現場に聞いたAWS活用事例 第4回
MUJI passportと無印良品ネットストアで見える“顧客時間”
無印良品の顧客動向をディープに探るRedshiftとトレジャーデータ
2014年05月26日 06時00分更新
「無印良品」を展開する良品計画は、実店舗と無印良品ネットストアの統合を目指した会員制サービス「MUJI passport」を昨年から展開している。両者の十億件におよぶデータ解析を実現するべく、良品計画では2つのクラウド型ビッグデータ解析ツールを使い分けている。
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2つのクラウド型サービスでデータ解析を行なう
衣料品や家具、雑貨、日用品、食品などのオリジナル商品を販売する「無印良品」。自然の素材を活かし、生活になじむシンプルさを持った商品は、多くのファンを抱えている。無印良品の店舗は国内外ですでに640店舗に上っており、特に中国においては2013年度末に100店舗体制となっている。
このように「良品」へのあくなきこだわりと積極的なグローバル展開を続ける同社は、2013年に導入した新しい会員サービス「MUJI passport(ムジパスポート)」と無印良品ネットストアにおいて、数十億件におよぶビッグデータの解析を開始した。ビッグデータ解析により、無印良品へのロイヤリティを表わす指標とも言える「顧客時間」を測定し、顧客の行動パターンに応じたマーケティング施策を実施・検証している。こうした仕組みを実現したのが、Amazon Web Services(AWS)の「Amazon Redshift」とトレジャーデータの「トレジャーデータサービス」という2つのクラウド型サービスだ。
スマホアプリを活用した新しい会員サービス「MUJI passport(ムジパスポート)」
では、なぜ2つが必要なのか? 良品計画の目指すものは? まずは無印良品のマーケティング施策の基盤となるMUJI passportと「顧客時間」のコンセプトについて説明していこう。
既存店舗の売り上げを増やすMUJI passportの目的
MUJI passportでは、無印良品の利用に応じて「MUJIマイル」を貯められるスマートフォン用のアプリを提供している。スマートフォンのアプリでは所有しているMUJIマイルに応じてステージがアップし、買い物で利用できるショッピングポイントがプレゼントされる。また、「無印良品週間」の期間中、優待価格で買い物できるクーポンがもらえたり、欲しい商品の在庫検索が可能なショッピングガイド機能も搭載している。
MUJI passportでユニークなのは、商品の購入以外でも、MUJIマイルが貯められるという点だ。良品計画 WEB事業部 システム担当 山際高志氏は、「MUJI passportのマイルは、来店したことを示すチェックインやSNSを使った商品のクチコミ、あるいは商品へのご意見やリクエストなどでも貯まります。弊社では“顧客時間”と言ってますが、お客様が無印良品のためにどれだけ時間を使っていただいたかによって、マイルを加算する仕組みです」とのことだ。
良品計画 WEB事業部 システム担当 山際高志氏
この顧客時間の概念が、既存の実店舗とネットショップの融合施策を超える同社のユニークな取り組みの礎となっている。テクニカルディレクターとしてMUJI passportのシステム設計を担当したリヴァンプの濱野幸介氏は、顧客時間について「以前は店舗で見て、購入というパターンでしたが、ネットショップの利用が拡大し、SNSやオウンドメディアからの流入が増えてきたことで、購買行動が変わってきています。でも、POSの購買履歴だけでは、お客様が買ったという事実しかわかりません。閲覧履歴と付き合わせることで、はじめて購入までの動機付けまでを追うことができるんです」と語る。
MUJI passport導入の目的は、顧客行動の把握による既存店の売り上げ向上だ。この背景には、来客数の伸び悩みという課題があった。無印良品の売り上げの9割以上は実店舗で上げられているが、「客単価は悪くなかったのですが、前年度比で来客数が減少傾向にありました。そこで、既存店の来客数を増やし、売り上げ5%増を継続的にできるようにならないかという課題を経営陣から課せられたんです」(山際氏)という。
これまで来客数を増やすために、今までは無印良品週間などのキャンペーンに依存していたが、価格のみの来店向上施策は限界があった。「良品週間などは確かに来客してもらうきっかけにはなりますけど、本質的にはそうではない。もっと別のコミュニケーション手段を持ちたいと思いました」と山際氏は語る。こうした問題意識がMUJI passportにつながっていく。チェックインするだけでマイルが貯まるいわゆるポイントカード、コミュニケーションとしての媒体、そして来店した時に活用できるショッピングガイドという3つの機能を持たせたのがMUJI passportというわけだ。
ネットと同じコミュニケーションを実店舗でも
MUJI passportは同社で初の実店舗用の会員プログラムになる。1980年代から展開されている無印良品だが、長らくこうしたプログラムは持っておらず、顧客の購買行動はあくまでPOSデータのみだったという。山際氏は、「あくまでレシートの世界なので、2日連続で買い物してくれても、同じ顧客かどうかわかりませんでした。アンケートをとったことはありましたが、お客様が年間にどれだけ買ってくれたかといった実データを持っていませんでした」と実店舗における課題を語る。
一方、唯一会員制を取っていたのは、今回取材したWEB事業部が主導してきた無印良品ネットストアだ。ネットショップということで、会員登録が前提であり、一部でポイント制度も導入済み。WebならではのキャンペーンやSNSとの連動などの取り組みもきちんと効果を得ていたという。しかし、Webサイトから実店舗への送客施策を行なっても、効果の可否はあくまで臆測の範囲を出なかったという。
こうした経緯からWEB事業部は、2012年から売り上げを拡大させていた無印良品ネットストアの顧客分析やポイント制を実店舗に取り込む計画を立案。山際氏は、「まずは実店舗で名乗っていただくことで、お客様とコミュニケーションをとれるようになります。ネットの店舗だけで持っていた顧客とのコミュニケーションを、実店舗にまで拡げようというのがMUJI passportです」と語る。
具体的には、360万人(当時)を超える無印良品ネットストア会員のほか、ハウスカードである「MUJIカード」、メルマガやTwitter、FacebookなどのフォロワーなどのIDを統合することからスタート。これにより、MUJI passportは実店舗、ネットショップとの連動を前提とした、統合IDプラットフォームという位置づけになっている。ユニークなのは、“名寄せ”の判断をあくまで顧客側にゆだねている点。つまり、ネットストア会員とMUJIカード会員、SNSアカウントなど、IDとサービスをどのようにひも付けるかは、顧客が任意に行なう仕様になっているのだ。
(次ページ、マーケター向けと現場向けに2つのツール)
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