず。アンジェラとディンゴの、世界の謎に迫る旅が今、始まった。
スタッフ
原作:ニトロプラス/東映アニメーション、脚本:虚淵玄(ニトロプラス)、監督:水島精二、演出:京田知己、キャラクターデザイン:齋藤将嗣、プロダクションデザイン:上津康義、メカニックデザイン:石垣純哉/齋藤将嗣/柳瀬敬之/石渡マコト(ニトロプラス)、スカルプチャーデザイン:浅井真紀、グラフィックデザイン:草野剛、設定考証・コンセプトデザイン:小倉信也
CG監督:阿尾直樹、モーション監督:柏倉晴樹、造形ディレクター:横川和政、色彩設定:村田恵里子、モニターグラフィックス:宮原洋平(カプセル)/佐藤菜津子、美術監督:野村正信(美峰)、撮影監督:林コージロー、編集:吉武将人
音響監督:三間雅文(テクノサウンド)、音響効果:倉橋静男(サウンドボックス)、音楽:NARASAKI
アニメーションプロデューサー:森口博史、チーフアニメーションプロデューサー:吉岡宏起、プロデューサー:野口光一
アニメーション制作:グラフィニカ、配給:ティ・ジョイ(協力:東映)、企画・製作:東映アニメーション
キャスト
釘宮理恵/三木眞一郎/神谷浩史
林原めぐみ/高山みなみ/三石琴乃
稲葉実/江川央生/上村典子/三宅健太/遠藤大智/安済知佳
古谷徹(友情出演)
Blu-ray『楽園追放 -Expelled from Paradise-』発売中!
(C)東映アニメーション・ニトロプラス/楽園追放ソサイエティ
完全生産限定版
発売中、価格:8000+税
収録内容:本編(5.1ch/STEREO)、特典映像:メイキング、予告・CM集、特典CD:オリジナルサウンドトラック、ELISA主題歌 English Ver. 収録、キャラクターデザイン・齋藤将嗣描き下ろし三方背BOX&デジケース、脚本・虚淵玄(ニトロプラス)によるシナリオブック、縮刷パンフレット、W購入キャンペーン応募券
通常版
発売中、価格:5800+税
収録内容:本編(5.1ch/STEREO)、ティザービジュアルジャケット、W購入キャンペーン応募券(初回生産分のみ封入)
■Amazon.co.jpで購入
「40代で負けたら2度目はない」
『楽園追放』では“勝つ”ことが必須だった
―― まずは『楽園追放 -Expelled from Paradise-』の大ヒットおめでとうございます。13館と上映館数をかなり絞った公開でありながら、興行収入1億8000万円突破、動員数も11万人を超えたそうですね(2015年1月時点)。劇場限定版Blu-rayやパンフレットが最初の週で完売してしまったことも話題になりました。
野口 ここまでファンの方が増えて下さったのは、本当にうれしい限りです。……と、同時に心底ほっとしました。楽園追放は、オリジナル作品で、SFで、しかも全編3DCGというフォーマットでしたから。
そもそも楽園追放が生まれたのは、2009年7月に映像企画部という映画専門の部署が東映アニメーション内に発足し、僕も映画の企画を立てることになったのがきっかけです。
そのとき僕は、CGクリエイター出身でCGが得意なので、やるならCGしかできないからCGアニメをやりたいと考えました。でも、2009年時点では、CGアニメは日本では流行っていなかったし、ヒットの手がかりになる作品もありませんでした。そこで『CGアニメが得意なものは何だろう?』ということを探すために、原作という制約がないオリジナル作品にしたいと思ったんです。
―― あくまでCGをやりたい、というところが出発点だったのですね。確かにオリジナルなら制約はありません。けれどもオリジナルは誰にも知られていない世界観とキャラクターで勝負することになります。しかも3DCGは、お客さんにとって見慣れたものではなかったはずです。
野口 そうですね。だから制作規模も小さくて、上映館数も13館と絞られていたのですが。社内での位置づけも、同様にCG作品の『キャプテンハーロック』や『聖闘士星矢 LEGEND of SANCTUARY』は、原作の圧倒的な知名度を活かした、お金をかけて王道をいく作品であるのに対して、楽園追放は小規模なBラインみたいなものでした。
そこで、『パーフェクトブルー』や『時をかける少女』のような、アート系の学生さんなどが観に行って「このアニメすごいよね」と口コミで火が付くような単館系、という想定にして企画にGOサインが出たんです。
―― 楽園追放は、3DCGでありながら、“萌え系”のファンがついたこともエポックでした。3DCG作品といえば、質感がリアルでアクションがメインという、いわゆる萌えとは別ベクトルのものを思い浮かべたりしますが……楽園追放は、直球で萌えアニメの王道「メカ」と「美少女」でしたね。CGに、萌えを入れたいと思われた理由は?
野口 僕自身は、まず「SF映画」をやりたいという思いがありました。CGならSFでしょうと。自分はSF好きですし。
けれども同時に、プロデューサーとしては「この映画で必ず勝たなくては」とも思っていました。
―― 「映画で勝つ」?
野口 はい。興行収入1億円はどうしても達成しなくてはという目標でした。映画作りはお金がかかります。映画って、作ったら何億円も返さなきゃいけないんですよ。
僕はこの楽園追放で、初めてプロデューサーになったのですが、先輩から言われました。「勝たないと2打席目はないよ」と。30代なら失敗しても許されるけど、40代で失敗するともうチャンスは回ってこないということです。この言葉はずっと響いていて、勝たないといけないと強く意識しました。
(次ページでは、「楽園追放が80年代OVAテイストな理由」)
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