学校法人 池坊学園が運営する池坊短期大学は、学内のストレージとしてEMCのエントリ向けストレージ「VNXe」を国内で初導入した。既存のサーバーを仮想化し、データをVNXeに集約したことで、信頼性や性能、省エネ・省スペース、コスト効率などを満たしたITインフラが実現した。
教育改革にあわせて、ITインフラを刷新
いけばなの家元である池坊を母体にする池坊短期大学は、2012年で60年を迎える京都の私立大学である。伝統的な「和と美」の精神を重んじ、華道や茶道をベースにしたコースを展開していたが、「華道・茶道だけでは最近の高校生はなかなか来てくれません。そのため、コースのスクラップ&ビルドを行ない、時代にあわせて、仕事に直結するようなコースを作りました」(池坊学園 企画広報室/総務部 課長 馬杉慎也氏)という教育改革を今から10年ほど前に行なった。
その結果、「ビューティアートコース」や「製菓クリエイトコース」「エステティシャンコース」「医療クラークコース」などの短期大学としては珍しいコースを次々と創設してきた。もちろん、華道や茶道は必須カリキュラムになっており、「外見の美だけではなく、マナーやエチケットなどの内面の美も磨くというのを教育の柱としています」(馬杉氏)といった施策で、既存の専門学校と差別化を図ってきたという。
しかし、こうした教育改革になかなかITの導入が追いついていたわけではなく、「企業と異なり、情報が部内で閉じていたり、教員と職員間で行き違いが発生していました。ですので、PC等を入れて、情報共有をきちんと行なわなければならないと思っていました」(馬杉氏)といった状況だった。そのため、約5年前に大学教務事務用パッケージソフトやグループウェア、ファイルサーバー、Active Directory、セキュリティ管理システムなどを一気に導入したという。池坊短期大学のシステム構築や運用・保守まで手がけている京都電子計算(以下、KIP)の藤原裕己氏は、「もともとパソコンが数台あってExcelで業務をこなしていたような感じでしたが、富士通さんの『Campusmate-J』という業務パッケージを導入したことで、IT化が加速しました」と説明する。こうしたシステム構築のため、池坊短期大学では十数台のサーバーをサーバールームに導入したという。
こうしてIT化を推進してきた同大学だが、2006年に導入したサーバーが2011年に保守期限切れが訪れることになった。また、ファイルサーバーの容量も不足してきたことから、2010年秋口から総務部と京都電子計算でインフラの刷新を検討することになった。そこで、KIPでは「コストも抑えつつ、業務パッケージなどをそのまま移行させるという方針でインフラ刷新を行なうため、共有ストレージを使ったサーバーの仮想化を推していくことにしました」(藤原氏)という。池坊学園 総務部 濱田 明宏氏は、「仮想化を採用しない提案もKIPさんに用意してもらったのですが、Campusmate-Jも機能追加の予定があり、そのたびにサーバーを立てるのは大変だと思いました」と述べており、時代の流れでもある仮想化の導入を決めたという。
こうして導入されることになった仮想化のインフラにおいて、共有ストレージとして白羽の矢が立ったのが、EMCのエントリ向けユニファイドストレージ「VNXe」である。
高い信頼性と設定・運用管理のやりやすさを評価
VNXeは、1台でiSCSIのSANとNASのいずれにも対応するユニファイドストレージで、2011年の春に出荷されたばかりの新製品となる。最小構成(ストレージ・プロセッサー、300GB SASドライブ6本。サポートは含まない)が100万円を切るエントリ向けのストレージでありながら、コントローラーや電源、ファンなどが完全に二重化されており、重複排除やシンプロビジョニングなど上位機種「VNX」と同等の豊富な機能を搭載する。また、「Unisphere」というGUIの管理ツールにより、設定や運用管理が容易という特徴もある。
もとより京都電子計算はヴイエムウェアから表彰を受けるほどサーバー仮想化で高い実績を持っており、既存システムのサーバーを共有ストレージを用いて仮想化するというパターンは導入例も多いという。また、EMCの導入実績も豊富で、最近急激に増えつつある中小企業での仮想化案件においても、EMCストレージを積極的に採用している。池坊短期大学のインフラ刷新においても、発売されたばかりのVNXeを国内で初めて導入した。
藤原氏がVNXeを提案した理由としては、ストレージ専業ベンダーならではの高い信頼性があるという。「池坊学園様からも、『今や業務パッケージやグループウェアに業務が完全に依存しているので、絶対止めないでくれ』といわれました。その点、EMCのストレージは高い可用性を誇っています。VNXeではストレージプロセッサーが冗長構成になっていますし、アクティブ-アクティブの構成がとれる点も気に入っています」と評価した。また、高いコストパフォーマンスや災害対策で必須のリモートレプリケーションが搭載されている点も選定のポイントとなったという。
もう1つエンジニアとしては、Unisphereで設定や運用・管理が容易に行なえたという点も大きい。「本当に簡単にできたというのが実感です。もともと提案していたEMCのAXシリーズでもWebブラウザの管理ができたのですが、VNXeはきちんと日本語化されていますし、ウィザードが多用されているのがよかったと思います」(藤原氏)とのことで、入社3年目のエンジニアにも安心して任せられたとのこと。また、EMCに「Unisphere」のデモサイトが用意されていたので、導入前から設定のイメージができたのもよかったようだ。
多彩な機能は将来活用する予定
インフラ刷新の作業は2011年4月から準備をはじめ、先に物理サーバーから仮想サーバーへのP2V移行を実施。実際の導入は祇園祭が開催されている7月の土日を使って行なわれた。仮想化によるサーバーの集約に加え、2Uラックマウント型のVNXeを導入したことで、2本あったラック1本に減った。また、動作音も大幅に小さくなり、省エネも見込めるという。
仮想化されたのはメールサーバー、Webサーバー、キャンパスメイト、PC管理サーバー、ファイルサーバー、プリントサーバ、バックアップサーバーなど12台で、富士通のIAサーバーに集約された。これらの仮想サーバーのデータすべてがVNXe 3100に保存され、VMwareのデータストアとしてiSCSI経由でサーバーにマウントされている。サーバー仮想化でiSCSIストレージを用いる典型的な構成。導入されたVNXe 3100はデュアルストレージ・プロセッサーの構成で、HDDは600GBのSAS HDDを12台フルで搭載しているという。
VNXeには重複排除やシンプロビジョニングなどのディスク容量の効率的な利用を図る機能がいくつか搭載されているが、現状は使っていない。「ディスクの容量が厳しいという状況になったら導入していく予定」(藤原氏)とのことで、今後の増加ペースにあわせて導入を検討する。ただ、災害対策として有効なリモートバックアップに関しては、同じく池坊学園が運営する東京の池坊お茶の水学院との間で実施する計画があるという。
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