IT環境をクラウド化し、データーセンターを使うメリットとは?
自社設備でOK?企業がクラウドを使う上でのリスク管理
2010年12月01日 09時00分更新
自社設備にこだわるべきではない
ここまでの解説からわかるとおり、自社で設備を持つことは、わざわざ高いコストをかけてリスク対応レベルを低い状態に保っていることに他ならない。クラウドサービスを用いることは、コスト面とセキュリティ面から、必然であるのだ。
ただし、巷で喧伝されている「プライベートクラウド」という言葉は要注意である。これは自社専用設備であり、決してクラウドではない。リソースの拡張には資産を買い入れることになり、リードタイムもかかる。自社資産ではないサービス提供がなされる場合も、3年縛りや5年縛りといった長期間の契約を余儀なくされる。こうしたプライベートクラウドは、必要な時に契約してすぐに利用可能となり、いらなくなったらすぐに解約でき、多くの企業で共有しているからコストが安いという規模の経済性を図ることのできるようなものでない。
パブリッククラウドはインターネット必須ではない
また世の中で喧伝されているパブリッククラウドという定義もいい加減で、特にインターネットを経由しないと利用できないよう表現が大多数である。
IIJ GIOは、よくパブリッククラウドといわれる。しかし、専用線のような閉域網からも使えるクラウドサービスである。われわれは、グローバルIPアドレス空間からもプライベートIPアドレス空間からも、必要な時に必要なだけコンピューティングリソースを提供し、いらなくなったら解約できるサービスを10年前(当時のサービス名はIBPS)から実現してきている。
図2 IIJ GIOは、インターネットを経由せず、社内ネットワークから直接の利用も可能なクラウドサービスだ
Amazonのクラウドサービスの開始が2002年なので、おそらくIIJのサービスは、世界でもっとも古いIaaSの1つではないだろうか。たとえば、ユーザー企業のプライベートIP空間のセグメントを丸ごとIIJ GIOに適用することが可能である。これは、自社のマシンルームのあるセグメントを、ほぼ設定変更をせずにそのままクラウドサービスに移行できるのだ。
日本の企業が利用するなら、レイテンシの問題と法制度の安心感から日本に設備のあるクラウドサービスを用いることが第一にあると思われる。次に、自社の事業継続上どのロケーションにあるサービスなのか、どのような設計でシステム停止のリスクを回避していくのか、といったことを考えていく。
また、クラウドサービスを利用するにあたって、自社のマシンルームからの移植性やセキュリティポリシーとの親和性という観点から閉域網での接続やプライベートIPアドレスの持ち込みが可能かどうか、といったあたりが重要な判断ポイントになる。
さらにコストと可用性の関係は重要である。IIJは、企業の基幹システムや国の防災システムのような24時間365日停止できないシステムを前身のサービスから預かってきた。そのため、IIJ GIOは実績値では99.99%以上の可用性を誇っている。にもかかわらず、1日あたり133円、月額4000円からという、同じスペックのクラスでは世界でもっとも安いレベルを実現している。現時点では可用性を公表していないが、今後データを蓄積して適宜サービスレベルとして公開していくことを検討している。
世の中に溢れる意味のないクラウドの定義に惑わされることなく、企業のシステムをクラウドコンピューティングのメリットを存分に活かして預けられるのはどのサービスなのか。その際に自社の事業継続を脅かすリスクへの対策、自社のセキュリティポリシーに適合するかどうか。といった目利きがユーザー企業には益々求められている。
およそ意味のない定義や記事に惑わされることなく、本稿がユーザー企業にとって本当に必要なクラウドサービスを選択する上での考え方の一助になれば幸いである。
筆者紹介:小川 晋平(おがわ しんぺい)
株式会社インターネットイニシアティブ マーケティング本部 GIO マーケティング部長
大手メーカーの情報システム部門を経て、2000年にアイアイジェイテクノロジー(現:IIJ)に入社。プロジェクトマネージャーとして多くの案件を担当したのち、日本初のメールゲートウェイシステムの開発や、災害対策システムの提案・設計に携わる。2010年10月より現職。
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